[弐]話(9)偽物の終焉
どうも鬼無里です。
暑いですが、何となく投稿します。
生きるということはつらかった。
苦しかった。
寂しかった。
空しかった。
哀れだった。
怖かった。
どれだけ幸せでいても、
どれだけ楽しく過ごしても、
どれだけ笑ってはしゃいでも、
それらは一瞬で奪い取られた。
彼の過去には、今には、未来には、
――樹里哉夢という人生には常に後悔だけが残された。
平凡で平凡な自分への劣等感、
異常で異常な自分への罪悪感、
不幸を呼び寄せる自分への恐怖感、
日常を崩してしまう自分への焦燥感、
どれもこれも彼を苦しめた。
そして彼はいつも後悔だけを残してきた。
この災いを引き受けてしまったこと、
才能を全て失ったこと、
何人もの人を不幸に巻き込んでしまったこと、
何よりも圧倒的な力を持っておきながら人を救えなかったこと。
『救う力を持っていても救えない命だってこの世界にはある』
誰かが言った。
それが誰だったか、彼は思い出せなかった。
それでも痛いほど知った。
文字通り体をボロボロにしながら。
自分の無力さを思い知った。
樹里哉夢は災悩人だった。
災いに悩み生きていく一人の人間だった。
いつだってその背中には後悔が残された。
――だから彼はそこで迷わなかった。
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~樹里哉夢~
《俺》はそこで微塵も迷わなかった。
悠子の頭上にあるナニかを察知したとき距離も意志も時間も無視して飛び込み、
悠子を突き飛ばした。
突き飛ばしたとき悠子の表情が呆然としていたのが見えた。
《俺》が世界の物理法則を無視していきなりそばに現れたことによる驚きか。
はたまた何の脈絡もなく突き飛ばされたことによる驚愕か。
《俺》には判らなかった。
そのときの悠子の顔がとても可愛かった。
そう思った瞬間――いや思う前からだったかもしれないが、
悠子がさっきまでいた場所――つまり僕の真上で、
青い線で描かれた円と六芒星が組み合わさった幾何学模様が現れ、
それが見えた瞬間に刹那の間も挟まずほぼ同時に、
そこから生み出された幾千の氷の刃が、
僕の全身に突き刺さった。
鋭い痛みが体の隅々を襲い尽くす。
目の前に見える紅い液体は僕の血だろうか?
意識が痛みで飛んでしまいそうだった。
そこへ一拍遅れて耳を劈くような悲鳴が聞こえる。
突き飛ばした悠子によるモノだった。
だがそこで物語は終わらず、悠子と僕のちょうど間に引き裂くように今度は紅い線で描かれた幾何学模様が現れた。
やはり僕は迷わずに、その模様に覆い被さるようにつっこんだ。
また悲鳴が聞こえる。
今度は悠子一人のモノだけではなかった。
どうしてみんなそんなにハモるのかなぁと、そんなことを思いながら、小さく笑った。
やっと死ねる。
笑ったと同時にその模様が急激に熱くなり、
次の瞬間、
“ドォォォーーン”
僕と一緒に爆散した。
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~葉志和慎太~
その瞬間は一瞬だった。
10秒――、いや5秒にも満たないほどのとても短い時間だった。
だが異常なまでに長く感じた。
生徒会長と常葉緋美が剣呑な雰囲気を作り出しているとき、俺と哉夢はアパートの二階の階段でそれを傍観していた。
哉夢はともかく、俺はその剣呑な雰囲気の中に飛び込もうとは考えていなかった。
女性同士の戦いに関わりたくなかったし、俺には止める理由はなかった。
意見の対立というモノはこの世界に生きている限り必ずあるモノだし、自分の意見を尊重したいのなら相手の意見は潰してでも主張しなければならないからだ。
そこでお互い引かず話し合いが効果をなさなくなったらもうそれは戦争するしかない。
俺はそういった暴力的な解決は賛成派だった。
細かい話は置いといても飛び込む気はさらさら無かった。
結局のところ俺には関係がなかったし、どーでも良かった。
だが俺の親友――樹里哉夢は違った。
もし何かがあったならばすぐにでも飛び込もうと体を強張らしていた。
神経を研ぎ澄ましているようにも見えた。
俺には到底理解できなかった。
何故そこまで哉夢が人のために己を犠牲にできるのかが判らなかった。
昨日の木崎の件だってそうだ。
こいつはいつでも自分を犠牲にして何でもかんでも背負い込んで一人で解決しようとする。
俺と親友になってから――いや、出会う前から既にそういうヤツだったのだろう。
哉夢は俺のことを異常と呼ぶが俺から見れば哉夢の方がよっぽど異常だった。
何でそこまで自分を犠牲にできる。
何でそこまで一人で背負い込む。
災いのことについてもそうだ。
どうしてそれで生きていける。
俺と哉夢の間にはそういった考えの溝があった。
だから、俺は哉夢を止めることができなかった。
俺はその一歩を迷ったのだ。
変化は僅かなことだった。
ほんの少しだけ生徒会長の頭上が歪んで見えた。
それは異能を使ったことの証であったが、明らかに第三者によるのものだと判った。
そもそも異能とはこの世界の不可能である事柄を成立させる力である。
無理矢理成立させる力なのでもちろんこの世界のモノではなく別世界のソレである。
故に拒絶され、その結果歪みができる。
ソレは通常見えるモノではないが俺とそして哉夢は――
「主ぃぃーーーー!!!!!」
気づけばそこには哉夢の隷属である吸血鬼――残されていた。
階段の柵に寄りかかりながら倒れているところを見ると、いきなり哉夢と分離してしまったためその反動がきていると見える。
それは哉夢にも言えることではあるが……。
その場には哉夢はいなかった。
そしてその代わりと言わんばかりに大きな空間の歪みが俺には見えた。
哉夢は飛び込んでいた。
生徒会長を突き飛ばした。
頭上に現れる青い模様はおそらく魔方陣だろう。
そして――、
“グサッグサグサッグサ”
魔方陣から生み出された氷柱の刃が、哉夢の体のいたるところを貫いた。
腕、胸、足、首……奇跡的に顔だけが無傷のままだった。
消音。
そして、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
耳を劈くような生徒会長の悲鳴。
発狂寸前のように瞳孔が開いている。
だが、そんなことはお構いなしに樹里哉夢へと悪夢は続いていく。
二人の間を裂くように、今度現れたのは危険信号の赤色で描かれた魔法陣。
誰もがためらうはずのその赤色へと、
哉夢は、
笑みを浮かべて飛び込んでいった。
その笑みには、
求めていたモノが手に入ったのかのごとく、
さながら恋人へ掛けるようなモノで、
「待っていたよ」と声がこぼれそうな、
死さえも受け止めてしまう――
優しい顔だった。
一瞬その表情を見て俺は――いやおそらく俺たちは考えが、思考が、思いが、感情が、呼吸が、生命が、空間が、時間が、全てが――、
停止した。
一拍。
哉夢を覗いたその場の全員が絶叫した。
全てが止まったその中で俺の声は動いていた。
紅い魔法陣が歪む。哉夢が覆い被さっているその隙間から強烈な光を放つ。目を逸らしたくなるような閃光。轟音。だが、それらは、哉夢から発せられた大きな歪みにより、黒い炎に包まれて、文字通り、消滅した。
――俺が異常というのならこの瞬間が一番ベストだろう。
黒い炎が包んだ瞬間――俺の脳は微かに発せられた鋭い殺気を感じ取り、停止していた全てが動き出し、その殺気の場所へと、飛び込んだ。
敵。的。適。滴。テキ。
《標的。場所。空中。高さ40。距離50。現在地点。高さ10。殺人範囲。全方位に3000。殺人可能。》
「……刃屍輪 慎太。これより業を開始する。」
ふとそう呟き、手摺りに上った。
殺人鬼は、飛び込んだ。
――今度は迷わなかった。
お粗末様でした。
ん?あれ?
なかなか[弐]話が終わらないな~なんて思っている人大丈夫。
次回で完結します。(無理矢理)
ではではよろしくお願いします。




