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災悩人への贈り物  作者: 鬼無里 蟹
始まりの[壱]話
3/26

[壱]話(2)哉夢と生徒会長

鬼無里です。


遅くなりましたがどうぞよろしくお願いします。

~校舎内の購買より~



 霧ヶ峰高校の購買はおいしくてお手頃のお値段のため数多くの生徒が買い求めにくるので混雑してしまう。それを踏まえて哉夢と真太は早いうちに予定を決めて二手に別れたのであった。


「よっしゃ!早く来た甲斐があった四番目だ」


 ちなみにコロッケパンと焼きそばパンは数量限定で、毎日百個しか販売されないため開店と同時のタイミング出なければ売り切れてしまう。

 ちなみに哉夢と真太はコロッケパンが好物で購買のはいつも開店20分前には並んでいる。

「開店まで後15分。ふっ、――余裕だな」

並ぶと言っても別に順番制ではなく、先着順に棚から商品を取っていく争奪戦であるためにトラブルがしばしば絶えない。そのため女子生徒や下級生などはあまり並ばない。時には校則を無視して異能の力を使って喧嘩する輩もいるほど必死な争奪戦なのである。


「ふっふっふ、僕を嘗めないでもらおうか!これまでの戦歴204戦中コロッケパン保守個数352個、焼きそばパン268個。最高で10個まとめ買いして白い目見られたこともあったな」


 実に迷惑な話しである。

⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔




 そうこうしている間に開店の時刻がやってきた。


「はあ~い。開店です―――」


 店員さんが言い終わる前にもう生徒がなだれ込んでいく。『キャーワーキャーワー!』

 コロッケパンと焼きそばパンのコーナーに多量の人が集まる。

『ちょっと、それ俺が先に取ったやつなんだけど!』

『いいや、俺のほうが早かった。』

 早速口論が始まる。

「はいごめんね~」

“ヒョイ”

「はいすいませ~ん」

“ヒョイ”

「はいどいて~」

“ヒョイ”

 その人混みの中を哉夢はスルりとかわしながら、コロッケパンをゲットしていく。存在を気付かれないように、平凡を装って見事巧みに人混みをかわし確保していく。哉夢の本質とも言えた。



~10分後~

「はあ~い。今日はここで売り切れで~す」

 店員さんの元気な声により戦争は鎮静化されていった。


「うっひょ~!大量!大量!早く来て良かったわ」

 彼の手にはコロッケパン4つに焼きそばパン2つ、それと頼まれたコーヒーとサラダが紙袋に入っていた。 哉夢は笑顔で部室に向かう。だが、それを聞いていた争奪戦に敗れ一つも手に入れることが出来なかった者は笑顔とわいかず、明らかな敵意の目線を向ける者もいた。

「おい!ちょっとそこの奴」

 その中の三人組が哉夢へ声をかけてきた。開店前に並んでいる姿を見なかったため、大方余裕だと嘗めてかかり開店後に着いて争奪戦の集団に入り込めなかったのだろうと哉夢は思った。

 そんな敗者の声など哉夢は無視して歩き続ける。

「おい、テメェ無視すんなよ!」

明らかに喧嘩腰の一人が後ろから肩を掴んでくる。

「僕達全員Aクラスでね、教室からここまで距離があって遅れてしまってね。だから、君が持っているコロッケパンを3個僕達に渡してくれないか?もちろん三個分の代金は払うからさ」

 眼鏡を掛けているもう一人が要求してくる。

(そんなのただの言い訳だろうが。別に教室に戻る必要はねぇし)

 そう思った哉夢だったが、しかし口に出した言葉は異なった。「悪いけどこれ友達の分も含まれてるからさアンタ達に渡す分はないんだ。まぁ、まだ違うパンは残ってるしさ、また次回頑張りなよ」

 哉夢は肩を掴んでいる手を払うとまた歩き出した。

 このまま哉夢が行ってしまえば何も起こらなかっただろう。だが、彼は余計な一言を言ってしまった。


「じゃ、またねー。敗北者さん達」




⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔⇔




~S・Aクラスの教室へ続く渡り廊下~



 この渡り廊下に人混みができていた。どうやら一騒ぎがあったようだ。

『どうやら異能を使った喧嘩があったみたい』

『なんでもAクラスの三人Eクラスの人が喧嘩を売ったんだって』

『ただでさえAクラスに適うわけないのに三人居たからボロボロにされたみたいだ』 騒ぎの噂が人混みに広がっていく。

「一体、これは何があったのですか」

 人混みが彼女を避けていく。

『おい生徒会長さんだ』

 彼女の名前は逢坂 悠子(あいさかゆうこ)。霧ヶ峰高校の生徒会長を務める、品行方正、容姿端麗、運動・勉強もでき、異能の才能については学校一とも言われている。まさに生徒会長の中の生徒会長である。 悠子は人混みの先頭へ歩いていき容疑者だと思われる三人に目線を向ける。

「全く、こんな往来の場で一体何の騒ぎを――」

 【起こしている】そう続けようとした悠子の言葉が途切れる。それは彼女がもう一人の男子生徒を見て言葉を失ったからである。

「――サイくん」

 彼女の目線の先には一人の男子生徒が壁に寄りかかり手足を投げ出す形で倒れていた。哉夢だった。 全身がボロボロで制服がところどころ破れており、そこから血が流れて制服や周りの壁・床を紅く染めていた。

 目は虚ろで焦点あっておらず、顔には切り傷や痣ができていた。左腕が明らかにおかしな方向へ曲がっておりどす黒いく変色していた。無事な右腕も傷だらけで、肩口から制服が破れて無くなっていたいた。両脚も同じように傷だらけで右足の靴が脱げて血だらけな足が見えていた。

 哉夢は今にも死んでしまいそうな瀕死の状態で力のない虚ろな目線で前を見つめていた。

「サイくん、大丈夫?サイくん」

 その姿を見た悠子はいつもの嘘のように取り乱し血相を変えて哉夢へ駆けていく。

「サイくん、サイくん、サイくん、サイくん……」

 涙をこぼしながら名前を連呼する。

「……ああ。悠子か……。格好良かったよ、今日の生徒会長挨拶」

 哉夢はやっと悠子がいたことに気付き虚ろな目のまま悠子を見て、力のない声で言葉をかけた。

「良かった、良かった、良かった、良かった……」

 その言葉を聞いた悠子は、まだ涙をこぼしながら何度もそう言った。

 そして哉夢の容態を確認すると同時また悠子の雰囲気が変わった。

 だがそれはいつもの生徒会長の雰囲気でもなく、優しい感じとも違った。むしろそれの逆だった。


 悠子は加害者であろうAクラスの男子生徒三人を睨みつけた。その剣幕から三人はおろかその場にいる全員が沈黙した。

「アンタたちがサイくんを傷つけたのか」

 ――殺気。

 彼女が発したそれは周囲の者を硬直させ、睨まれている三人は空間に押しつぶされそうな感覚を味わった。

「人間が――、また人間ごときがサイくんを苦しめたのか……、

 許さない、許さない、許さない、許さない……」

 彼女の怒りとともに沈黙が、殺気が、その場の空間がどんどん重くなっていくように感じた。

 

 決して彼女は彼らのことを許さないだろう。 

 

 その怒りのまま彼らを何の躊躇いもなく殺してしまうだろう。


 誰もがそう思った。しかし――、


「――待ってくれよ」

悠子の目の前には彼の手が伸びていた。

 

 彼女を止めるように。

 

 彼女を守るように。


 使い物にならない左手を力なくぶらんと下げ、

 

 おぼつかないふらふらした足どりで、 


 虚ろな目を三人に向けながら、


 彼女の殺気を右手だけで止めながら、


 彼は――哉夢は言った。


「今回先に喧嘩を売ったのは僕だよ。だから僕が悪い。

 平凡な僕が、君たちみたいな才能人に勝てるわけないのにね。

 だから、悠子もこんな僕のために怒らないでくれ。

 僕の負けだよ。

 それじゃあ、じゃあね勝者さん達」


 哉夢は、その場を後にした。


 おぼつかない足どりで、虚ろな目で。


 その場を包んでいた沈黙は、静寂のそれへと変わっていた。

投稿が遅れました。



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