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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:理想編
101/322

猫と聖女と雀とフニャト

地下街から出てきたスズメは、ステラソフィアへ帰ろうとカナンの路地裏から表通り目指して歩いていた。

「フ――――ッ!!」

不意に、曲がり角の先からそんな声が聞こえる。

これはネコだ。

ネコの声が聞こえた。

「怖くない――怖くないよ……」

それと一緒に、そんな声が聞こえてくる。

スズメはそっとその声の方へと近づいた。

何故ならば、表通りに出るためにはそこを通らないといけないからだ。

とりあえず、邪魔だけはしないようにスズメはそーっと、そーっとその角を曲がった。

「――――――誰っ」

不意に、スズメの喉元にナニカが突きつけられる。

布が巻かれていて何なのかは分からなかったが、1メートル半程の長さで、まるで剣のような形――――だが、その刀身と言える部分は太く、厚くなっていた。

これは――――槍だ。

「ぅわぁ!? ちょっ、タンマですっ!!」

慌てて両手を上げるスズメ。

「ニ゛ャアー!」

驚いたのか、三毛で少しぽっちゃりしたネコが鳴き声を上げながら路地裏へと逃げて行った。

「――あ」

スズメの喉元に槍を突きつけたまま、ネコが消えた路地裏へ寂しげな視線を向けるのは少女。

栗色のおさげ髪にどこか鋭く冷たい瞳――――スズメは彼女の姿に見覚えがあった。

「サクレ、マリア――――さん」

彼女はスズメの憧れる騎使サクレ・マリア、その人だった。

マリアは、スズメが全く敵意を持っていないという事を理解すると、静かに槍を下すと背中へ担ぐ。

「御免なさい……気配を殺そうとしていたから、何か悪いものかと思ったの」

「いえ、こちらこそ……えっと、あなた――マリアさん、ですよね? サクレ・マリアさん」

スズメの言葉にマリアは静かに頷いた。

「わぁ……! あ、あのっ、私はスズメって言います!」

「サエズリ・スズメ――――?」

「私の名前を知ってるんですか!?」

「ええ――ステラソフィア女学園の新入生歓迎大会。私も見てたもの」

「光栄です――――!」

憧れの騎使に名前を知っていてもらえた事へ純粋な喜びを見せるスズメ。

「そう、貴女が――サエズリ・スズメ……」

一方マリアは、静かに、何かを飲み込むように、そう呟いた。

「マリアさんは――ネコ、お好きなんですか?」

「――――――好き」

そう言ったマリアの表情はどこか柔らかくなっていて、本当にネコが好きなんだという事がスズメにも伝わる。

「でも、それだけじゃない……」

マリアの言葉にスズメは首を傾げる。

それだけじゃない、とはどういう意味なのだろうかと。

「さっきのネコ……ケガをしていたわ」

「ケガ――――ですか」

「そう。だから、手当てをしようとしたのだけど」

「逃げられてしまったんですね……私の所為で」

「私の所為よ――――それよりも、私はあの子を助けたいの」

マリアの言葉を聞いて、スズメは決心する。

「分かりました――私も協力します。ネコちゃんを一緒に探しましょう」

スズメとマリアは二人で一緒に先ほどネコの姿が消えた路地の奥へと足を進める。

あまり驚かせたりしないように、慎重に、慎重にだ。

路地裏に放置された様々なゴミ箱だったり、装騎の部品だったり、エアコンの室外機だったり――――そういったものの隙間も用心深く見ながらネコの姿を探す。

「あ、あのネコじゃないですか?」

スズメが指差したのは放置されている機甲装騎の部品と思しき残骸の山――その中。

「ちょっとぽっちゃりしてる三毛猫。多分――――そうでしたよね」

「もしかして――――見えたの?」

「一瞬でしたから――見間違えかもとは思ったんですけど」

そう、スズメがネコの姿を見たのは一瞬。

だが、その一瞬でネコの特徴を捉えたスズメに、マリアは内心感心する。

「そう、あの子――――私が探しているのはあの子よ」

そう言いながら、マリアは静かに屈み込むと、ネコと目を合わせた。

「それですよ!」

「――――ソレ?」

「ネコちゃんと正面から目を合わせるのは威嚇をしていることになるんです! ――――ってネットに書いてました」

「威嚇――――」

「目が合ったときはゆっくりと瞼を閉じると敵意が無いってことを表す――――みたいですね」

スズメはSIDパッドを触りながら、そう言う。

「なるほど――――ゆっくり、閉じる」

マリアはそういうと、ゆっくりと目を閉じてみる。

「どう?」

「――――よく分かりませんね」

「…………そうよね」

横目でネコを確認しながらマリアとスズメは話をする。

「そういえば、仰向けになってお腹を見せるっていうのもありましたね。漫画で」

「漫画」

「漫画ですが」

「やってみる」

マリアはそう言いながら槍を地面に置くと、その場に寝そべってネコに向かってお腹を見せる。

横目でネコを見るが、だがどうしても警戒を解きそうには無い。

「やっぱり、最後は力尽く――――いえ、心と心をぶつけ合うしか――――無いんですかねぇ」

「心と――心を――――」

マリアは何かを決心したのか、ゆっくりと、ネコが隠れる残骸へと近づく。

そのネコはいまだに怯えたような、警戒するような姿を見せるが、その残骸の中には逃げ道が無いらしく動かない――というより動けなさそうだ。

「大丈夫……大丈夫だよ」

マリアは静かにネコへと手を伸ばす。

そして、そっとつかみ上げた。

「――――やった!」

「大丈夫、よ」

だが――――

「ニャア!!」

不意に、ネコがマリアの手へと爪を立てる。

「――――っ!!」

突然の痛みに表情を歪めるマリア。

その隙に、ネコは装騎の残骸の上に飛び乗ると、その残骸を蹴り逃走しようとした。

瞬間、装騎の残骸が崩れ、ネコもそのなだれに巻き込まれそうになる。

「マズい」

「マリアさん!」

マリアはそのなだれの中に、躊躇なく突っ込むと、ネコを両腕で抱きしめ崩れ落ちる残骸から守ろうとした。

ガッシャーン!!

と大きな音が鳴り響く。

「マリアさん!!」

崩れ落ちた残骸。

マリアは――――何とかなだれの直撃を受ける事は避けられた。

それは、咄嗟にスズメがマリアの槍を使い、マリアの上に屋根を作ったからだ。

マリアの槍が比較的幅広で刃がくの字型に折れ曲がっている事も幸いした。

「マリアさん、ケガはないですか!?」

「ええ。スズメちゃん――助かったわ」

助け出したネコを抱きかかえるマリアがスズメに礼を言う。

ネコは抵抗することを諦めたのか、今の出来事で少しはマリアを認めたのか、それとも放心してるのか――――全く判断は出来ないものの、大人しく抱かれていた。

ネコの右前脚は赤くなっている部分があり、それがマリアの言っていたケガなのだろう。

「そのネコ――――手当してあげるんですね」

「――――うん。そして、仲良くなりたい」

「大丈夫ですよ。マリアさんなら」

「――――そう、かな」

「そうですよ」

「ありがとう」

そういうマリアはすっごく穏やかな表情で、スズメは今までマリアのことを雲の上の存在のように感じていた。

でも、彼女も自分と同じような――――普通の人間なんだと感じる。

そして、そう分かったことで、スズメはマリアへの憧れがさらに増した。

「そうだ、面倒を見るんだったら名前とか付けてみたらどうですか?」

「名前……」

スズメの言葉にマリアは暫く考えるような間――――そして、口を開く。

「フニャト。この子の名前は、フニャト」

「フニャトですか――――可愛い名前ですね」

スズメとマリアはその後別れ、スズメはステラソフィアへと帰った。

「あ、どうせならサインとか貰えば良かったです……」

そう思ったのは、その次の日の朝だったとか。


ステラソフィアキャラクター名鑑44

挿絵(By みてみん)

デュエルゲームのチャンピオン

名前:Sacre Maria

読み:サクレ・マリア

生年月日:聖歴152年7月22日

年齢:15歳(4月1日現在)

出身地:マルクト神国カナン

身長:150cm

体重:40kg

使用装騎:PS-A4S:Magdala(ベース騎PS-A4:Abdiel)

好みの武器:霊子砲ロンゴミニアド内蔵型突撃槍ロン

ポジション:フロント

突如として彗星のように現れた謎の超有力騎使。

グローリアと言うデュエルゲームクランに属し、クラン内では「エースのマリア」の異名をとる。

クラン・グローリアのリーダーであるコンラッド・モウドールが拾ってきた少女と言う以外の詳細は表向きでは不明。

両親が死亡し、生きるためにカナン郊外のスラムで娼婦をしており、そこからモウドールに助けられた過去があるが知られていない。

趣味は黄昏時に風にあたること。

個人的な声のイメージは茜屋日海夏さん。

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