第5話 トカゲ料理と冒険者の救出
第5話 トカゲ料理と冒険者の救出
サクは翌朝、厨房を借りて、トカゲ肉を見ていた。
ギルドから少量、切り取って持ち込んでいた。
匂いを嗅ぎ、そのピンク色の肉質を見ながら、思案していた。
……ちょっと淡泊かもしれへんな。
「ふーん。鶏肉に近いっつってたか。匂いも少ないし油も少ない。
ほな、調味料が勝負やな」
焼くにしても、漬け込んだ方がよさそうだ。
塩だけやなく、ソースを工夫したらいけるかもしれん。
横では、まかない兼幼児の世話係のカンネが、腰に手を当てて様子を見ていた。
「今回はなんの肉だね、知ってる食材だといいんだがね」
ちょっと警戒している。
サクは正体がトカゲだと、警戒されるかもと思い、あいまいに答える。
「さぁ、なんの肉やろな。毒はないのは確かや。ある地方では名物料理になってるらしい」
「そんで、ここでは塩、酒以外どんな調味料使う? それとどんな香辛料あるか教えて。
漬け込みするのに向いてるのんがあったらええんやけど」
予め漬け込んでおくことを想定した料理を考えている。
「漬け込むというと焼き料理かい? できれば煮込み料理がいいんだけどね。人数が多いんで手間を考えると量ができる方がありがたいけど」
孤児院だとそれもそうだ。一度で量ができる煮物が向いているのは確かだ。
……先にそっちの方向で考えるか。
サクは肉を少量切り分け、塩ゆでにして口にしてみた。ムニュとした食感。
それをカンネに差し出し、感想を求める。
「ちょっと変わった食感だね、臭みもないし、食べられないことないよ。ただ味はあんまりないね。食感は子供らには抵抗があるかもしれない。もう少し薄く切ったらどうだろ」
「切るのが多くなって手間はかかるで」
「その辺はおいおいやってみるとして、とりあえず食べれるもの作った方がいいんじゃない」
二人は肉の大きさ、薄さを変え様々な調味料を試しながら試食していった。
しばらくして、10歳くらいの女の子が厨房に入ってきて言った。
「サク兄ちゃん、冒険者のおっちゃんが用事があるって来てるよ」
サクは厨房まで入ってもらうように女の子にたのみ、手に持ったゆで肉に調味料をつけていた。
冒険者は入ってきて言った。
「ヘレナが緊急の依頼があるってよ、できるだけ早くギルドに顔を出してほしい」
サクはカンネの方に振り返り、
「カンネさん、ええか、ギルドからの呼び出しやねん。」
カンネは答える。
「あぁ、わかったよ。片づけまでやっとく。
それとあんたのしたい事も分かったんで、できるとこまでやっとくよ」
「ありがと、それと子供らに出すんはちょっと待ってな。出すんやったら、ちょっとだけ」
そして冒険者に振り返り、
「これ食べてみて、あとで感想聞かせたって」
と言い残し、サクは急ぎ足でギルドへ向かった。
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朝のギルドの喧噪の中で、ヘレナは冒険者の話を耳に入れていた。
「あのB級、昨日、森の奥まで行ったみたいだぜ。無理やり同行させられてたやつらが言ってたんだが、森の奥の入口でこれ見よがしに奥に入って獲物取ってくるって言ってたらしいぜ」
「で、帰ってきたのか?」
「いや。宿にも帰ってないそうだ」
「すると今も森の奥か。どうするよ、ギルドに言うか?」
「あぁ、言ってもいいけど、自業自得ってもんだし、ギルドは介入しないんじゃないか」
ヘレナはそこまで聞いて、思った。
「……森の奥までの探索は手続きと許可がいることを彼には既に伝えているし、基本、冒険者は自己責任だ。
死のうが生きようが、ケモノに食われようが、それが冒険者というもの。
ただ、彼はここではめずらしい高位冒険者だ。恩を売って損することはない。」
ヘレナは計算していた。
「……救援を出すのは手続きを作ったギルドの立場からはできない。ただ冒険者が自主的に救援に向かうのは妨げられない。依頼料はヤツから引っぺがしたらいい」
その時、こそっと酒場の椅子に座ろうとする冒険者を見とがめた。
「あんた、一週間、酒場出入り禁止って言ったよね。」
呼ばれた冒険者は首をすくめた。
「ちょうどいい、寺院に行ってサクを呼んできてくれない? 緊急だって」
それで冒険者がサクを呼びに行かされた訳である。
時間をおかずサクはやってきた。
「緊急ってなんや。」
ヘレナはB級冒険者が森の奥に単独で入ったこと、ギルドは救援を出せないことなどをサクに説明した。
そしてサクに
「受ける受けないはあなたの判断でいいわ。それとギルドでの実績にはならないわよ」
サクは表情を変えず、
「わかった。寺院に戻って、装備整えてすぐ行くわ。
それと数人、後追いで寄こしてくれると助かる。
手間賃は本人から取ればええんやろ?」
ヘレナはニヤッとして
「受けてくれると思ったわ。気をつけてね。
それと後追いはこちらで手配しておくわ。
ただし、森の奥までいけないわよ」
「それでええで。」
サクはそれだけ言うと、踵を返してギルドを飛び出した。
振り返り、ヘレナは先日の酒場にたむろしていた冒険者たちにいった。
「そこの酒場出禁の者たち、サクからの指名依頼よ。拒否はできないわよ」
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サクは急ぎ、寺院に戻り装備を固め、
出がけに厨房へ寄り、カンネに緊急の仕事で出る旨を伝えようと顔を出した。
するとまだ呼び出しに来た冒険者が味見をしていた。
「おぅ、なにしてんねん。仕事がまってるで、早う用意していき」
そしてカンネに向けて、
「急の仕事やねん。日暮れまでには帰れる思うけど、シアさんにはそんな風に伝えといて」と言って出ていった。
外では遊んでくれると思っていた子供たちに「悪いな、仕事やねん」と声をかけると一斉に「ブーブー」と不満の声で送られていた。
背嚢の紐をしっかり体に縛り付けながら、サクは森の奥に走り始める。
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サクは最後にB級冒険者が目撃された森の奥への入口までほどなく着いた。
そこから足跡や移動の痕跡を探しながら進む。
「ブッシュ(藪)の中に入ったか」
B級冒険者は木の上の太い枝にまたがり、座っていた。
そしてその下には10頭前後の山犬が三分の一ほどは木の周りをうろうろと、そしてその他はうずくまり完全に持久戦の体制に入っていた。
「畜生!まずった。そろそろ限界が近くなってきやがった」
「どうする。一か八か強硬突破するか」
彼は追い詰められていた。
事の始まりは、森の奥に入ってしばらくしてからだった。
草をはんでいる大きいイノシシを見つけた。
気配を悟られず風下から近寄り、持ってきた短弓でその尻に向けて射貫いた。
イノシシは一瞬飛び上がり、脱兎のごとく逃げ出した。
矢の先には麻痺毒が塗られている。
ここからは追跡戦である。血の跡を追い、動きの鈍った獲物にとどめを指す手順となる。
イノシシはB級冒険者の背丈くらいの藪に逃げていったようだ。草に血がついている。
……そろそろ毒のせいで動きが鈍くなっている頃だが。
まだ、イノシシは逃げている。
彼は藪の中に入っていった。
その時、右足の甲に鋭い痛みが走った。
すぐに蹴り上げたが、なにかが藪の中を音をたてて逃げていく。
蛇か何かか?
靴の上からのため、牙は深くは入っていないはず。
直後はすぐに痛みも引いたため、そのまま追跡を続行した。
しかし、しばらくして徐々に痛みが増してきた。
……ちょっとまずいかもしれない。
そう感じ始めた時、イノシシが見つかった。
ただ想定外の事があった。
山犬が数匹、囲んでいたのだ。
イノシシは牙を突き上げ、山犬を追い立てようとしていたが、毒のせいか、今一動きが鈍い。
隙あらばかみついてくる山犬にすでに尻の回りを血まみれにされていた。
B級冒険者はそれを見た瞬間、頭に血が上った。
「俺の獲物を横取りするな!」
片手剣を抜き放ち、一匹をけさ切りにした。
その一匹は叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
返す刀でもう一匹に切りつけるが、かわされてしまう。
攻撃されたことで山犬はB級冒険者にターゲットを変えた。
回りを囲み、隙をみて噛みつこうとしているのだ。
より大きい獲物を前にした時に集団で襲う奴ら使う手だ。
出血をさそい、徐々に弱らせ、一気にとどめをさす。
それでもB級冒険者は山犬のとびかかってくるタイミングを見計らい、切り落とす。
またフェイントを使い、牽制し、刺し殺す。
3匹を戦闘不能状態にした。
ただ、
……山犬が減っていない。むしろ増えてる。
それに気が付いた時、同時に足の痛みが増してきた。
……ふんばりがきかない。思うように体が反応しない。
そう思った時にふくらはぎに痛みが走った。
噛みつかれたのだ。
そのまま引きちぎられたため、傷口が開いている。
……やばい。
彼は渾身の力をふり絞り、山犬の囲みを破り、木の幹に飛びついた。
山犬の一匹が容赦なく彼の背中に飛びつき噛みつこうとするが、革鎧に牙を立てるだけであった。
それに邪魔され、他の山犬は噛みつけない。
山犬を振り落とし、とびかかろうとするも届かない枝まで登り切った。
山犬は飛びつこうとし、吠えたてる。
ここでB級冒険者はやっと一息つくのであった。
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「どうする。一か八か強硬突破するか」
もう太陽が真上に差し掛かっている。
足はジンジン痛み、昨日から一睡もできない。水も残り少ない。
出血もしている。体力は徐々に削られていく。
ただ、ギルドの規則を破ってきた。
救援は期待できない。
B級冒険者は決心し、短弓をつがえた。
矢の数が足らないが、できるだけ山犬の数を減らしたかったのだ。
その時、向こう側の一匹が突然「ギャン!」と吠え、飛び上がり、倒れ、そのまま痙攣し始めた。そして動かなくなった。
そしてもう一匹、同じように倒された。
一瞬なにが起こったのか分からなかった。
よく見ると向こうの木の枝に黒髪の男がしゃがんでいる。そしてなにかを投げつけていた。
これで3匹目、そして4匹目。
B級冒険者も矢をつがえ、放った。一射目は外したが、2射目はあたった。
しかし、サクの放つもののように即死には至らず。その山犬は逃げていった。
山犬たちは距離を取り始め、B級冒険者が3射目、4射目と外したところで、サクは地上に降りた。
山犬たちは吠え立つ。数は減ったものの5匹いる。
サクは片手に短槍のようなものを持っていた。
しかし、いきなりそれを振り回すのではなく、山犬の方に踏み込み、別の手に持つものをぶちまけた。
粉のような物が舞い、前列の山犬がそれを吸い込むと激しく悶え苦しみ始めた。
サクはそのタイミングを逃さず、手に持つ短槍を左右に振るい、2匹をあっという間に仕留める。
あと3匹。
それらは安全な距離を取ろうとして後ずさりしたその瞬間、短槍の後端を持ち、振り回すようにして一匹を打ち据えた。そしてもう一匹を串刺し。
片手剣では到底届かない間合いだった。
そして最後の一匹。
接近戦で牙を立てようとしたのか飛びかかるが、サクは短槍を両手で持ち、それを山犬の頭にぶち当てた。
山犬は数メートル吹っ飛び、動かなくなった。
そこにサクは近づき、最後のとどめを刺した。
B級冒険者は痛みを忘れ、それを呆然と見ていた。
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「おい、降りれるか?」
サクは木の上のB級冒険者に声を上げた。
その瞬間、足の痛みがぶり返し、言葉に詰まる。
足を枝にかけようとするが、痛みで踏ん張りが効かない。
「足を噛まれて毒で踏ん張れん。ここから飛び降りるしかない」
B級冒険者は苦し気に答える。
サクが言う。
「ちょい待ち……。」
と言い、少し離れたところに置いていた背嚢を持ってきて、その中からロープの束を取り出した。
そして木の枝まで登り、両腿の付け根と脇の下にロープを回し、体を支える形で縛った。
次に、もう一本は枝に結びつけた。
「腕はまだ生きとるんやろ。体のロープは俺が下から支えたる。
両手でそのロープを持って下に降りれるな」
そう言いながら体に結びつけたロープにもう一本ロープを結び、下におりた。
枝を滑車代わりにするつもりだった。
なんとかB級冒険者は地上に降りることができた。
サクがB級冒険者を背負い、足早にこの場所を早く離れることになった。
血の匂いに誘われた他のケモノを警戒してのことだ。
B級冒険者はサクより一回り大きい。
背負われながら、B級冒険者はサクに言った。
「礼を言う。その他に言葉もない」
「ええよ、もらうモンはもらうし」
安全と思われるところに着き、傷口を見ることになった。
B級冒険者に背負わせた背嚢からいくつかの物を取り出す。
まずは毒に侵された足の甲。
パンパンに腫れていたため、靴を脱がすのが一苦労だった。
「二つ小さい穴があるな。しばらく痛いで。後遺症が残らん事祈るんやな」
ばい菌が入らないように軟膏を塗りつける。これは気休めみたいなものだ
「ほんでここやな、血は止まっとるから大きな血管は傷ついてない。幸運やな。
結構深いからしっかり消毒しとくで。」
背嚢から陶器の瓶を取り出し、高濃度のアルコールであろう液体を傷にふりかけ、汚れをふき取った。また出血し始める。
そして先ほどの軟膏をべったりと塗りつける。
目的は空気に触れさせず、ばい菌を防ぐこと。そして止血。
痛みは相当であろう、B級冒険者は歯を食い絞っている。
「町についたら、必ず医者に見てもろて、消毒しとくんやで」
布と包帯を巻きながらサクは言った。
「ちょっと聞いていいか」
B級冒険者は言う。
「なぜ、助けに来た」
サクは短く言った。
「それが仕事や」
「俺は出来る事はする。出来ん事はせぇへん」
「もう一ついいか。木の上から投げつけていたのはなんだ。
山犬が一発で昏倒してたぞ、あんなの見たことないぞ」
「あれは針みたいな棒に溝掘ってあって、毒のツボに着けると染み込む仕掛けになってんねん。当たれば見てのとおり、一発や」
ただ、当てる技量というのがとんでもない。とB級冒険者は思う。
「さぁ、いこか」
またサクはB級冒険者を背負い、歩き出した。
そこでB級冒険者はサクが短槍を持っていないことに気が付いた。
「あの槍はどうしたんだ。」
「背嚢に縛り付けてるで。
俺の国ではフクロナガサゆうてな、柄の部分がさやみたいになっててな。
そんで杖につけて槍とか長い刀みたいな使い方すんねん」
つづけて言う。
「普段は山刀で鉈とか斧がわりやな」
「便利やろ、あげへんで」




