[弐]話(10)理不尽の始まり(上)
どうも鬼無里です。
今回は長いので、上、中、下と区切らせていただきました。
ではでは、どうぞご堪能あれ。
~???~
「お~スゲ~どんピシャ。流石は参謀ってとこだな。モノの見事に作戦通りじゃん。」
とあるアパートの上空40メートルの場所に地上の様子を眺めている人間がいた。
少年と言うほど若くもなく、青年と言うほど大人っぽくは見えないその男性はその場に座りながら腕組みをし、下を観察していた。
男性にしては長めの髪をボサボサッと手入れもしてないかのように自然体の髪型で、色は白、銀、いやどちらとも言えない強いて言えば灰色をしていた。
黒を基調としたバイクのライダースーツのような服を着ており、夏だというのに濃い青――いわゆる紺色のコートを羽織っていた。
紅い炎のような瞳につり目であるのが手助けをして、凶暴そうな顔つきをしていた。
いろいろと問題がありそうな容姿をしてるが、この場で一番問題なのは彼の行動そのものである。
先程述べたとおり此処は上空40メートルの空中である。
その上空で彼は腕組みをしながらその場に座っているのである。
椅子に座るかのように足を組みニヤニヤと笑っていた。
これが本当の空気椅子だった。
『あまり声を上げるな。下手に集中を切らすと――、いやもう遅いか……』
「うん?うおっ!!」
気がつけば紅い目の男が座っている目の前に学生服を着ている少年が現れていた。
音も気配もなくいきなり目の前に現れたその少年は、人間とは思えないまるで鬼神が取り憑いたような目つきで紅い目の男を睨み付け右腕をのばす。
ねらいは明白、左の肺の下にある臓器――心臓。
直接奪い取るような指の形をさせた右腕が貫くように突きを放つ。
心臓の鷲掴み。
それを容易に想像させる。
「ちっ!!」
ニヤついた表情だった男の目が変わる。
それはその少年を敵と認めた証拠でもあった。
それもそのはずである。
音も気配もなく目の前に現れたことよりも、鬼気迫るような目つきよりも、何の躊躇いもなく心臓を狙ってきた右腕の突きよりも、何よりも少年の纏う殺気が異常なほど渦巻いていたからである。
一瞬の判断。
刹那の理解。
それは結果として男の命を救ったと言っても過言ではなかった。
男は体を後ろに反らすように倒れることで心臓への容赦なき突き技を回避しようとした。
だがほんの僅かだけ少年の右腕の方が速かったためその動きでは間に合わない。
男のコートがめくれる。
少年が触れる紅い血。
――ではなく、炎のように紅い線で描かれた魔法陣だった。
一瞬だけ少年の突きが鈍る。
その僅かな間で完全に回避し、
「はっ!!」
男は再びニヤついた表情を見せる。
男が後ろに倒れる勢いで少年の腹を蹴り上げる。
ダメージのほとんど感じない軽い蹴りだったが、男にはそれで十分だった。
何らかの仕掛けをといたのか今まで空中に停止していた音粉からだが蹴りの反動で自由落下を開始する。
少年の方はその蹴りのせいで少しだけ空で停止する。
誤差としか言えないほんの僅か間。
しかし結果を明確に分けた差であった。
「ほらよ、置き土産だ」
少年が魔法陣と完全に重なった。
男が右腕を振るう。
紅くにじむ魔法陣が熱を帯び出す。
「遠慮無くもらっておけ!」
“ドォォォォォォン”
轟音。
閃光。
爆風。
しかし、少年はものともせずに睨み付けていた。
「なっ!!」
轟音は確かにな鳴った。
閃光は確かに輝いた。
爆風は確かに爆ぜた。
しかし、そこには肝心の衝撃が一つもなかった。
奪われたかのように綺麗さっぱり抜き取られていた。
驚愕の表情を浮かべている男に向かって、何かを握っている右腕を開いた。
変化はそれだけ。
男にはその腕は届かない。
だがその直後男の体はものすごい勢いで地面へと吹き飛ばされた。
「ガハッ!!!」
喀血をしながら地面へと向かっていく。
どうにか体を立て直し落下へのダメージを受け流す。
しかし空中40メートルは伊達じゃなく全身を強く打ち付ける。
内蔵が揺れ、骨が軋み、脳をぐちゃぐちゃにされるような感覚が男を襲う。
ゴロゴロ二度三度地面を転がりようやく停止する。
「……グ、ゴボッグッ、ゴボッゴボッ。ハァハァハァ、クソッ。」
片手をついて体を起きあがらせるが、さっきよりも多くの血を吐いた。
「クソッ!!……はぁはぁ、いったい何だってんだ。どういうことだよこれはよぉ。巫山戯んな!!」
口に付いた血を拭いながら立ち上がり、焦点を目の前にいる少年へと合わせる。
その少年は何も変わらず男の子とを睨み付けている。
今にも溢れ出しそうな殺気が渦巻いてそこに感情などは見えなくなっていた。
「……何者だよテメェ、いったい何をした?」
男の紅い目がさらに燃え上がり少年を睨み付ける。
「――別に、特に不思議なことは何もしていないよ。あなたが哉夢へはなったのと同じ衝撃を俺が奪いそれを与えただけさ。」
「……何だよそれ」
無茶苦茶じゃねーか、
と男は言い放った。
「……あなたがやっていることほどではないよ。さて、そろそろいい加減にしようか。俺はあまり口が回る方ではないんだ。だからとっとと始めよう。殺し合い――」
少年がそう呟いた瞬間雰囲気ががらりと変わる。
今まで纏っていた殺気が嵐のごとく暴発したのだ。
「刃屍輪家《鬼殺し》第三代目刃屍輪慎太、――これより業を開始する」
ゾクッとした寒気が男の背筋を襲う。
「……オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ、刃屍輪?四巡の化物じゃねーか!!ッ、吸血鬼の後は殺人鬼とか本当に巫山戯んなよ!!くそったれが!!……ハハハハハ。今回ばっかしはマジでやべーわ、これはこちらも本気でいかなきゃ不味いよな、」
と、諦めたかのように自虐し、
「欧州魔術結社トワイライト所属、コードネーム爆風。久々に殺る気になったぜ」
そうして二人の殺し名が名乗りをあげた。




