第一話 それでも愛でたい
五才になったアークは聖獣王の素養を買われ即位を余儀なくされた。
なんでも浄化の力があれば聖なる光によって魔獣をも従わせることが出来るという。
白の従魔士とも呼ばれ誰でも真似が出来ることではなかった。
「嫌だ。僕はそれでも愛でたい」
この時のアークは即位すればもっと聖獣を愛でることが出来ると思い込んでいた。
けどアークの周りはいつも聖獣王としての威厳を押し付け愛でさせてはくれなかった。
「駄目です、アーク様。聖獣王としての威厳が穢れてしまいます」
侍女のエルザですら厳格な態度を見せアークに駄目だしをしていた。
「隠れてならいいじゃないか。古き肖像になんの価値があるんだ」
今の古いままではアークの言う通り価値はない。
侍女のエルザも薄々は気付いていた。
「それでも駄目なんです。民意のない答えに意味はないのですよ、アーク様」
確かにこの国の制度ではなにかを変えるには民意がいる。
「どうしたらいいんだ、それなら」
こんな王座の部屋に籠っていては民意なんて得られる訳がない。
「ですから聖獣王として偉業を威厳をもってなさなければいけないのです」
それまで我慢しろと遠回しに言われた。
これでは切りがないと思ったアークは言い負かすのをやめた。
今は仕事に集中することにした。
「それで……今日の用件は?」
子供とは思えないアークは独学で言葉遣いを学んでいた。
これも聖獣王としての威厳を保つ為だ。
本当はこんなことよりも聖獣を愛でたい。今すぐにでも抱き付きたかった。
「本日の用件はありません、前の依頼が済んでおりませんので」
前の依頼。
離れの森で動物が魔獣と化し近隣の村に被害が出ているのだとか。
「村は結界がない。ここは僕の出番だ、危険が伴うけど」
現地に行かなければアークの浄化は使えない。
侍女のエルザは結界は使えるがアークの使用人なので請け負えない。
「今の魔科学では現地に結界師を送ることしかできません」
肝心の結界師すら人手が足りなかった。
もしこんなことが世界で起きていたのならかなり困ったことになる。
アークの側近は不穏な空気になっていた。
「うん。だから僕がだね」
聖獣王になったからにはアークは浄化の力を正しく使おうと思っていた。
「はい。護衛はお任せください、アーク様」
侍女のエルザに幾度となく助けられてきたアークは信頼を寄せていた。
「今の僕では近接は無理、魔法剣という手もあるけど剣術を習うにはまだ早いから」
頼りにならないアークよりも遠近ともに戦えるエルザに期待を寄せてしまう。
「そうですね、初めから剣をお持ちだったなら話は別ですが」
アークは聖獣王としての役目を優先された余りに剣を持つことすらも許されなかった。
「本当はこうして座っているより愛でたいんだけどね」
王座からアークは立ち上がりエルザの横を歩いて見せた。
「さて行こうか。僕たちの仕事の時間だよ」
立ち止まり顔を前に据えアークはそう言った。
エルザは追従するように体を向けさせた。
「アーク様。この依頼を終わらせたのならほんの少しですが隠れて愛でてもいいですよ」
アークの内心は驚いていた。
あの厳格なエルザが許してくれるなんて思いもしなかった。
余りの嬉しさにアークの心は晴れ渡り上機嫌が戻ってきていた。
「エルザ。僕は絶対に愛でるよ。そしていつかは堂々として見せるから」
微笑ましい空気にアークとエルザは特に和んだ。
今は頼りないアークでも諦めず挑んでいればいつかは花開くと思っていた。
「行きましょうか、アーク様」
一人でも多くの理解者を作ればきっと夢は叶う。
「うん!」
アークは前に据え抜き通し上機嫌を言葉に乗せた。
これからアークたちが向かう先は危険が伴う。
それでも自分にしか出来ないことなんだと心に刻み込んだ。
こうしてアークとエルザは上機嫌なまま目的地に向かうことにした。




