[壱]話(9)樹里哉夢と木崎霧弥
鬼無里です
寝坊したため投稿が遅れました。
ってか唯火さんが完全に空気だ。
そんなわけでよろしくお願いします。
木崎が炎に包まれるのを哉夢はじっと見ていた。もちろんただ見てるわけではなく、集中して制御していた。
【地獄の業火】(ヘル・フレイム)全てを滅却する漆黒の炎。それ故に制御すれば何もを燃やさないことができる。条件を指定すれば衣服のみや火傷程度、何も燃やさずに高熱と痛みだけを与えることができる。
哉夢は先刻のようなことを起こしたくなかった。
今回もほぼ無傷に抑えるつもりだった。
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結局オレは負けるのか。
オレの才能ごときでは災いには勝てねェのか。
オレはやっぱり弱者のままなのか。
『やぁ、また会ったね』
『今日はどこへ行こうか?』
あァ、そォだったな。
オレはあの時アイツの前で誓ったンだったな。
オレはあの時決めたンだったな。
オレは強くなンなきゃいけねェ、勝てなければならねェ。
まだなんにも果たしてねぇんだ。
だから――、こんなところで負けているわけにはいかねェンだよォォォォォォォ!!!!
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かすかに叫び声が聞こえた。黒い炎にもみ消されてしまいそうな。
――次の瞬間、その炎の中から斬撃が飛び散り、炎を粉々に切り裂いた。
「――樹ィィィィィィィィ里ォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
木崎が振り抜いた一撃が斬撃となり哉夢へと飛んでいく。
哉夢は両手の剣で防ごうとしたが――、いとも簡単に貫通して哉夢の体から血が噴き出した。
その場に血の雨が降り注ぎ周囲が紅く染まった。
――そして、
「あァァァァァァァァァァァァっ!!」
その傷口から漆黒の炎があり哉夢は押さえ込みながら倒れた。
木崎の手には闇のように黒い宝石がついた腕輪をはめられていた。
「オレは負けるわけにはいかねェンだ、勝たなきゃならねェンだ!勝って強くなってオレはブッ壊す!この腐った世界をブッ壊して変えなきゃならねェンだ!」
木崎はボロボロで所々焦げた体を奮い立たせながら叫んだ。
「この世界は腐ってる!何もかもがイかれてる!救いなんてこねェし、助けに来るヤツなんていねェし、オマケに正直者が嘘つきに殺されッちまうような世界だ!だから変えなきゃならねンだ!誰かがブッ壊さなきゃならねンだ!――、そのためにオレは強くなる!誰にも負けないぐらいに、世界をブッ壊せるぐらいによォォォォ!!」
彼は叫んだ。
――目的を、信念を、過去を、今を、強さを、弱さを、本音を、木崎霧弥自身を――、
――怒りで、悲しみで、後悔で、義務で、強く、弱く、誇り高く、惨めに、彼は叫んだ。
「オマエだって解ってンだろ!知ってンだろ!味わってきたンだろ!」
木崎は倒れている哉夢に尋ねる。
「その能力で、強さで、いつだって味わってきたはずだァ!」
木崎は叫び続けた。
「……そうだよ。僕は……《俺》はいつだって味わってきた。」
哉夢は震えながら立ち上がる。血は止まっておらず、顔色も悪い。息は乱れて、今にも倒れてしまいそうだった。
「……どれだけ待っても救いはこないし、助けを読んでも助けはこないし、この能力を、強さを、災いを背負っているせいでいつも感じてきた。」
哉夢は答えた。木崎の叫びに対して、信念に対して、木崎自身に対して、
「だから、《俺》はアンタを止めない。《俺》の本気でその強さをここでたたきつぶしてやる!」
自分の信念で、哉夢自身で、木崎に向かい合った。
その瞬間哉夢の後ろの空間が大きく歪んだ、捻れてしまいそうなほどに。
そしてその中から現れた、
――改めて黒系統についての説明をしよう。
黒系統の異能は、司るモノが何もないが最も原点に近い異能であり、異能の全てを召喚できる力がある。
召喚、異能であればどんなモノであろうと。
そして彼――、哉夢は【闇夜の支配者】を使いこなす。異次元の王であり、異能の覇者であった、それ故に彼には制限なく召喚ができた。
10メートル以上はあるだろう巨大な狼が現れた。
毛並みは深い海の底のように濃い藍色で、目は血のように紅い。
鋭く日本刀のように切れそうな爪と牙を持ち、長い尻尾をなびかせていた。
【神を喰らいし魔獣】神を喰らった魔獣であり、全ての異能を喰らうことができる。
「……ハッ!ホントにオマエ面白ぇよ。今まであったヤツの中で最ッ高になァァ!」
木崎は両腕を広げた。
「だからまァ――、死ンどけ」
その両手から巨大な竜巻が作り出された。
【絶叫の大嵐】【鎌鼬】によって作り出された竜巻で、全てのモノを引き裂き、【クロノウデワ】によって呼び出された漆黒の炎により切り裂いた場所が発火する。
全てを薙ぎ、切り裂き、焼き尽くす、絶叫の竜巻であった。
「樹ィ里ォォ哉夢ゥゥゥゥゥゥ!!!!」
木崎は【絶叫の大嵐】を哉夢へと投げつけた。
「木崎霧弥ぁぁぁぁぁ!!!!」
竜巻は、体育館を切り裂きながら哉夢へ襲いかかった。
その瞬間【神を喰らいし魔獣】が動いた。
哉夢をかばうように前へ――、
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲォォォォォォォ!!!!」
声ではないような咆哮が体育館にこだまする。
その咆哮によって絶叫の大嵐】が消失した。
哉夢は木崎の目の前に詰め寄っていた。
「クソッ!」
木崎は【鎌鼬】を放とうとする。
だがそれよりも先に哉夢の右の拳が炸裂した。
“ゴッ”
鈍く高い音が響く。
木崎は後ろへと吹っ飛んだ。
「強くなりたいんだったら何度だって這い上がって来いよ!将来有望才悩人!」
木崎は5~6メートル転がり、そこで意識を失った。
哉夢もそこに倒れ込んだ。
「哉夢さん!」
唯火が歓喜の声を漏らす。
だが、そこで物語は終わらなかった。
“ガコン”
体育館の天井が崩れ始めた。
暴れすぎたのだ。
学校最強とも呼ばれる木崎と、災悩人哉夢の力は強すぎた。
天井の残骸が哉夢へと襲いかかった。
「哉夢さん!」
今度は絶叫が聞こえた。
“パァン”
乾いた手のひらを打ち合わせる音が聞こえた。
その音とともに落下していた残骸が空中で停止した。
時間が、空間が、止まったかのように見えた。
「いやー間にあった間に合った。ぎりぎりセーフってとこだね。それにしても流石哉夢くん、一人で全て解決しちゃうなんてさ。――よく頑張ったね。」
哉夢の隣に軽薄なお喋りをしながら着物を着た男性が現れた。
――狭間大夜だった。
そしてそのまま木崎に近寄っていく。
「これは返してもらうよ。君ならもう大丈夫でしょ。君は優秀だからすぐに強くなれるよ」
木崎の右腕から【クロノウデワ】をはずし着物の懐へとしまった。
「じゃ、俺はこれで帰させてもらうよ」
“パチン”
と、今度は指を鳴らした。
すると停止していた残骸が全て消えた。
木崎と哉夢によって生まれた体育館の傷が全て無くなり、まるで何事もなかったように戦う前の体育館の状態になった。
「狭間さん!」
そこで唯火が声をかけた。
「大丈夫、これで僕の依頼は終了だよ。料金はちゃんと哉夢くんに渡しておくよ」
大夜は唯火の方を振り返らずにその場を後にした。