第7話 朝の試食
第7話 朝の試食
翌朝、目が覚めると、昨日のことが全部なくなったわけではなかったが、考えごとをしている暇もなく寺院は朝の気配で満ちていた。
身支度を整えて食堂へ行けば、子どもたちはもう朝から賑やかで、昨夜の静けさが嘘のようだ。
サクはその輪の中で朝食をとると、その足で厨房へ回った。
厨房ではカンネが、昨日の残りのトカゲ肉を前に腕まくりをしていた。
昨日の味つけに加え、今度は辛い香辛料を少し強めに利かせてみる。
「これ、ギルドの連中に食べてもらおう思うねん。その反応見て、また考えるわ」
カンネはつまみ食いしながらうなずいた。
「もう少し量があったら、いろいろ試せるんだけどね。次は来月かい。その時もまた持ってこられるかしら」
「獲物のことやからなぁ。運がよければやな。あ、ギルドの保管庫に残っとるかも聞いとくわ。あったら使いをよこすよう言うとく」
「もう行くから、シアさんとセリーネちゃんによろしく言っといてや。」
「ほな、さいならー」
カンネに別れを告げると厨房を出た。
裏庭に出ると子供たちから口々に声を掛けられる。
「もう行っちゃうの?」
「またお肉持ってきてね」
「森の話、もっと聞かせてくれー」
「また、ヤキュウしようねー」
一人ひとりに返事をしながら、ギルドに向かう。
ギルドではちょうど冒険者が出張って落ち着いた時間で、ヘレナが掲示板の新しい依頼と整理をしており、奥ではギルドマスターがタバコを吹かせていた。
「おはよーさん。ギルドマスターちょっとエエ?」
「昨日はご苦労さんだったな。で、なんだ」
「これ、作ってみてん。とは言うても、作ったんはほとんど寺院のカンネさんやけど、
大人に食べてもらって感想聞こう思うねん」
サクは背嚢からカンネに包んでもらったトカゲ肉料理を出す。
「ほう、例の肉か。早いな。
おい、ヘレナ、ちょっとこい。サクが差し入れ持ってきてくれたぞ。」
ギルドマスターが作業中のヘレナを呼ぶ。
「なによ。へんなもの食べさせないでよ」
……この人、ギルドマスターにもタメグチなんや。
へんな感心をしながら包みの中の肉を出す。
ギルドマスターはそれを一切れつまみ、口に放り込み、ひとしきり咀嚼して言った。
「ほう、これはなかなか。独特の食感だな。味付けはちょっと癖になるような味付けだ」
それを見ていたヘレナも一つまみし、口に入れる。
「お酒のつまみにはちょうどいいかもしれないわね。塩気と香辛料が強いけど、冒険者連中には受けそう」
しばらく咀嚼してから、ヘレナが眉を寄せる。
「で、これ何の肉?」
ギルドマスターが口角を上げた。
「おとといのトカゲだ」
ヘレナは一瞬うっと喉をつまらせたが、どうにか飲み込んだ。
「あんた、なんてもん食べさすのよ!」
「まあまあ。土地によっちゃ普通に食うし、名物にもなってる。油も少なくて身体にもいいぞ」
「虫まで食べてたあんたに言われても信用できないんだけど」
「あれは非常時だ!」
ここでサクが間に入り、目的を言う。
「他の冒険者にも食べさせてほしいねん。それで感想とか聞いといてくれると助かる。
あっ、それと具合の悪なった人おったら気を配ってほしいねん。」
それを聞いたヘレナがちょっといたずらっぽく言った。
「だったら、あいつらになんの肉か言わずに食べさせよう。拒否不可の依頼よ」
サクが言う。
「あっ、それエンゾのやつが味付けで手伝ったみたいやで」
「それで思い出したんやけど、エンゾのやつ、寺院でB級冒険者の話を漏らしたみたいやねん。子どもらにまで知れとる。今後まずいこともあるやろし、ギルドの話はあんまり外で言わんよう、ヘレナさんから締めといてもらえるか」
「あいつは、もぅ!一生、出禁にでもしてやろうかしら!」
「あぁ、でも程々にしといてあげて、そんな悪う言うてないし、味見の手伝いまでしてくれたんや」
それから、査定の事や、交易の事、そしてトカゲの肉の残りを寺院のカンネに渡す手配を話し、出発した。
「ほな、さいならー」
それから数時間たって正午を過ぎた頃、ヘレナは2階で寝ているランスの様子を見に行くことにした。
昨日、帰ってから医者に来てもらい、薬を出してもらって、そのまま2階の宿泊施設に滞在した。
正午を回るころになって、ようやくランスは目を覚ました。
薬が効いたのか、消耗がよほど大きかったのか、自分でも驚くほど眠っていた。
目が覚めると、まず思ったのはサクのことだった。
今日こそ、礼を言おう。
それから――体が動くようになったら、素直に教えを請おう。
そう決めたものの、いざどう言えばいいのかとなると、うまい言葉は出てこなかった。
強者として振る舞うことには慣れていても、頭を下げて教えを乞うのは久しぶりだった。
そんな所にヘレナが顔を出した。
「あら、起きたのね。どう?気分は」
「足の具合はどう?、ちょっと見せて、腫れは引いてないよね。
水で冷やす?布と桶、持ってこようか」
来た時のヘレナは敬語で冷たい印象だったが、ここではタメグチだ。
だが、柔らかくあたたかい態度だ。
それがむずがゆく感じられた。
ランスは話題を変え、お金の話になった。
「この治療費と宿代、それと救援の手数料。どんな感じだろう。
実はあまり、手持ちがない」
ヘレナは答える。
「サクたちが獲物は全部回収してきてくれたわ。イノシシは毒使ったって聞いたから、皮と牙だけ、肉はだめね。でも山犬は毒を使わずに退治したものが結構いたから全部の部位を買い取れると思うの」
「それでまかなえそうよ」
サクには頭が下がる思いだった。(ただ、サクはランスのために回収したつもりはない)
そしてランスは口にした。
「あいつには感謝するしかないな」
「それで、サクは今、どこにいる? よかったら会いたいんだ」
ヘレナは素っ気なく言う。
「あら、彼なら朝に顔を出して、そのまま山の村へ帰ったわよ。次はたぶん、ひと月後ね」
ランスは天井を見上げた。
「ぬわんだとー!」




