第8話『詐欺リスク 王が陰謀論』
シャーラプールの町に戻ると、魔王から衝撃の発言があった。
「テュエよ。さっき食べた昼食が最後のお金なんじゃ」
「……えっ!?」
魔王……。
ペイペイだけじゃなく、こっちの世界のお金も金欠なのか……。
「ワシらは晩飯を食べる金が無い……」
「マジか……」
まあ、うん。
廃課金ガチャ勢の無計画性しかない魔王の性格で、こっちの世界に貯金があるとは到底思えないけど。
「すまんが、バイトをしてくれんか?」
先ほどまでのオジサンの格好と違って、大きな目をウルウルさせて可愛い格好で懇願する魔王に、僕は断りを入れることができなかった。
そうして僕は、異世界初の労働をすることになった。
「ありがとうございましたー」
店を出る客にお辞儀をする。
僕が選んだバイトは、喫茶店の店員だ。
時給500ゴールド、即日支払い。
時給が高いのか安いのか分からないけど、即日払いという点が、このバイトの決め手だ。
だって僕たちには、今夜ご飯を食べるお金すら無いんだもん。
「いらっしゃいませー」
店内に入ってきた客にお辞儀をする。
客は、鎧を着け武装した、兵士の格好の男だった。
男から声がかかる。
「店員さん、私はモーゴレアの騎士のタナーカと申します」
タナーカって……。
「異世界なのにありふれてそうな名前ですね」
つい、口にしてしまった。
「はい?」
「あっ、いえ、何でも……」
慌てて取り繕う。
危ない危ない。
思ったことをすぐ口にしてしまうのは、僕の悪い癖だな。
「店員さんに1つ、お願いがあるんですが」
「はい、何でしょう?」
「今から1時間後、ここにモーゴレアの国王様がお忍びで来られる予定なのです」
モーゴレアと言われても、もちろん僕が知っている訳がない。
この世界にあるどこかの国なのだろう。
「こんな喫茶店に、王様が?」
バイトをしてて言うのもなんだが、ここは町の大通りから離れた場末の喫茶店だ。
所々傷んだ椅子に、色んな物が染み付いたテーブル。
さほど綺麗な店内でもない。
王様が使うには、失礼ではないだろうか?
「我が主、モーゴレア国王様は人目を気にする方なのです。大通りから外れた喫茶店でお休みいただきたいと思っておりまして」
「そうですか……」
人目を気にする王様だから、大通りに面している喫茶店より、人気のない場末の喫茶店を選んだという訳か。
男は、腰に着けている布袋をテーブルに置いた。
ドスッと重たい音が鳴る。
「ここに、50万ゴールドあります。これで、できる限りの対応をしてもらいたいのです。50万ゴールドは先払いで置いていきますので、よろしくお願いします」
男は急いでいるのか、自分の用件を言うだけ言って、店を出て行ってしまった。
「あっ、ちょっと!」
呼び止めようとしたが、あまりに早い行動で男に声は届かなかった。
「どうすんだ、これ……」
男が置いていった布袋を見て、呟く。
店長に相談したいところだけど、あいにく店長は買い出しで出掛けているところだ。
男はできる限りの対応って言っていた。
粗相のないようにすれば、問題ないだろうか……。
それから30分が経った。
王様が来るということで、店内の隅々を掃除していると、お店に武装した女の騎士が入ってきた。
店の入り口には、僕の判断でクローズの札を掲げている。
王様のために他の客を入れない為だ。
クローズの札なんてなくても客なんて滅多に来ない暇なお店だけど、念のために店を閉めておくことにしていた。
「すみません。今、お店閉めてまして」
「さきほど、モーゴレアの騎士を名乗る男が来たと思うが……」
僕はテーブルを拭く手を止めた。
「ああ、はい」
「私もモーゴレアの騎士です。実はこちらに王が来れなくなったので伝えに来ました」
僕は女の一言で内心ホッとした。
王様の対応なんて、やりたいもんじゃない。
だってそんなことしても、僕の給料変わらないし。
「そうでしたか。残念です」
思ってもないことを口にする。
まっ、社交辞令というやつかな。
嬉々とした発音にならないようにだけ、気を付けた。
「つきまして、先払いで置いていったお金を返してほしいのですが……」
申し訳なさそうにそう言う女騎士に、僕はすかさず布袋を差し出した。
「はい、どうぞ!」
僕にとったら厄介払いだ。
これで問題が解決される。
「かたじけない」
女は袋を受け取り、店を後にした。
50万ゴールドは勿体なかったけど、仕方ないよね。
店長がこの話を知れば、残念がっただろう。
まっ、肝心な時に買い出しに行って帰って来ない店長が悪い。
面倒なので店長にこの話を報告するのは、やめておこう……。
それからまた30分が経過した。
店のドアが開き、やっと店長が帰って来たと思ったら、違う人物だった。
店内に入って来たのは、先ほどのモーゴレアの騎士を名乗る男だった。
「あれ? モーゴレアの騎士の……」
僕の質問を遮り、男がハキハキと喋る。
「はい。約束どおり、王様をお連れしました!」
僕は驚いて男を見た。
「えっ、王様は来られなくなったんじゃ……!?」
「はい? 何を言っているのですか? もうここに来られてますよ?」
そう言う男の後ろには、赤いマントを羽織った高貴そうな年配の紳士が立っている。
「いや、でもさっき、他のモーゴレアの騎士の方が来て、王様が来られなくなったって……」
「そんな訳ないでしょう。王の供は、私以外来ていません」
「いやでもさっき、確かに……」
僕がそう反論すると、男騎士は怪訝な顔をして言った。
「じゃあもう分かりました。他の店に行きます。前払いで置いていった50万ゴールド、返してください」
「その50万ゴールドも、モーゴレアの騎士を名乗る女の人が持って行きましたし……」
僕がそう言うと、それまで穏やかに話していた男が、急に怒鳴りだした。
「はぁ!? 何言ってるんですか! 返せ! 50万ゴールド返せっ!」
しまった!
これはおそらく……いや、絶対にそうだ。
この男騎士と、あの女騎士はグルで、言いがかりをつけてお金を騙し取ろうとしているんだ!
やられたっ!
典型的な詐欺じゃないかっ!
「テュエよ、そろそろバイトが終わる時間じゃぞ」
店のドアが開き、何も知らない魔王が店内に入って来る。
なんとも嫌なタイミングで入店してきたもんだ。
何も知らず、笑顔で手を振りながら店内に入ってきた魔王だったが、店内の不穏な空気を感じ取り、僕の側に来て言った。
「どうしたのじゃ?」
僕は魔王にこれまでの経緯を話した。
すると、魔王は顔を真っ赤に変化させ、眉間にシワを寄せた。
「何じゃと! 詐欺ではないか!」
そう僕に告げた後振り返り、モーゴレアの騎士を名乗る男を睨む。
そして魔王は男に食ってかかろうとした。
「おいっ! おぬし! えっ、おぬし……」
だんだん、声の元気が無くなっていく魔王。
魔王は驚愕の眼差しで男を見ていた。
そして次に、魔王は衝撃の発言をする。
「おぬし……勇者じゃないかっ!」
男はフッと笑い、魔王に言う。
「おや、お嬢さん。私のことを知っているのかい?」
……は?
えっ、こいつ、勇者なの!?
この詐欺師が!?
あっ、ダメだ。
理解が追い付けない。
勇者が何でこんな所にいるの!?
勇者が何で詐欺師やってんの!?
勇者と魔王をこんな所で引き合わせてしまっていいの!?
魔王にとったら、勇者はラスボスだ。
こんな日常パートのシーンでいきなりラスボスが出現とか、どんなクソ展開なんだよ!
僕は、勇者と魔王が対峙した時、魔王に肩入れするのはやめとこうと思っていた。
今は人間じゃなくて妖精族だとしても、僕は元人間なんだから。
だから人間の希望である勇者を攻撃する気にはならなかった。
だけど、魔王も嫌いじゃない。
だから、魔王と勇者の対峙は静観するつもりだったんだ。
なのに今、僕は完全に魔王側の立ち位置で勇者と対峙している。
「思いどおりいかないのは、元の世界でも異世界でも一緒だな……」
誰に言うでもなく、呟くように僕は愚痴を言うのだった。




