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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:理想編
102/322

ストーク☆スター

「スズメちゃん、どうしたの?」

廊下を歩きながら、何度も背後を振り返るスズメの姿に、サリナがそう尋ねた。

「うーん……なんか最近、視線を感じるんだよね」

「…………視線?」

一緒に歩いていたイザナが疑問の声を上げる。

「ヘレネ先輩とかじゃなくて……?」

「ヘレネ先輩じゃないよ。先輩にはもう慣れたし……」

「慣れたって……」

スズメをストーキングするようなのはウィリアムバトラー2年のモード・ヘレネくらいしかサリナには心当たりは無い。

それ以外と言うと……

「ヒラサカさん何か心当たりは?」

そう、サエズリ・スズメ研究会とかほざいているヒラサカ・イザナだ。

サリナに話を振られたイザナは、口元に手をあてながら真剣な表情で考え込んでいた。

「ヒラサカ、さん?」

「イザナちゃん……?」

「ごめん、スズメ、サリナ……今日のひのきひいらぎ定例会は行けないわ」

「どうしたのイザナちゃん――?」

「ちょっと急用がね」

イザナは、スズメとサリナにそれだけ言うと、今まで来た道を走って引き返して行った。

「イザナちゃん!! ――――どうしたんだろう」

走り去るイザナの背を心配そうに見つめるスズメ。

反面、サリナはどこか不吉な予感を覚えていたが――――

「まぁ、イザナちゃんなら大丈夫……かなぁ」

そう呟いた。


一方、イザナは廊下の角を曲がるとSIDパッドを取り出し、誰かへと連絡を始めた。

「私よ――――さっきの話、聞きましたよね」

「バッチリ。モチロン」

電話の相手は先ほど話に出たモード・ヘレネ、その人。

そう、背後からスズメの後をつけてきていたのだ。

「まさかスズメをストーカーしてる不届き者が居るとはね」

「全く。でも、気付かなかった。今まで」

「私達の目を掻い潜ってスズメをストーカーするなんて――――」

「何者」

そういう2人も十分にストーカー行為を働いているような気がするのだが、ここにその事実を突っ込むような人間は居ない。

「とりあえず、連絡。サツキにも」

「そうね――――サエズリ・スズメ研究会、全員集合ね」

それからイザナの連絡を受け、シーサイドランデブー3年アストリフィア・サツキが駆けつけ、サエズリ・スズメ研究会(全会員3名)が集結した。

「それで、スズメが最近妙な視線を感じてるようなの。サツキ何か分からない?」

「――――っ」

「心当たりがあるのね」

サツキは言葉を全く発しないが、その首を縦に振っていることから何やら心当たりがあるらしい。

そして、サツキは窓の外を指さした後、その人差し指を空に向かってなぞり上げる。

「なるほど――――ソイツは屋上に居る――――そういう事ね」

イザナの言葉に、サツキは頷いた。

「行こう。屋上――――」

「そうね」

「――!」

時折、サツキが何かを感じるように空を仰ぎ、イザナとヘレネを誘導する。

その誘導に従って3人は校舎を移動しながら、上階へと上がっていった。

そして、辿り着いたのは1号館の屋上。

屋上へ至る扉を開くとそこには、物凄い大きさの望遠レンズがはめられたカメラを覗き込みながら、

「ハァハァ……サエズリ殿はサイコーに可愛らしいわぁ……」

と呟く少女がいた。

「コイツだぁぁあああああああああああ!!!!」

そいつだった。

「!? ナニ、ナニよ!?」

突然の叫び声に、肩を震わせ驚くその少女。

機甲科の制服を着ていることから、機甲科の生徒だろうという事は分かる。

「アナタが最近スズメをつけてる変質者ね――――!」

「変質者!? そんな事言われるのは心外ですしー! っていうか貴女達は……サエズリ・スズメ研究会の」

「ご存じのようね」

「ええ、よく知ってますし。サエズリ殿に不純な事を迫るヘンタイ集団ですね」

「ヘンタイじゃない。守護者。そして、愛」

「とか言いながら、その実サエズリ殿を見てハァハァしてるんでしょうし」

「くっ…………!」

イザナもヘレネも反論できなかった。

「で、でも、スズメが困らないようにハァハァしてるからから問題ないわ!」

「スズメ、困ってる。今。つまり、死ね」

「困ってるなんて言われても困りますし。そもそも、勘違いしてもらいたくないことですが、わたしはあくまで“仕事中”なんですし。邪魔しないでもらいたいですしー」

「仕事――――? スズメを見てハァハァするのがアナタの仕事?」

「まさか、サエズリ殿を見てハァハァするのは個人的な理由ですし。ですが、サエズリ殿のオフショットを大量入手するのがお仕事ですし」

「アナタ、何者なの」

イザナの言葉に、少女はふっと笑みをこぼす。

「わたしはステラソフィア新聞部のアーチペラゴ・ミュティレネですしー!」

「――――そんなの機甲科に居たっけ」

「2年生ではない」

「――――?」

サツキも首を傾げており、知らないらしい。

「チーム・ミコマジック! 1年ですし!! ヒラサカ殿と同じ学年ですしー!!!」

「こんなヤツ居たかしら…………」

イザナは冗談とかではなく、本気でミュティレネの存在を覚えていなかった。

「まぁ、誰でも良いわ。例え、仕事だろうとスズメを見てハァハァしている時点で公私混同――――! そしてスズメを困らせた時点で死刑確定! 私達サエズリ・スズメ研究会が天誅を加えるわ」

「その通り。ぶっ殺す」

「――――――!」

イザナとヘレネは拳を固めると、ミュティレネに向かって駆け出す。

その2人をサツキがゆっくり歩きながら後を追う。

「食らいなさい!」

「死ね――!」

「させないですし!」

イザナとヘレネがミュティレネに跳びかかろうとしたその瞬間、ミュティレネが手に持ったカメラを構えた。

「ブライトン・ブライト!!」

「何ですって――――!?」

「うぐっ――!」

連続で焚かれるフラッシュの明滅に、イザナとヘレネの目がやられる。

その隙に、ミュティレネは屋上を後にしようとする――――だが、その先をサツキが遮った。

「サツキ、捕まえて!」

「――――!」

「甘いわ、ブライトン・ブライト!!」

再び焚かれるフラッシュの明滅。

だが――、サツキは悠然とミュティレネに向かってくる。

「何で効果が――――あ!!」

ミュティレネは気付いた。

サツキはその両目を瞑り、フラッシュによる攻撃を無効化していた。

そして、両目を瞑っていながら正確にミュティレネの方へと向かっていく。

体中の感覚を研ぎ澄ませ、音と、匂いと、空気の感じだけでミュティレネの動きを予測しているのだ。

「流石ねサツキ――!」

「女、出来る」

フラッシュのダメージから回復したイザナとヘレネもミュティレネを捕らえようと指を鳴らす。

その時だった。

『ミュティちゃん、飛び降りちゃって!』

「――!! グッタイですねー!!」

ミュティレネは、イザナとヘレネの居る方でも、階段の入り口前から迫るサツキの方でもなく、間にある手摺から身を乗り出すとそこから飛び降りる。

「何ですって――!」

身を投げ出したミュティレネを、1騎の機甲装騎が受け取るとその場を離れた。

タイプは偵察機能や情報統制機能に長けたラグエル型の装騎で名称はジャーナル。

「チーム・グートルーネ4年。ノーサウェイスト・ナタネ――――新聞部、部長」

「あの装騎の後を追うわよ」

「モチのロン」

「――――っ」

機甲装騎輸送の申請を出しながら、階段を降りようと扉に近付いた瞬間。

その扉が開き、そこから2人の女子生徒が姿を見せた。

「ここは行かせませんよ! ステラソフィア新聞の為に!!」

チーム・グートルーネ3年アサズミ・ヒヨ。

新聞部副部長。

「正直、メンドーだけどね」

チーム・ミコマジック2年タイラー・スロトフ。

新聞部幽霊部員。

「アナタ達、全員新聞部ね――――」

「その通りです」

「どうしてこんな事を――――!」

「正直、わたしもあんなヘンタイ女の力を借りるのは癪なんです。が、どうしても期待のエース、サエズリ・スズメさんのプライベート特集を組むためには仕方のないことなんです」

「私は駅前にある高級洋菓子店のケーキが食べたいだけだ」

「イザナ――――行く。先に」

「――――私が?」

「相手が装騎。つまり、イザナ――――」

「――――!」

サツキも頷き、イザナが行けと促す。

「分かったわ。ヘレネ、サツキ――――死なないでよ」

「モチ」

「――!!」

「おっと、そう簡単には行かせませんよ――」

もちろん、イザナが行こうとしてもそうやすやすと通してくれるはずはない。

だが、そんなことは分かっている。

ヘレネが静かに前に出ると何かを呟き始めた。

「ライ・ヴォルト・ドーヴェ・リヌ マイヒ イェラ――」

ヘレネの言葉に大気の雰囲気が変わる。

それは、魔術だった。

静かに起こったそよ風は、偶然か、必然か。

「イーマ・ホルフス・グレッテン・ヴォルト――――!」

ヘレネが流暢に言葉レレリリと唱えると――突如として、強力な旋風が吹き荒れた。

それは、風を巻き起こす魔術――――そう、モード・ヘレネは魔術使だ。

それも、テレシコワ・チャイカなどとは違い、生身でも多少の魔術なら行使が可能な魔術使。

吹き抜ける風に乗じて、イザナはその場を突破する。

「しまった――――!」

「ケーキが――――!」

その後を追いかけようとする2人だったが、イザナは捕まらない。

階段を落ちるように飛び降りると、素早く1階へとたどり着いた。

「ヒラサカさんには逃げられましたが――――貴女達2人を倒して追いかければいいだけですね」

「そして、ケーキを手に入れるのだ……」

「させない――――守る。スズメを!」

「――――っ!」

それから、ヘレネ&サツキはヒヨ&スロトフ相手に戦いを繰り広げる。

その間に、イザナは自身の装騎アイロニィに乗り込むと、周囲をスキャンしながら先ほど装騎ジャーナルが走り去った方へ向かって走る。

「見つけた――――!」

「見つかったァ!?」

思いのほか早く追いついたイザナに、ナタネは驚きの声を上げる。

「くっ――――ヒラサカ・イザナさん! アナタの目的は何なの!?」

「私の目的はこの女にスズメのストーキングをやめさせることよ」

イザナが指したのはモチロン、ミュティレネ。

「この女は危険――――アナタにはそれが分からないのかしら?」

イザナの言葉に、だが、ナタネは言った。

「ミュティちゃんがアブナイ娘だと言うのは十分承知しているわ」

「――――それならっ!」

「ですが、ミュティちゃんの女の子に対する執念と愛情から生まれる最高の赤裸々写真――――それが私達ステラソフィア新聞部の求めるモノなんですよ!」

「最高の写真の為になら、悪魔にでも魂を売るという事なの!?」

「モチのロン、です!! それが、私達ステラソフィア新聞部なのです!」

「くっ、ゲスめ――――っ!! 言っても聞かないのなら」

「装騎バトルをしようってーの?」

「その通りよ!」

イザナの装騎アイロニィはナイフ・クサナギを手に構える。

それに対抗するように装騎ジャーナルが奇妙な形の銃を取り出した。

機関銃であるMidG32オルム銃撃砲にカメラや各種センサーが装備されたナタネのカスタム銃。

通称、スネーク。

ナイフ・クサナギを構え駆け寄る装騎アイロニィに向かって、装騎ジャーナルはスネーク銃撃砲の銃口を向ける。

「さぁ、やっちゃいますよっ」

ナタネの言葉に従うように、装騎ジャーナルがその引き金を引いた。

ガガガガガと放たれるスネーク銃撃砲の射撃は恐ろしく正確に装騎アイロニィを捉える。

「なんて正確な射撃なの……ステラソフィアにまだこれだけの騎使がいたなんて」

「私は新聞部ですが、専門は動画撮影なんですっ。移動時のブレや相手の動きを先読みして被写体を正確に捉える――――カメラワークによって高められたこの射撃、侮って貰っては困っちゃいます!」

そして、スネーク銃撃砲は機関銃。

並の短機関銃サブマシンガンなんかよりも威力は遙かに高い。

最軽量であるヘルメシエル型装騎をベースにした装騎アイロニィでは、その強烈な反動に連続で晒されるだけでも脅威となりうる。

「ヒラサカ・イザナさんの戦いは新歓で存分に見せてもらっちゃいましたからねー。予行練習もバッチリですよ」

「まさかこんな伏兵が居るとはね……」

「ステラソフィア4年は伊達じゃないんです!」

「なら……これならどうかしら」

不意に、装騎アイロニィが装騎ジャーナルへ一瞬、背を向けた。

「何っ!?」

その瞬間、装騎アイロニィは空高く跳躍。

「まさか……ムーンサルト」

「――ストライクッ!」

宙を舞った装騎アイロニィは、衝撃を殺すように装騎ジャーナルの背後へと着地する。

そして、装騎ジャーナルの首元へとナイフ・クサナギをあてがった。

「まさか、私がムーンサルト・ストライクを使えないと思ったのかしら?」

「……くっ、ムーンサルト・ストライクはサエズリ・スズメちゃんの技…………その先入観を消せなかった私の、負けですね」

「それじゃあ、ミュティレネを出しなさい――――スズメの写真のデータを渡せば私達は何もしないわ」

「くっ――――ですが――――――っ!」

「部長! もうやめましょう……!」

そう声をかけたのは――――新聞部副部長アサズミ・ヒヨだった。

気付けば、ヒヨとスロトフ――そして、ヘレネとサツキもその場に来ている。

「どうして、でも、もう今回のネタは無いのよ!」

「駅前の高級ケーキ店の取材にしよーよー。今度の新作ケーキの取材がしたいよー」

「ですが、あのケーキ屋は高すぎて、そう易々と取材に行くわけには――――」

「問題ない」

そう口を開いたのはモード・ヘレネ。

「私達。奢る」

「なん、ですって!!??」

そう、それは少しばかり前まで遡る。

ヒヨとスロトフに道を塞がれたヘレネとサツキ。

イザナを先に行かせはしたものの、不毛な膠着状態が続いていた。

そんな時、ヘレネが放った一言。

「部長、説得する。つまり、高級ケーキ、奢る。どう?」

「ケーキ!」

「タイラーさん! 揺さぶられてはいけませんよ!」

「イザナ、抜けた。どうせ貰えない。ケーキは――でも、ここで見逃がせば」

「ケーキ、確実! ヒヨ――――戦いは空しい。もう、やめようよー」

「くっ……! 私は、負ける勝負はしない主義です」

という事があった。

「分かった――――今回の特集は駅前の高級ケーキ店の新作ケーキにするわ。ミュティちゃん」

「えー、嫌ですしー」

「勝負に負けちゃった以上――――仕方ないじゃない」

「それで、ちょっと悪いんだけど」

問題が解決したことを確認したイザナが口を開く。

「何ですか――?」

「さっきのムーンサルト・ストライクで脚部がヤバいのよ……運ぶの手伝って欲しいわ」


「と、いう事があっちゃったので、今回は新作ケーキの特集に決まったから!」

「部長、それは良いけど……」

そういうのは、今回の騒動には参加しなかったチーム・ジャスティホッパー所属の3年ファクティア・キティだった。

「そんな事してたんですか? オレ全然知らなかったんですけど……」

「キティちゃんはこういうの嫌いでしょ? 知られたら妨害されそうだったから黙っちゃってたのよ」

「だろうね……」

「キティちゃんも来ちゃうでしょ? ヘレネちゃん達の奢りだしね」

「まぁ、ケーキが食べれるなら」

その後に出されたステラソフィア新聞の新作ケーキ特集は大好評だったが、イザナとヘレネのサイフが激しい打撃を受けたのは言うまでもない。

サツキも払ったのだが、

「サツキは良いわよ。なんか申し訳ないし」

「同感……」

ということで2人で負担することになった。

そんな感じで、とりあえずはミュティレネのストーカー問題は解決した。

「まぁ、女の子なら大好きですし、あの時とったヒラサカ殿の写真で十分ですしー」

とかミュティレネが言っていたのは、イザナは知らない。


挿絵(By みてみん)

ステラソフィア新聞部


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