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第4話 寺院の裏庭

第4話 寺院の裏庭



結局、昨晩はB級冒険者は来なかった。

多少の気負いがあったのかサクはなかなか寝付けなかった。


それでも朝から村に持って帰る交易品や装備の確認をしている。

背嚢は結構な大きさになっている。

これ以上になると崖の登攀に差支えが出てきそうだ。

2往復するとなるとかなりの体力を使うことになる。


しばらく思案していると、外の庭の方から子供たちの元気な声が聞こえる。

 ……ははぁ、やってんな。


子供たちがやっているのは三角ベース。

サクがそのルールを教えた。

だが、いきなりゲームができる訳ではなかった。


最初は興味の出そうな“打つ”ことから教えた。


……俺らの国では、気がつけば野球があった。

投げる、取る、打つ。

子供は誰でも、なんとなく出来るもんやった。


男の子がよくやるいくさごっこ。

これで棒で叩かれて泣いている子を見て、サクは子供たちの中に入っていった。

「もっと面白い遊びあるで」

サクは懐から小さい球を取り出した。

この間、小さい女の子にあげたのと同じような玉だ。

棒で構えている年長の男の子に近くから下からフワッと投げた。

トスバッティングだ。

空振り。

2回、3回とやってみて、なかなか当たらない。

サクが「こうするんや……」男の子と場所を交代し、“打つ”見本を見せた。

“スパン”

小気味いい音がして、球は飛んで行った。

サクにすると2分の力だが、そこそこ飛んで中庭の壁に“パン”と当たった。

子供たちが“わっ!”と歓声を上げる。


サクは年長の男の子の棒の握りを直し、もう一度“打たせた”。

今度は当たり、球はコロコロと転がっていった。


男の子は鼻の穴を大きく開いて、“どうだ”という顔をした。

すると他の子たちが「次、俺」、「次、私」と年長の男の子の棒に手を伸ばしていった。


……それが、半年ほど前のことだ。


サクは庭に出て、子供たちのところに顔を出した。


「あっ! サク兄だ」

子供たちから注目をあび、サクは手を上げた。


「ええよー、つづけぇー」

サクは邪魔にならないところに佇んだ。


遊んでいる子供は五人。

まだ小さい四人は、まかないの女のそばにいる。

全部で9人、サクが最初に来たときより1人増えている。


チームを2つに分け、対戦しているようであった。

このやり方はついこの間教えた。

アウト、セーフの考え方について説明するのも一苦労だった。


ゲームではこの中では真ん中くらいの男の子が右打席に立った。

この中では一番“クソ生意気”なクソガキだ。

しかし、構えは本格的だ。様になっている。

膝を柔軟にしならせ、センスを感じさせる。


〝パァン”と球をしばく音。球はライナーで投手の左を突き抜けていった。


「シャア!」とガキは声を上げ、左に、三角ベースの2塁に走り出した。


「ストップ!、ストップ!。止まれ。」

サクは声を上げた。

「アカンやん、教えたやろ。一塁に走らなあかんて。」


ガキが言う。

「なんでー、反対に走っていいじゃん。

こっちの方が早く塁に行けるじゃねぇーか」


「これは野球のきまりや、打ったら一塁に走る。」


「サク兄、この間、自分たちで決めたらええって言ってたじゃん」

「ちっちゃい子はゴロとったらそれでアウトって、大きい子は一塁アウトか球あて(打者走者にベースに達するまでに充てること)でアウトやでって」


サクは思い出す。

……年少の子や女の子は肩ができていない。ファーストアウトや走者当ての送球は無理。

そこからローカルルールを決めたのだが。


「うっ!」痛いところを突かれた。

言葉につまる。


「それはみんなで決めたか?」

他の子どもはポカンとするか首を振っている。


「決めごとはみんなで決めなアカン」

「みんなに認めてもらってルールや」


ガキはバツが悪そうに無言である。


ルールというゲームの根本についても教えなければならない。

そのことが……先が長いなぁ。とサクは思うのであった。


ガキはいう。

「誰が決めたんだ!」


サクは少し間をおいて言う。


「野球の神さんや!」


ガキはポカンと口を開けた。


サクは一瞬〝まずい!”と思った。

この寺院は女神の一神教だが、眷属として様々な神の名がある。

もちろん、その中に〝野球の神さん”などいるはずもない。


だが、すぐに「……まぁ、ええか」と開き直った。


ガキはまだぶつぶつ言っていたが、サクの認定で〝ヒット”として一塁の上に立ったことで、とりあえず、その場はおさまった。


そうこうしているうちにゲームは進んでいったのだが、寺院から出てきたシアの一言でゲームセットとなった。

「みんな、書き取りの時間ですよ。部屋に帰りなさい」


この寺院兼孤児院では子供たちに読み書き、算術を教えているのだ。

これは領主による要望らしい。


子供たちはわらわらと寺院に帰っていった。

その時、シアからサクは引き止められた。

「サクさん、ちょっとお話があるんだけど……」


「なんでしょ」

改まった言い方にサクは違和感を感じた。


「ちょっとね……。」言いにくそうである。

「いつも食べ物とか子供たちの事なんかお世話になってて、こんな事いうの気が引けるんだけど……。」

言葉に探しているようである。


「最近ね、子供たちが元気すぎて……ちょっと騒がしいの」

「外で遊ぶのはいいんだけど、声が大きくて」

「そのうち近所から苦情が来ないか心配で」

シアはサクの目を見ていない。


「それと服もさんざん汚してくるし、破れものも多くなってきているの」


サクは返す言葉が出てこなかった。

子供の遊びは本来こんなものではないだろうか。泣いて笑って騒いでナンボ。

サクは最初の食卓を思い出した。静かな食卓。控え目な子供たち。

この寺院の信仰のモラルなんだろうか。


サクは反論を試みる。

「でも子供たちが明るくふるまうのいいことですよ。騒いだりするのはその表れです。

悪いことをしてるわけではないですよ。押さえつけたりすると変な反動がくるものです」

言葉を選びながら話していると、自分の言葉ではない気がしてきた。


「それでもね。世話をする手が少ない中で、負担が増えてきてるのよ。わかって……。」

シアは申し訳なさそうである。


サクが言葉を探しているうちに

「じゃあ、子供たちのところにいくわね」とシアは去っていった。


……どうせい、ちゅうねん。(どうしろって言うんだ)



サクから見て、子供たちは本来の明るさを取り戻そうとしているようにみえる。それを自ら抑えることができるだろうか。


サクは頭をかいて、思案にくれるようであった。





===============================

寺院の裏庭、物陰から男がその光景を覗いていた。

B級冒険者だ。


彼は昨晩の酒場、そしてこの寺院の道々でいろいろ考えながらやってきた。

……立ち合いを望んでも、中々応じないだろう。ましてあのギルドマスターがいる。あいつが必ず邪魔をする。

ではどうするか。

森の指導をあいつに依頼する。依頼して、ギルドで模擬線を衆目の中で申し込む。

そして打ち倒して、B級の俺の強さを見せつけ、認めさせる。


そんな事を考えながらやってきた。


寺院につくと幸いにしてサクが裏庭にいた。サクの黒髪はこの世界ではなくはないものの多くはなく、すぐに目についた。

少し、観察してやろうと物陰から覗いていたのだ。

結局、最後まで見ていたのだが。


「なんだ、あの野郎!。ガキになめられ、ババァに説教されてやがる。」


そしてこうも思った。

……あれが本当に強いのか?


最初は唖然としていたが、徐々に怒りが湧き出てきた。

それから

……こんなやつに打ち勝っても、なんも得る物なんかない。

と考えが至ったのだ。


彼は決心した。一人、許可を経ず、森奥深くで狩りをすることを。



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