[壱]話(8)強者と偽者
鬼無里です
ついに本気のバトル突入です!
よろしくお願いします。
~旧体育館にて~
「哉夢さん!」
唯火が喜びの声を上げる。
「すまんな唯火。少しばかり遅れてしまって――、さて唯火と【クロノウデワ】を返してもらおうか?」
唯火の状態を確認した哉夢は、その視線を木崎へ向ける。
「ハッ、余裕だなァ~樹里哉夢。オマエ、オレを誰だと思ってンだァ?」
木崎の目に殺気が表れる。
「ウオラァァァァァァァ!!!」
木崎が右足を振り抜いた。
哉夢とは20メートル以上離れていた――が、
――その蹴りによって生み出された風圧が斬撃に姿を変えて襲いかかった。
【鎌鼬】(カマイタチ)黄系統の能力により蹴りの風圧を加速、赤系統の強化によって斬撃に強化し切り裂く技である。二つの系統の異能を使いこなすことと、そのタイミングの演算が難しいため高難度のランク5に指定されている大技で、この学校でも使いこなせる生徒は木崎を入れて3人しかいない。
無色透明のその斬撃を避けることが難しく威力も申し分ないため戦場では必殺の異能としておそれられている。
“ズパーン”
と切れ味のいい太刀音が体育館にこだまする。
哉夢も避けられずに受けてしまう。
「――おっかしーなー、この技は厚さ50センチの分厚い鉄板もブッた切れるはずなんだけどな~」
哉夢は相変わらず何事もなかったようにその場所にたっているが、制服の胸よりすこし下の部分切れていた。
「いいね、オマエ面白ェよ、もっともっと楽しませろよ!オラ!」
続けざまに斬撃を繰り出す。1発、2発、3発……正確に哉夢の体をねらっていく。
哉夢は蹴りの方向から斬撃の形を読みとりどうにかかわしていく。
「なら、こんなのはどォダ」
木崎は手刀を使い斬撃を増やしていく、
「オラ!オラ!オラ!オラ!オラァァァァァァ!!!!」
その斬撃を6発連続で繰り出し一つの大きな斬撃と変える。
“ゴウッ”
と、避けきれない程の大きさの斬撃が唸りながら哉夢へ迫っていく。
「【地獄の業火】(ヘル・フレイム)」
避けられないことを察知した哉夢は、【地獄の業火】(ヘル・フレイム)を呼び出し、斬撃へとぶつけた。
“バシュウ――”
巨大な斬撃と黒い炎がぶつかり合い相殺して消滅した。
一瞬静寂が場を包む。
「……ヒャハ、……ハハ、ギャハハハハハハハハハ!!」
木崎が狂ったような笑い声でその静寂を破る。
「おンもしれーよオマエ!最ッ高だねェーー!!――だがまァ、とりあえず死んどけ」
すると今度は、無数の斬撃を繰り出した。
「くっ……、」
【地獄の業火】(ヘル・フレイム)を広げて盾を作り、斬撃の雨を何とかしのぎきる。
「遅ェ!」
斬撃が終わると同時に木崎はすでに加速を使い哉夢の目の前に詰めていた。
「!」
「ヒャハ!」
木崎が手刀を突き出す。
“ビッ”
哉夢の頬をかすめ血が噴き出す。
「オラよ!」
続いて右足の蹴りが哉夢の左側の頭部へと繰り出される。
哉夢は、これを受け止めずに上体をかがめてかわした。
“ズパーン”
哉夢の背後の壁が切れた音が耳に入った。
「遅ェぞ!遅ェぞ!」
木崎は間髪入れずに左手の手刀を振り下ろす。
哉夢は右手に黒い炎をまとって受け止めるが、斬撃強化だけでなく肉体強化された木崎の重い一撃を受けて後ろへ吹き飛んでしまう。
「ヒャハ!ヒャハ!ギャハハハハハハハハハ!!どうしたンですかー?ヒーローさんよォオ!!」
哉夢は頬から血を流しながらゆっくり起きあがる。
「……アンタ強いよ。僕が出会った中での一番の強者だよ。……だから――、本気で行くことにするよ」
すると哉夢の前の空間が歪みだした。そしてその中に哉夢は手を突っ込み、中から二つの剣をとりだした。
――右手の剣は【勇気の剣】(ブレイブ・ソード)どこまでも真っ直ぐ綺麗にのびている剣であった。
――左手の剣は【嘘つきの剣】(ライアー・ダガー)大きく湾曲した曲刀で、禍々しさを感じる。
「……ハッ、いいね!いいね!本当にオマエ面白ェよ!」
哉夢は右手を振り下ろす。すると黒い斬撃が木崎へと襲いかかった。
「ハン!」
木崎は【鎌鼬】(カマイタチ)の斬撃をぶつけて受け止めるが、
“ズバン”
と相殺されずに黒い斬撃が【鎌鼬】(カマイタチ)の斬撃を切り裂いたのだ。
「チッ!」
悪態をついて木崎はその斬撃を横に飛んで避ける。
そこに距離を詰めていた哉夢が今度は左手を横へ薙いだ。
黒い斬撃が放たれるが、今度の斬撃は湾曲しながら巨大化し避けられないほどの大きさのふくらんだ。
木崎は肉体を硬化させながら防御態勢をとる。
黒い斬撃が木崎へ襲いかかったが、
――何も起こらない。
「ハァ?どいうことだこりゃァ?」
そこへ間髪入れずに哉夢が両手で斬撃を放つ。
「クッ!」
回避した場所に哉夢の剣が襲う。
とっさに木崎は、両手を斬撃強化しその剣を受け止めた。
「勇者は、真実を貫き。嘘つきは、はったりをかます。これが僕の異能だ」
「ハァン、なるほどねッ!」
木崎は二つの剣を払う。
――【勇気の剣】(ブレイブ・ソード)は、どこまでも真っ直ぐ飛んでいく斬撃を生み出す。その斬撃は、如何なるのもでも止めることはできない。
――【嘘つきの剣】(ライアー・ダガー)は、湾曲した斬撃をだまして相手に幻影を見せる剣で。実際には斬撃は飛んでこない。
「二度は、同じ手は通用しねェーぞ!」
「だろうね。――だからすでに手はうっといた」
“パチン”
と哉夢は指を鳴らした。
そこで木崎は気づいた。いつの間にか漆黒の炎で周りを囲まれていることに。それも一つ二つではない、五十,百,二百,五百,千……、数え切れないほどの炎が木崎を囲みまるで闇夜のごとく周りを黒く染めていた。
「なンだとォ!」
木崎は気づいていなかった。すでに彼は幻影を見せられたことに。
【嘘つきの剣】(ライアー・ダガー)斬撃をだまして如何なる相手にも幻影を見せる剣。
木崎は見せられた=魅せられたのだ。
「チェック・メイトだ」
“パチン”
ともう一度ならすと黒い炎が一斉に木崎へ襲いかかった。
ありがとうございました。
次話で[壱]章完結予定です。
どうぞよろしくお願いします。