[壱]話(3)異能災害研究部(ISK)と劣等生
鬼無里です。
よろしくお願いします。
~生徒会室にて~
誰もいない生徒会室に哉夢と悠子は来ていた。
というよりは、歩くことさえも困難だった哉夢を悠子が生徒会室に運んできていた。
もちろん、現場にいた生徒たちの疑問・疑念や、その場の後処理などいろいろ問題はあったがそれはすべてほかの生徒会役員に任せてきている。
そして今現在、二人が何をしているのかというと、
――倒れて寄りかかっている哉夢の体を悠子が支えていた。
これでは語弊がありそうなためもっとストレートに言うことにしよう。
――二人は抱擁していた。
つまりは、
――二人は抱き合っていた。
あまりに唐突で、何の脈絡もない話だが目の前で起きている事実であり現実だった。
もしここに人が一人でもいたら殺し合いになってたであろう程の産物である。
だが別にこの抱擁は、何の意味もなくだだ抱き合っているわけではなかった。
その証拠として、哉夢の目には何の感情も映っていなかった。(悠子は別として)
次の瞬間に悠子の背中から白い翼が生えだした。白くて、純白で、どこまでも清らかで、限りなく輝いていて、これ以上ないほど美しい。まるで天使のような翼だった。
その翼が哉夢を包み込んだ。
優しく温かく。
するとどういうことであろうか、
彼の傷という傷が跡形もなく消えていった。
曲がらない方向に曲がった左腕も、切り傷・擦り傷が目立った両足も、痣がひどかった顔も、ましてや破れてぼろぼろになった制服でさえ、きれいさっぱり治っていた。
「――ありがとう」
「どういたしまして」
少しばかりの沈黙がその場を流れる。
「……私は、サイくんを苦しめる人間が憎い。
サイくんがどれだけ耐えているのかも解らずに苦しめる彼らを私は許せない。
だから――、」
その沈黙を切り裂くように彼女は言う。
「――私は、人間が嫌いだ。」
彼女は言い切った。はっきりとした言葉でちゃんとした自分の意思を持って。
人間を憎悪し拒絶し、そして嫌悪した。
また場を沈黙が流れる。
「はは、全く生徒会長の言葉だとは思わないよ。」
今度の沈黙を破ったのは哉夢のほうだった。
「……ありがとう」
「――無理に我慢しなくていいのよ。
サイくんならあんな奴らすぐに倒せたでしょう?」
「それこそ無理なことだな。僕は平凡で平凡なただの人間なんだぜ」
「いいえ、それは違うわ。サイくんがいくら平凡を装っても、どれだけ平凡で外見を偽っても、中身は――、本質は変わらないわ。サイくんは、災いと呼ばれる異能の原点【闇夜の支配者】の能力を発現させ、押さえ込み、唯一使いこなすことができる者なのよ。もう人間などという存在を越えているのよ。そう、言うなればサイくんは、異次元の王――、異能の覇者なのよ。」
「異次元の王、異能の覇者か」
そこで一旦言葉を句切ると、悠子から離れ先程とは違いしっかりとした足取りで哉夢は歩き出した。
「僕は悠子が思っているほどすごい奴じゃないよ。結局その能力と感情に踊らされているただの凡人だ。――その災いの能力に悩んで生きる災悩人だ。」
哉夢は、生徒会室のドアノブに手をかけこう言った。
そしてそのままその場を後にしたのである。
逃げているかのように。
~異能災害研究部(ISK)部室にて~
異能災害研究部(ISK)は、哉夢の所属している部活動である。そして彼はここの部長を務めている。というのも、この部活動の創設者が哉夢なのである。何故彼がこんな部活を作ったかについては、また後ほど話すことにしよう。
哉夢は、部室の戸を開けた。
「お、哉夢。遅かったな。話は聞いたけど大丈夫か。」
一番最初に気づいた真太が本を読むのを中断して哉夢に声をかけた。どうやらこの友人は、騒動のことを聞いてもなお哉夢のことを待っていたようだ。
「遅れてすまん。それにどうやら心配をかけてしまったようだな。」
そんな友人に心からの謝罪を返す。
「そうですよ~哉夢さん。いくらなんでもAクラスを三人相手にするなんて無茶すぎます。私、心配で心配で」
その言葉を聞いてお茶を入れていた女子生徒が感想を漏らす。
彼女の名前は、佐々木唯火哉夢の同級生で、哉夢と同じくEクラスである。身長は哉夢より頭一つ分小さく、ショートヘアーの黒髪が似合っている可愛い系の女子生徒である。
「まあ、それだからこそ哉夢なんだけどさ」
真太が心配性の唯火をなだめながらお茶を受け取る。
「あ、そうだこれ。頼まれていたヤツ」
哉夢は懐から全く無傷の紙袋を取り出した。
「おお、サンキューな」
ふつうに受け取る真太。
「ええっ!まさかそれを抱えながら三人を相手取ってたんですか!」
ふつうに受け流すことができず驚く唯火。
「だってそこら辺に置いて置いたらとられそうだったし」
それをきいて絶句する唯火。
「ま、そんなことをしてしまうのがウチの部長さんなんだけどね。――桂馬もらい」
「全く、そんな余力があるのなら全力で戦えばいいのに。――これで王手だ」
奥から将棋を指す音とともに二人の声が聞こえてきた。
王手をかけられた男子生徒が、千羽尚人哉夢より少しばかり背が高く、活発な容姿をしている。
王手をかけた女子生徒は、川霧沙喜哉夢と身長はほぼ同じで落ち着いた容姿をしている。
「でもウチの部長が本気を出したらやばいんじゃないの。――よいしょっと」
「だからってそれで倒れたら意味無いでしょうが、この部室も無くなっちゃうし。――ありがたく飛車はいただくわ」
「そんなことしたらまず学園が無くなると思うけど。――銀が泣いているぜ」
「確かに、あの生徒会長ならやりかねないわね。――こんなの簡単に」
「もうこれで尚人の勝ちだぞ」
「ええっ!うそ~!」
ちなみにこの二人はDクラスで、残る真太はEクラスだ。
そう、この部室にはCから上のクラスの者がいない。全員がDクラス以下の劣等生で構成された部活動なのである。
だがこのクラスには本当の劣等生など一人もいない。
哉夢にせよ、真太にせよ、唯火にせよ、尚人にせよ、沙喜にせよ全員が全員本当の実力を偽っている。
そんな災悩人が集まってできた部活動なのである。
この部活動は、定期的に活動があるわけではない。一般的には異能災害を研究する部活動で通っているが、実態は違う。彼らが、様々な人から受けた異能に関する依頼を解決していく部活動なのであった。
”プルルルル”
携帯電話の着信音が響く。
「あ、僕のだ」
送られてきたメールを黙読する哉夢。
「どうした?」
あまりに集中して読んでいたため、真太が声をかける。
「――狭間さんから依頼だ」
どうもありがとうございます。