[弐]話(4)天使と吸血鬼
鬼無里でーす。
どうぞよろしくお願いします
~逢坂悠子より~
私は、登校してから生徒会室へ来ていた。
すでに授業の始まっている時間だが登校義務を免除している私には関係ない。
私のような存在があの人間どもと一緒に学ぶことなど何もない。
私の力は白の系統のランク5【天使】と言われるモノだ。
自分の体を天使のそれへと変化させ、人間離れした力を手に入れる。
私は、純粋な人間ではない。いや、この言い方には語弊が生じるか。
私の体を流れる血の四分の三は天使の血なのだ。
つまり私は、天使に人間の血が少し混じったモノと言える。
化物というヤツだ。
故に人間などと暮らすつもりはいっさいない。
そんなことを想像しただけでも気分が悪くなる。
それでもこの世は人間世界、共存しなくては私たちの血は絶えることになる。
人間どもは下等でものすごく愚かだ。
何よりも先に自分の欲望のために行動を起こす。
そして自分ではない誰かをいつも犠牲にしていく。
自分の負い目は認めないし簡単に手のひらを返して逃げていく。
私が今まで見てきた連中もそんな奴らばかり。
全く実に腹立たしい。
だけどそんな奴らの中にも例外というモノは存在する。
そう樹里哉夢――、サイくんのことだ。
サイくんは違っていた。
彼はいつも自分を犠牲にして生きていく。
自分の欲望よりも先に人のことを優先して生きていく。
自分の負い目をいつも後悔しながら生きて決して手のひらを返さない。
自分が背負っている災いも決して誰かへと手放さず受け止めようとしている。
そしていつもその災いに振り回されながらその役目が自分であることに安堵を抱いている。
彼は、優しく、強く、そして誰よりも何よりも自分を後悔して生きていく災悩人だ。
そんなサイくんに私は何回も救われている。
今こうやって生徒会長を続けていられるのもサイくんのおかげだ。
もちろん完璧な人間ではない。
欠点は数えたらきりがないほどあるし、いつだって失敗ばかりしている。
でもサイくんはその欠点いつだって受け止め直そうと努力していく。
正直格好いいと思う。
だけどサイくんはいっさい自分の努力や後悔や苦悩を人には見せない。
誰にも頼らないで生きている。
別に孤独ではないのだろう。
私はそんなサイくんの力になりたくていつも傷を治してきた。
大きなお世話なのかもしれない。
だけど私はサイくんにもっと頼ってもらいたい。
私の目標はそのことだけだ。
今日のこと思い出す。
あのくそ忌々しい女のことはどうでもいい。
ただ今日その女と対峙したときのサイくんの表情が少し昔に戻っていた。
私が初めてサイくんが――、樹里哉夢が才能人であることを知った日。
もう八年も前になる遠い日の過去。
私はそんな過去のことゆっくりと紐といていった。
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~常葉緋美より~
私は【終焉を喰らうモノ】から派遣された人間だ。
もちろん私もメンバーの一人であるから異能者で、そこそこの実力を兼ね備えている。
今回の任務は樹里哉夢の保護・監視だが、それだけではない。
もう一つあるのだ。
それは樹里哉夢の周りにいる誰かが吸血鬼であり、ついでにその吸血鬼の調査と監視、危険分子であれば即処分してもいいと言われている。
吸血鬼――、
不老不死で人間とは比べものにならないほどの力を持ち怪異の王と呼ばれてる化物だ。
その圧倒的な力の反面に弱点も多く、日光の前に出ると焼け死に灰になり、十字架や聖水などをかけられると再生できず、大蒜が大の苦手などなど。
まぁ、そんな弱点を抱えていたところで結局は私たち人間とは違い化物でしかない。
そう、ただの化物だ。
全く、樹里哉夢という災いの下には一体どれだけの化物が現れるのだろう。
朝いきなり現れたあの女もそうだ。
確かアイツは渡された資料に書いてあった一番の危険人物だ。
アイツの能力は、【天使】肉体が天使のそれへと変化する化物だ。
今日の件で解ったがあの化物はそこそこ体術も使えるらしく、私と張り合えるだけの力を持っている。
他にもいろいろな化物がいるらしく渡された資料はざっと五十ぐらいあった。
化物どもがこの人間の世の中で自由に生きてんなよ。
結局お前らは人間に害を与える存在だといい加減分かれよ。
……樹里哉夢、黒系統の異能を使いこなす唯一の人物。
ほとんどの技などが不明としか書かれていないが、資料には10年も前のとある事件の関係者とも書かれていた。
災いだろうが、黒系統だろうが、要するに人間離れした化物だろう?
『こんな僕のために高校生活を費やすってことだよ』
アンタがそういう化物だから私のような人間がわざわざ来てるんだろうが?
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~再び樹里哉夢より~
僕は今旧体育館に来ていた。
この前霧弥と戦った場所だ。
ちなみに今は時間的に言うと授業の真っ最中だ。
イェーイ!完全にサボりだね!
って、もちろんそんなわけはなく。僕は授業ではいないことになっている。
登校義務は免除できなかったがどうにかして授業は免除させてもらっている。
どうやったかというと、簡単な話僕の才能の無さを完璧に見せつけたからである。
異能テストはいつも赤点で、実技はまるでだめ。
普通科目(英・数・国・理科・社会)はそこそこの点数がとれ、体術や、武器の扱いもそれなりにできるのだが才能はないし、ここは異能を学ぶことを第一とする学校だからそんなもはあっても意味をなさない。
術具や異能武器の調整や開発・製造スキルなども持ち合わせてないので僕の異能に対する才能はほぼゼロ、
――というところを見せつけたのだ。
まぁ、もちろんそれだけではなくある人からの書状を渡してやっと免除されたのだ。
ちなみにある人というのはとてつもなく軽薄で着物を着たあの男からのモノだ。
意外とアイツはこういうところでは顔が利くらしくそれを見せたら校長が一発OKを出してくれたらしい。
一応僕の机といすは用意されているし、トラブルや依頼などがなければ普通に出席している。
でも、一度たりとも僕の名前は呼ばれていないけど。
―閑話休題―
僕がここで今何をしているかというと、川霧沙喜との契約を果たしているところだった。
「さて、そろそろ出てきていいよ」
僕が誰もいない空間に向かって声を響かせる。
「遅い。女子を待たせるのは最低の行為ということぐらい理解してる?樹里」
すると僕の背後、ちょうど僕の影の上から彼女は答えた。
「いや、今は主様といった方がいいかな?」
「その必要はないよ。いつも通り樹里でいい。哉夢って呼んでも構わないよ」
何故こんな人が誰もいない場所でわざわざ沙喜との契約を果たさないとならないのか。
「その呼び名は私が嫌いだ」
その理由は簡単だ。
「じゃあとりあえず始めますか」
そういって沙喜の前に僕の首を突き出す。まるで今から打ち首されるかのように。
沙喜はゆっくりと僕の首すじに近づいてくる。
そうして近づくにつれ沙喜の身体が変化していった。
髪はいつもの黒から金髪へ。
瞳の色は紅く染まり。
顔はいつもより大人っぽくなり。
体も顔と同じく大人のような体格になり。
おまけに歯に牙ができた。
「――いただきます」
大人びた声でそういって僕の首筋に噛みついた。
そして――、
“ゴクッゴクッ”
と、僕の血を飲み始めた。
そう、別に簡単な理由だ。
僕が誰もいない時間と場所を選んだ理由は――、
川霧沙喜が吸血鬼だったからだ。
そんなわけでお粗末さまでした。