[弐]話(8)キャットファイト?
どうも鬼無里悠夜です。
なかなか文がつなげられず投稿がかなり遅れてしまい、すいません。
~樹里哉夢~
結果を言うと僕たちはお礼としてそれなりの金額をもらったので、
「慎太アパートに来るか?今日なら夕飯おごってやってもいいぞ」
「おっ、ありがと哉夢」
そんなわけで帰りにスーパーによってから慎太とアパートに来ていた。
この木造アパートは建てられてから結構長い年月が経つらしく、あちこちが傷みギシギシと床や階段が悲鳴を上げていた。
壁もボロボロなのでほとんど防音の機能をなしていなかった。
救いといえるのが今現在は僕と大家さんしかここには住んでいないのであまりに騒ぎすぎなければ問題は無いというあたりであった。
「あ、でも今は常葉が住んでいるんだっけ」
「へぇ常葉ちゃんはここに住んでるんだ。良かったじゃん住居者増えて」
「ん?常葉のことを知っているのか?」
それはかなり意外である。
この異常や労が他人に興味を示すことがあるなんて……。
「結構有名だよ。謎の美少女転校生って噂が学校全体に広がってるよ。」
「謎の美少女ねぇ……」
それだけでこいつが興味を示すかな?
「帰国子女ならまだしも、まだ新学期が始まってすぐなこの時期に転校してくるなんて珍しいし、それに全く経歴が不明だしさ。おまけに気が付いたら教室から消えてるし一体何者なんだろうね?」
そーゆーことか。
ていうか、
「どうせ何者かぐらいは考えがついてるんだろう?お前のことだからさ」
わざとらしく言いやがって。
「まぁね」
うざ……
そんなどうでも言い雑談をしながらギシギシと悲鳴を上げる階段を上っていく。
抜けてしまうんではないかと言うほどにきわどい悲鳴だ。
「ちなみに何号室にすんでるの常葉ちゃん?」
「それを知ってどうすんだよお前は」
「まぁ、いろいろとやることがあるし、今度遊びにでも行こうかなと」
「ジ~(ジト目の効果音)」
「え、何その目つき!?いや別に変なことはしないよ!!」
ブンブンと、手を横に振る慎太。
信用できねぇ……。
「あいつは今僕の部屋に住んでるよ。」
「へ!?」
「まぁ、今朝引っ越してきたばっかりだからすぐに別の部屋に追い出すけどさ」
「え!?何そのラブコメみたいなシチュエーション!!超うらやましいんだけど!!」
「黙れリア充野郎。毎日毎日女子に囲まれてるヤツがうらやましいとか口にすんじゃなねぇよ!!!」
だってこいつもてるんだもん!
毎朝ハーレーム作って登校しやがるんだもん!!
蹴り飛ばしてもいいよね!!!
「落ち着いて哉夢!こんな狭い階段で跳び蹴りとかしないで!!それにああいう女子たちには興味ないからね!!!」
死刑決定。
「死ね」
《俺》はこのうざったい親友だったリア充野郎を殺すことにした。
「待って哉夢!素が出てるよ!やめてこんなことで【闇夜の支配者】を使わないで!」
「騒々しいこのリア充を殺すのに使って何が悪い!!!!!」
(主落ち着け。ここで異能を使ったら捕まってしま――)
「うるせぇ!!!死ねこのリア充野郎があぁぁぁ!!!」
影の中から聞こえてきた沙喜の声を無視して僕は使った。
「【地獄の業火】」
《俺》は手のひらに黒い炎を召喚し、慎太へと投げつけた。
「ちょ!まじで!うわあぁぁっぁぁぁぁ!!」
慎太の断末魔が聞こえる。
ズパーン!!
だが、僕の放った黒い炎は太刀音とともに霧散した。
「お止めください樹里様、学校外での異能の使用は法律によって禁じられています。私も政府の端くれではあるので目の前での違反を見逃すわけにはいきません」
僕と慎太の間に切り込むようにして、いや実際に斬り込んできたのだが常葉が現れた。
優しそうな顔とは裏腹に僕の首筋に刀を向ける常葉は、その姿からは想像できないほどの殺気を放っていた。
「……常葉ちゃん、いたんだ。」
慎太が声を漏らす。
「当たり前です。私はこれでも樹里様の護衛を務めるモノです。いつどこでもお守りできるようにしておくのは当たり前でしょう」
淡々と無表情のままに常葉は告げる。
だがこの状況はまずい。
僕は必死で慎太に向けてアイコンタクトを発信する。
それを理解した慎太は無言でうなずいた。
「あのさ、常葉ちゃん」
慎太は常葉に声を掛けた。
「何でしょうか?」
「そろそろ刀をしまった方がいいよ」
僕の首筋に刀を押しつけたまま振り向く常葉に慎太は告げる。
「――じゃないと君殺されちゃうよ、生徒会長さんに」
その言葉を合図に白い羽がそこに舞った。
「サイくんから離れろぉぉぉぉ!!!この糞女があぁぁぁぁぁ!!!」
常葉と同じようにどこからともなく現れた悠子に常葉は吹き飛ばされた。
と言うか、空を飛んできた悠子の跳び蹴りを喰らったのである。
それでもさすがは【終焉を喰らうモノ】一員である。その跳び蹴りの威力を後ろに飛んで吸収して、見事に地面に着地する常葉。
てゆーか、僕の周りにいる人物のスペック高くね?
慎太然り、悠子然り、常葉然り、それに沙喜だって。
(主のスペックが低すぎるだけ)
影の中から聞こえてきた言葉により落胆する。
「チッ、ことあるごとに私のサイくんの隣に現れやがって。いい加減諦めなさい。サイくんは私のモノよ!!!」
「それはできません私も仕事なので」
僕が現実逃避をしている間にバチバチと火花を散らしていく二人。
「アンタ、朝あれだけ私との差を知っておきながら張り合う気なの?」
「お言葉ですが一撃たりともうけた記憶はないのですが。」
「ええ、アンタ手も足も出ずにただ私の攻撃を防いでるだけでしたからねぇ」
「いえ、手も足も出す必要がなかっただけです」
ゴゴゴゴゴ
そんな感じの効果音が流れそうな雰囲気を作り出す二人。
「そう、どこまで行っても私とサイくんの愛を邪魔するつもりなのね?
いいわ、ならここで叩き潰してあげるから」
「いいでしょう、私もあなたに仕事を邪魔されて困っていたところでしたから」
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!
さっきの僕のようなおふざけで異能を使うならまだしも、ここまで殺気をたてて本気で戦われたらさすがに言い逃れ(大家さんに)できない!!
「いや、哉夢のも絶望的だと思うよ」
(【地獄の業火】を使った時点でもう詰んでる)
「いやいやいや、あれ悪いの慎太ってことにできるからさ」
「ちょっと待って哉夢!いくらなんでもそれはあんまりだ!」
「うるさい!リア充なお前が悪い」
「哉夢だってモテモテじゃん!!(人間以外に)」
(二人ともうまい具合に現実逃避している場合ではない)
「「てへっ☆ばれた?」」
なんやかんやで息ぴったりな反応をしている僕と慎太だった。
つーか、そんな話をしている場合じゃなくて――
「喰らいやがれこの糞女がぁぁぁぁぁ!!!!」
言葉遣いも何のその、翼を背中から生やした悠子が、飛び蹴り《“跳び”ではない》を常葉へと喰らわす。
腹部を狙ったその蹴りを常葉は、体を半身にして難なくかわし、何の武器も持っていない悠子へと容赦なく刀を振り下ろす。
「はあっ!!」
“ガキン”と、金属音が響く。
右から振り下ろされた刀を、悠子は赤系統の異能で強化した左の翼で受け止めた。
そして青系統の異能を使い無理矢理その場で停止し、強化したままの翼を振るう。
強化されている翼を素の刀で受けて止めれば折れてしまうため、常葉は後ろに跳びながら翼の軌道をうまく剣先でずらして受け流す。
だが、悠子は間髪入れずに常葉が着地するよりも速く、翼から赤系統により斬撃強化された羽を五枚ほど黄系統で加速し、放った。
「くっ!!」
必死に刀で打ち落とすものの、落とせなかった羽が常葉の体を掠る。
右足と左肩を掠り血が流れる。
もちろん合ってないような小さな傷だが、斬撃強化された羽は制服の上からでも切り裂けるということを示していた。
「あなた、手加減のつもりかしら?さっきから全く異能を使わないなんて私をなめてでもいるの?」
圧倒的な力を見せている悠子は不機嫌だった。
確かにさっきから常葉は全く異能を使っていない。
「ああ、そういえばあなたは政府の犬だったわね。一応。でも、法律なんか気にしなくても大丈夫よ。この町の警察は逢坂家の犬でもあるから。だから、いい加減本気を出しなさい」
すると悠子の雰囲気が変わった。
はっきりとした闘気を常葉に向けはじめた。
ここで補足説明をしておくが、悠子の家はさっき話したようにここら辺一体を支配できるほどの権力を有している。
約50年以上も前の昔の頃――つまりは異能を使う者を軍へと導入し始めた頃の話になるのだが、その当時最強と謳われた異能使いが複数存在した。
逢坂・神川・相模・垂乳根・業平・羽衣・雅経・八雲・倭王と呼ばれた九人である。
半分近くは正体不明のまま消え去ったが、逢坂・相模・八雲の三家は子孫を残し今までつないでいる。
この三家は現代に置いても日本政治や軍などに強い影響力を残しており、その中でも逢坂家はここら一帯の実質的な支配者でもあり、霧ヶ峰高校の創設者でもあるのだ。
それ故に逢坂家が関わっている事件に関しては警察は介入できないのである。
余談ではあるが悠子は逢坂家当主逢坂 銀鬼から溺愛されているためわがままを通しまくっている。
てゆーかあのおじさんもハンパねぇーんだよな……。
これ以上は長くなるため閑話休題。
「私のサイくんを襲った罪を償いなさい」
闘気を通り越した殺気が悠子から一気に発せられる。
「……化物が」
常葉は悠子の様子を見て小さく呟き、体勢を低くして居合いの形をとった。
霧ヶ峰高校生徒会長2年Sクラス逢坂悠子対、
【終焉を喰らう者】の一員常葉緋美。
しかし、激闘が予想されたこの対決は始まる前にバットエンドとなったのだった。
お粗末様でした。