[弐]話(6)樹里哉夢という化け物について
どうも鬼無里です。
投稿遅くなってしまいすいません。
~樹里哉夢~
僕は平凡で平凡なただの人間だ。それは今も昔も変わらずそしてこれからも変わらないだろう。
だが同時に僕は異常で異常な化け物でもある。それも今も昔もこれから先もずっと変わらない事実として残っていくのであろう。
○○でもあれば、××でもある。まぁ、そんな戯れ言ではないが、僕が人間であるということ、そして僕が化け物であるということ、それは重々自分自身で認めている。
人間である強いところ。
人間である弱いところ。
化け物である強いところ。
化け物である弱いところ。
それらを含めているのが自分だと僕は認識している。
そして僕がそういう自分だと分かっていると言うことは、僕のことを少なからず見てきた人間がいると言うことだ。
強い人間の自分を、弱い人間の自分を、
そして自分が化け物でもあると言うことも、多分、見られているはずだ。
人間は一人では生きていけない。
それは確かに事実であり、孤独死なんて言葉もあるように一人で生きられる人間などこの世にほとんどいないだろう。
人は生きていくためにお互いを、信じ信じられ、頼り頼られ、助け助けられ、そして愛し愛されてどうにか生きていくことができるのだろう。
それはとても素晴らしくとても美しいことである。
しかし、一人でいるときにみなさんは少しばかり「楽でいいな」、と感じたことはないだろうか。
たとえば部屋で自分だけの空間をくつろいでるときや、ぶらりと一人で散歩をしているときに、仲間といるよりも、友達といるよりも、少しばかり気が落ち着いているのではないだろうか。
全ての人が一概に必ずしもそうだとは言えないが、大抵の人がそんなことを体験したことがあるはずだ。
実際、一人でいるときに楽なのは当たり前である。
誰にも気を遣う必要が無く一番自分らしくいられる時間でもあるのだから。
責任などから解放され少しスッキリする人もいるだろう。
それ故楽だ。とにかく楽なのだ。縛られもせずに、自由気ままにできるのだ。
だがそれは楽なだけだ、楽しくはない。
結局どうやっても一人ではできることに限度があるのだ。
一人でいることができても一人で居続けることはできない。
孤独を好んでいるモノがいても孤独に耐えられるモノはいない。
一人は一人であって独りでもある。
そして人間はとても弱い。
それ故抱いてしまう、「寂しい」と言う感情を。
それ故分かってしまう「悲しい」という感情を。
でも、しかし、その感情を抱けるのは、分かるのは、独りではない人間だけだ。
弱い故に頼り、助けられ、信じ、愛した。
そして――、
強い故に頼られ、助けられ、信じられ、愛された。
そんな美しく素晴らしい人間だからこそ人は一人では生きていけず。
そんな弱く強い人間だからこそ独りの楽さを知っている。
○○でもあり××でもある。
だからこそ人間なのかもしれない。
閑話休題
そうやって僕は今まで人間として生きてきたわけだが、化け物としての自分を何度も、大きな痛みとともに味わい自覚してきた。
あまりにも深く刻まれた過去であり、事実であり、真実であり、後悔であり、時には罪悪感にもなったりする。
たとえば、僕が小学五年生の夏休みの頃の話だ。
台風が一昨日過ぎ空も夏らしい晴天となった、そんなときの話だ。
僕は何かを夢中で追いかけてとある裏山の雑木林に来ていた。
虫かごや虫網を携えていたようなのでどうやら僕は昆虫採集らしきことをやっていたそうだ。
そうだというのは僕はあまりそのときのことをよく覚えていないため後から聞いた話であるからである。
とにかく僕はそのとき夢中になって蝶や、蝉などの昆虫を追いかけていたらしい。
あまりにも夢中になっていた。そのため気づけなかった。
僕は茂みに隠れていた崖に気づくことなく落っこちたのである。
そしてそれだけでは終わらなかった。
どうやら不幸の女神にでも気に入られているのか、はたまた神の奇跡でも打ち消してしまう右手を持っているのか、とにかく僕はツイていなかった。
一昨日通り過ぎた台風の影響だろうか、僕が落ちたその崖の下にはへし折られて鋭く尖った木片が上を向いた状態で設置されていた。
そして僕はそこへと落ちた。後ろ向きに。受け身も取れないまま。
ここで漫画の主人公ならば奇跡的に木片の間へとすり抜けていき、ほぼ無傷で、少なくとも一命を取り留めるような形で生き残るのだろう。
だが僕は漫画の主人公のように選ばれた人間ではない。僕なんかせいぜいモブキャラだ。
そんなご都合主義のようなことは起きずに、一番鋭く太い木片が、僕の体、そう、ちょうど心臓の部分に1㎜の狂いもなく突き刺さった。
僕の体にはまるで吸血鬼を杭で串刺しにしたように木片が貫いており、そこから真っ赤な鮮血が流れ出ていた。
人であることを証明する真っ赤な血だった。
そんなことに少しばかり安堵しながら同時に僕は悟っていた。
僕は死ぬ。今日死ぬ。今この瞬間死んでいく。
前に脳の半分を潰されたときもあったが、そのときはどうにか代わりモノを使って生きながらえたが、今回のように心臓を潰されてしまうともう代わりを作れない、それを作るだけの力が出なくなってしまうのだ。
そう、だから死ぬ。今日僕は人間として死んでいく。誰にも見られることなく、誰にも悲しまれることがなく僕は死んでいく。平凡で平凡な人間の平凡な死だった。
――そうなるはずだった。
だけど僕は死ななかった。
1分経っても死ななかった。
5分経っても死ななかった。
10分経っても死ななかった。
30分経っても死ななかった。
1時間経っても死ななかった。
2時間経っても死ななかった。
結局、4時間経って悠子が助けに来てくれるまで僕は生き残り、そして今日も生きている。
僕は平凡で平凡なただの人間だ。
だけど、
僕は異常で異常な化け物だった。