全部ホンモノな事あるんだ。
今回こそソシャゲに負けずに書くので応援よろしくお願いします。
アジカンを流しながら勉強していたら、ふと前奏と間奏を全部飛ばしている自分に気がついた。
「30秒程度のイントロを待てなくなったら病院に行ったほうがいいぞ」高校を中退した友人が言っていた言葉が脳裏をよぎる。
それから3ヶ月経った大学受験の終わり頃はプレイリストにある曲のイントロも聴けない状態が進行し、身体がYouTubeにあるアニソンサビメドレーぐらいしか受け付けない極限の状態が続いた。
なんとか受験を乗り越えて迎えた春休みだが、口に出すのも恐ろしい過ごし方をしてしまった。まあそれでも、しばらく経てばまたジャズとかクラシックとかを楽しむ余裕が戻るだろうと、僕は大学一年の時まではそう確信していた。
しかしメンタルが回復し、親が内緒で予約してくれていたアジカンのライブに行った折、有名錬金術アニメのopのめちゃくちゃカッコいいイントロが流れている間…
…僕の左手は一人でにSNSでサーフィンをしていた。
大学2年生の夏休み。僕は五感を同時に刺激するだけでは飽き足らず、第六感に手を出していた。状態は順調に悪化している。
「よいしょっと」
家の奥底からビデオデッキを引きずり出して、友人から貰った曰く付きのカセットビデオ100本(呪いとか心霊とかそっち系)を片っ端から消化していくのが最近の日課になっている。
早速記念すべき五十本目のカセットをデッキに流し込み、テーブルの上にはポテチとコーラとキシリトールガムと念のため(?)パソコンとタブレットも広げておく。
真っ昼間から誰もいないリビングで何でもやりたい放題できる。自堕落大学生の特権だ。
「再生っと…うわっ」
爆音で砂嵐が流れ始めた。いくら外が明るくても人気のないなかで砂嵐の音だけが聞こえるのは結構怖い。だが求めてるのは怖さではないのだ。
「ノイズが入ってるってことはアナログ放送の録画パターンかなー」
レコーダーもビデオも状態は非常に良いので、画面が砂嵐になるということは恐らく録画だろう。それは同時にお茶の間に流れたことのある映像である可能性が高くなり、第六感に触れるものである可能性がきわめて低くなるということを意味する。
「まあどんな番組かぐらいは確かめとくか」
砂嵐が流れる中、わさビーフをほおばりながらスマホを手に取る。最近青い鳥が飛び立ってしまった黒いSNSでは中々目新しい情報が得られない。
〝五年前に行方不明になった少女が自宅で遺体になって発見された〟この報道は少し目を引いたが情報が出そろっていないのか絞られているのか、自宅が東京都にある事くらいしか分からなかった。何かあったらいつかまたタイムラインに流れてくるだろうから頭の片隅に追いやる。
「遺体はハタチ…少女って歳かなぁ」
他にも色々とSNSを巡ってみたが面白そうなものは流れてこなかった。ふと時計を見るとソファに座ってから既に三十分が経過していた。無為な時間だ。
「たまには本でも読むか」
図書館で持ち出せる蔵書のうち二番目に古いものを引っ張り出してきたのを思い出した。一番目は書架に納まっていなかったので多分誰かがパクったか壊して捨てたのだと思う。そう思うほど手元のこの本も今にも崩れそうだ。
タイトルは“冒険記”とあり、サイズ感は六法全書くらいだ。著者はどこにも書いていない。ネットで調べても情報が出てこない謎の本で、貴重そうな装丁なのになぜ貸し出せるのかは司書の人も知らなかった。
「わざわざ持って帰ってきたのに開かずに夏を終えるとこだった」
ソファを浅く座り直し、膝のうえに本を慎重に置く。すごいボリュームだ。1日何ページ読めば9月までに返せるだろうか。
厚すぎて重さすら感じる表紙をめくる。見返しは無地だが何か染みのようなものが大きく広がっている。少し嫌な気持ちになったが古い本なので仕方がないだろう。
触れた瞬間に粉々になりそうな状態のページが稀にあり、一枚一枚めくるのが一苦労だ。
「おお、意外にも中身はファンタジー」
ゼット世代に優しいジャンルだ。文体は古いが解釈に困るほどの見慣れない言葉はあまりない。
しかし読みやすいがお世辞にも面白いとは言えない。登場人物の心理描写がなさすぎるしイベントの遭遇頻度が低すぎる。戦闘描写は前後上下の動きしかなく、まるで横移動スクロールのゲームプレイを見ているようだ。
それでも読もう読もうと頑張ったのだが、気づけば左手は一人でにスマホをいじっていた。
快楽中枢を抑える方法を暫し検討し、本を1ページ読むごとにオカルト掲示板から拾ってきたURLやファイルを1個ずつ開いていくことで自分に折り合いをつける。これならいつかは本も読み終わるだろう。
彼が口の中でポテチとガムとコーラを同時に咀嚼しながら、片手でスマホを、片手で本をスクロールする動きを交互に三十回ほど繰り返したとき、事は起こった。
ページが捲られた直後に古書が鈍く輝き始めたのだ。文字が躍り幾何学的な文様を型取り始める。結構な光量を放っているがスマホをポチポチする大学生は気が付かない。
同時にテレビの砂嵐も消え、10フレームに1回ほど白装束の長い髪の女性が画面に表示され出した。しかしスマホをポチポチする大学生は気が付かない。
ネットサーフィンで見つけてきたファイルの一つ一つを開ける際、さすがにウイルスを恐れて拡張子の確認ぐらいはしていた大学生だったが、今まさに惰性で開こうとしているファイルが.exeだということに集中力を欠いている大学生は…やはり気が付かない。
ついでにパソコンもタブレットもガタガタと震えていたが当然気づくわけもない。
「ダウンロードして開くっと…え?」
ふとスマホから目を離した時に視界に入った光景が、彼がこの世界で最後に見る物になった。
刺激物で散乱したテーブル、テレビ台の上の家族写真、母に干しといてと言われて放置していた洗濯物が入った籠、父が呪詛を吐いていた壊れかけの目覚まし時計、テレビから這い出てくる白装束の女、本から床へ投射された巨大な魔法陣、宙に浮き錐揉み飛行をするタブレットとパソコン、そしてスマホの液晶から凄まじいスピードで展開していく人をすっぽり包むほどの大きさの球状の領域。
待ち望んでいた情報量の洪水に溺れることで彼は確かな満足感に包まれ、安らかな顔で口の中のものを嚥下した。食道から胃にかけてわさびと炭酸とキシリトールによって蹂躙されているのを感じながら、次第に意識は薄れ、目が覚めたときには…
異世界転移して魔法少女に変身し幽霊に追いかけられながらドーパミンを必死に捻出するための旅が始まるのだ。
カルピスは濃ければ濃いほど美味いんです。つまりそういうことです。




