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緋海皇国奇譚  作者: 名瀬口にぼし


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第2話 分断された世界での生き死に

(国が滅びるかどうかというときなのだから、私個人の幸せは別にどうだって良いのだろう。できれば気分良く、生きて死にたいところだが)


 茜子は国家のために尽くす喜びに満たされるわけでもなく、逆に国家の犠牲になることを嘆き悲しみにくれるわけでもなく、皮肉めいた納得を持って自分の置かれている立場を理解し、車窓から見える戦艦を輪郭を窓越しに指でなぞった。


 なぜ人間を軍艦に嫁がせるという奇習が数年ぶりに行われるのかと言うと、国際情勢の変化によって発生した内戦によって皇国が国家存亡の機を迎えていることが大きな理由としてある。


 約三十年前に大陸で起きた労働者の蜂起は北の帝国を滅ぼすだけでは終わらず、瞬く間に世界中の国々の政体を崩壊させ支配者を変えていった。

 大陸の思想家が全領域革命と名付けたそれらの激しい政治変動によって、世界は旧来の帝国主義を保持した国々が革命勢力に対抗するために作った同盟側と、労働者を搾取する資本家を排除し自由で公平な社会の実現を目指す国々によって構成される連邦側に分断された。


 極東の島国である皇国にもその世界的な混乱は波及し、北方の国土では農民主体の反乱軍が一方的に共和国としての独立を宣言して内戦が始まってしまった。

 帝をいただく立憲君主制の皇国と、人民の代表が集まる評議会によって自治される共和国の争いは、外国による支援の差もあってかなりの皇国不利の共和国有利で進んでいる。


 だから皇国の最終兵器である航空戦艦・緋桜の出撃は、起死回生の一手か最後の徒花か、微妙な意味を持っていた。


(とりあえず私は、負け戦のために死ぬ気の毒な皇女として皆に送り出してもらえたな)


 茜子は姿勢良く手を膝の上で重ねて座り直し、自分がこれから旅立つことになる海の向こうを眺めながら、別れ際の家族や身内の様子を振り返った。


『どうせ意味がない験担ぎのために死ぬとは損な役回りだが、決まってしまったからには仕方がないことだ。玖常

宮家の娘として、しっかりとお役目を果たして来なさい』


『これがあなたとの一生の別れになると思うと、姉として悲しいですね。こんなに大きくなったとはいえ、あなたはまだ十七歳なのに』


『立場はどうであれ、あの船に乗って戦場へ行ったら死ぬってことですよね。茜子様は、死ぬのが嫌じゃないんですか?』


 父母や姉妹、また乳母子でもある侍女も、『戦神の花嫁』に選ばれた茜子は戦場で死ぬものだと考えて、諦めたり涙ぐんだりしていた。

 しかし茜子自身は、自分の死を確信しているわけではなかった。


(だって別に、戦場に行かなければ安全だとも言えないだろう。人が死ぬ理由は無限にあるし、この戦争でも軍人さん以外が大勢命を失っている)


 災害や流行病、そして戦争が始まってからは敵軍の空爆など、茜子の婚約者となった男性たちはいつも様々な理由で死んでいた。


 だが配偶者候補が相次いで不幸な死を遂げていても、茜子はただ単に運が悪いと思われるだけで、気味が悪いとか死に取り憑かれているとか、そういう迷信めいた悪評は立たなかった。

 人は簡単に死ぬものだから、茜子の不運をそこまで特別視する理由がないのである。


 だから今の茜子が過剰に同情されているのは、皇女が戦場に行くのが珍しいからでしかなく、実際には別にそこまで死に近づいたわけではないはずだった。


(よく知らないが緋桜は丈夫に作られた浮沈艦らしいし、案外そこにいた方が生き残れる可能性もある。私の立場は特殊だが、普通は戦艦が沈むときに運命を共にして死ぬのは艦長だからな。私は戦勝祈願のための巫女なのだから、むしろ守られるべきだ)


 茜子は皇族として戦地に赴く覚悟を決めつつも、やはり本来はそこにいるはずではない人間であるために楽観的で無責任な期待していた。

 しかしその本心は命懸けで戦う人々の前ではあまりにも礼を欠いたものであるので、茜子は口をつぐんでなるべく健気そうに振る舞った。


 幸い、軍港までの送迎を担当してくれている運転手は口数が少ないので、今はまだぼろは出していない。

 だがこの先も茜子がひたむきな国家の犠牲者を演じられるかどうかは、かなり不透明なところがある。


 茜子は本来男に好かれる部類の女子ではないし、人の心を感動させられるような真摯さも持っていない。

 それでも茜子は選ばれてしまったのだから、おそらくもうすぐ滅び去るのであろう祖国のために戦う皇軍にふさわしい、偶像になる努力をしなければならなかった。

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