[壱]話(7)才能人と災悩人
鬼無里です。
どうもよろしくお願いします。
人だけが人を殺すことができる。
他の動物も人を殺せるってかァ、そォだな、オレの言い方が悪かったかもしれねェ。
確かに動物だって人を殺す。獣の鋭い牙で喉をかっ切りャ死ぬし、太ェ足に踏み潰されたって死ぬ。または、虫の毒で細菌でウイルスで、簡単に殺せちまう。
だがまァ、それは事故にしかならねェ。
動物が生きるためだけに殺した、無意味で無関係で無価値な起こってしまっただけの事故でしかねェ。
事故はどこまで行っても事故で事件にはならねェ。
単なる殺生は殺人じゃァねーんだよォ。
だがそこに人が関わると事件になっていくんだよォ。
ライオンが人を襲うのではなく、
人がライオンを操って人を襲わせるとかよォ。
虫が毒針で人を刺すのではなく、
人が虫を放して毒針で刺させるとかよォ。
ウイルスが流行するのではなく、
人がウイルスをばらまいて流行させるとかよォ。
人が関わってしまえばよォ、意味を持って関係ができて価値がついてしまえば、ソイツは立派な事件で殺人に変わってくンだァ。
そォだな、言い直すとすンなら、
人だけが殺人として完全に人を殺すことができンだァ。
そォやって人は人を殺してくンだよなァ。
強さで、弱さで、賢さで、愚かさで、嘘で、真実で、偽りで、本質で、欺きで、疑いで、信頼で、悲しみで、喜びで、怒りで、楽しさで、哀れみで、恥ずかしさで、
いつだって、どこだって、誰だって殺してきたァ。
勝つために、負けねェために、死ぬなねェために、生き抜くためにとかよォ。
様々な理由でよォ、
目的のためにいろンなヤツを犠牲にしてブッ殺してきた。
そォやって殺し続けてきた。
昨日も今日も明日も……。
なンだかなァ。
いつかオレも殺されるンかもしれねェ。
その日が目的を果たした後であることを願うだけだァ。
~体育館裏その後~
哉夢はまだ体育館裏にいた。
彼らから能力を使って木崎についての情報とここで起こったことについての記憶をとっていた。
「やりすぎたかな……」
哉夢は後悔していた。明らかにやりすぎたのだ。
哉夢が最後に放った漆黒の炎は【地獄の業火】(ヘル・フレイム)と言う技で、この世にはない黒き炎によりすべてのモノを滅却するというモノだった。
もちろん手加減はした。外傷もほとんどないようにコントロールした。しかしそれは放った後にだった。
哉夢は途中で理性を失っていた。感情に支配されてしまったのだ。
「やっぱり才能ないや……」
改めて言うが彼には才能がない。【闇夜の支配者】(ダークネス・ロード)という災いを持っていても結局哉夢は完全に支配できていない。感情に振り回され暴走させてしまうのがオチだ。
その証拠と言うべきだろうか、彼は怒り狂うと僕ではなく《俺》というモノがでてきてしまう。二重人格というわけではない。《俺》も哉夢であり僕も哉夢である。どちらが本物というわけでもない。どちらも哉夢の本質でありどちらも最も哉夢に近い存在である。
哉夢はいつもその二つとつきあってきた。向かい合ってきた。そしていつも後悔してきた。
それ故思うのである、
――どうして、自分には才能がないのに【闇夜の支配者】(ダークネス・ロード)と言う災いを背負わなくてはならないのか。
そんなモノの答えなどどこを探したって見つかるわけがないモノのであることは哉夢自身解っていた。
そしてこうも思うのであった、
「こんな災いが他の人に降りかからなくて本当に良かった……」
おそらく彼はこの災いに一生悩み続けるだろう。
だがその役目が自分で本当に良かったと安堵していくのであった。
~旧体育館にて~
唯火は束縛されていた。
どうにか抜け出そうと縄をほどくために能力を使うのだがどうもうまくいかない。
どうやら特殊な素材で作られているために能力が発動できないようだ。
「一体何が目的なんですか!」
唯火は自分をさらった張本人に問いつめる。
するとその張本人は立ち上がって唯火の方を向いた。
身長は、唯火より頭二つ分ぐらい高いだろうか。
攻撃的なつり目が特徴的な顔をしている。
「別に、テメェには用はねェよ」
茶髪を掻きながらめんどくさそうに返答する。
「だが、テメェはよォ。確か樹里哉夢と同じ部活に入ってンだろう?」
分かりやすいぐらいに表情と声のトーンが変わる。
「オレはソイツに用があんだ。だからテメェをほぼ無傷の状態でここにつれてきたって訳だァ」
やせている体格が禍々しさを呼ぶ。
「つまりテメェは人質って訳だよ」
ヒャハ、ハハハハハっと
狂ったように嘲笑する。
「……」
唯火は黙り込んだ。
「――ン?テメェ面白ェな。ふつうはここで恐怖したり不安になったりしたりするもンなンだけどなァ?」
「哉夢さんは絶対に来ます。それにあなたの用に盗んだ魔法具で強くなっているような人には絶対負けません!私は、哉夢さんを信じます!」
「ほォ……、そうかいそうかい。イヤー人気があるんだなァ」
特に何も表情にせず足下の石を拾う。
「それなら、さっさと出てこいよォ、ヒーローさんよォ!!!」
その石を入り口に人間ではあり得ない速度で投げつける。
“ドォォン”
入り口は砕けて砂埃が舞う。
「言われなくてもやってきましたよ。才能人木崎霧弥さん」
その砂埃がはれるともに哉夢が現れた。
どうもありがとうございました。
さていよいよ[壱]章もクライマックスです。