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第12話 白石合流:金の審理

 王都広場の朝。

 壁は四枚。三倉の写し板が増え、外れ区の小板が合流している。

 ――今日は「四 金」。

 補償基金を一本にする。白石合流。


 砂時計を返す。白砂が落ちる。

「順番は守る。“金”は最後。だが、最後は強い」



 開会告示。

 署名の列は短く、目は固い。

 ヴォルク侯。商会代表タミ。寺の僧正代理。学院香術師。市の会計。

 それぞれが、自分の恥を握って並ぶ。


「審理の枠は三つ」

 私は板に太字で刻む。

 〈被害の額〉〈負担の配分〉〈運用の透明〉

「数字は冷たい。だから、鳴りを添える。白石は拍。金は約束」



 一、被害の額。

 私は外れ区の写し板を開き、咳の線と“湿る撤去”の数を読み上げた。

 ミーナが白石の箱を押し出す。

「被害家は白石三を自動付与。重症は五。――まず“息”を守る」


 会計官が眉を上げる。

「白石は金ではない」

「速さが金。白石は速い。息の速度に間に合う」

 私は銅貨の皿を指し、次に白石の箱を叩く。

 銅貨は重く鳴り、白石は高く鳴る。

「主作用が違う。銅貨は遅い補償。白石は先手の拍」


 会計官は短く頷き、書記が“先手補償”の欄を増やした。



 二、負担の配分。

 私は三倉の板を横並びにし、赤糸で線を引く。

 〈寺院寄進→外れ区〉〈商会無償→祭前後〉〈学院暫定→香増量〉

「加害の“意図”は問わない。投与量の失敗を問う。

 だから、負担は“量に比例”。拍で割る」


 侯爵が口を開く。

「領主として、私財から出す。だが、どれほど」

「三つの鳴りで決める」

 私は封蝋を弾く(倉の濁り)。

 行商の樽を弾く(濁り)。

 白石の箱を弾く(澄み)。

「濁り一つにつき、白石十。寺は七、商会は四、学院は一。侯は**“広場の壁三年分”**を受け持つ。私は“管理手間”を負担。人の時間で払う」


 僧正代理が目を伏せ、やがて顔を上げる。

「受ける。寄進は止めない。だが寄進の壁を立てる」

 タミが肩を回し、帳面に**“無償の根拠欄”**を増やす。

「やる。数字の恥は、次で取り返す」

 学院香術師は静かに言う。

「暫定を減らす。決裁印+鳴り記録を義務化」



 三、運用の透明。

 私は新しい板を出した。

 〈白石合流(統合基金)〉

 枠は四つ。

 〈入〉〈出〉〈残〉〈理由〉

「“理由”の枠が肝。空欄で晒す。

 白石は鳴りで確認。銅貨は日次差分。

 “寄せ”は寺の壁、“出し”は商会の壁、“改訂”は学院の壁。三重で回す」


 会計官が手を挙げる。

「管理は誰が?」

「みんな」

 ざわめく。

 私は笑って首を振る。

「壁が管理。人は鳴りを聞く。

 でも、署名は必要。――“壁番”を置く」


 カイが一歩出る。

「運ぶのは得意だ。壁番、やる」

 ミーナが手を挙げる。

「数えるの得意。白石、毎日数える」

 会計官は短く笑って、頷いた。

「なら、回る」



 ここで異議。

 外套の紋章は、王都帳簿局。

「“白石”は任意だ。偽装ができる」

「だから、鳴り」

 私は白石を一つ、木棚に落とす。澄む。

 次に偽の白石(石灰玉)を落とす。――濁る。

 広場が笑い、外套が赤くなる。

「耳は帳簿より厳しい。

 それでも不安なら、“空欄晒し”で詰める。理由なき白石は、翌日には恥になる」


 帳簿局は口を結び、やがて肩を落とした。

「……記録の写しを、局の壁にも貼りたい」

「歓迎。壁は増えるほど強い」



 補助線。

 “金”の話を“息”から離さないため、私は鍋を出す。

 今日の粥は砂糖少なめ、生姜多め。

 価格札は拍値で固定。〈白石三/銅貨二/労働一刻=大石一〉

 祈りの場の清掃人が一口飲んで頷く。

「金の話なのに、息が入る」

「金は拍。拍は吐く。吐ければ、入る」



 合意の刻。

 私は板の下段に、署名の枠を並べる。

 侯爵。タミ。僧正代理。学院香術師。会計官。帳簿局。セルジュ。ライサ教授。

 それぞれが書き、最後に私がひと拍遅れて書く。

 ――壁番・薬師リゼ。


 砂時計の砂が尽きる。

 私は白石を三つ、**統合基金の“入”**に落とす。

 澄んだ音が三つ。

 広場の背が伸び、息が入る。


「白石合流、開始」

 私は短く告げ、板に但し書きを挿す。

《但し書き:白石の“偽”は濁りで判別。理由欄が空欄のまま翌日を越えた場合、恥の掲示。恥の掲示は三日で“出”へ転記(返上扱い)。》


 タミが小声で笑う。

「経済ざまぁが静かに始まる」

「静かなほうが、長く効く」



 解散の前。

 僧正代理が近寄り、掌を見せる。白い粉。

「祭の布に残っていた“香”。燃やさずに語りへ戻す方法を、教えてほしい」

「壁に文様の写しを貼って、声で拍を刻む。

 布は箱に寝かせる。風の日に開かない。再投与になるから」

 僧は深く頭を下げた。

「文化=投薬。……覚えた」


 セルジュが私の横で砂時計を裏返す。

「父上は、恥を受ける選択をした。怒鳴る、が、座る」

「座る怒りは仕事になる」



 夕刻。

 壁の足元で、子どもが拍石を数えている。

 “入”が増え、“出”が動き、“残”が鳴る。

 私は疲れを記録板に書く。

〈壁番の疲労:中。生姜と休み。〉

 ライサ教授が肩で笑う。

「自分を診るようになったね」

「先生に言われたから」

「言われて、やったからだ」


 風が一度だけ強く吹き、透明板の面が鳴る。

 甘さは少ないが、良い音だ。



 最後の小事案。

 帳簿局の若い吏員が駆け寄る。

「“白石”の換金は?」

「しない。拍は拍。銅貨に変えると、主作用が変わる」

「では貧しい家は?」

「白石で買える店を増やす。商会の露店、寺の炊き出し、学院の実験食。三方で受ける」

 タミが親指を立てる。

「やるわ。回ったほうが儲かる」


 吏員は顔を赤らめ、でも、笑った。

「壁の写し方を教えてください」

「線は太く。空欄は空欄で晒す。字は、泣きながらでも書ける」


 夜が落ち、鐘が一度。

 私は封蝋台の火を消し、今日の最後の一行を書く。

《副作用:“無償”の言い訳に効く可能性。用法用量:毎夕“差分”を見ること。》


 薬は体に。処方は世界に。

 金は最後。最後は、長く効く。


本日の処方メモ(3行)

・白石=拍。銅貨=遅い補償。両方いるが、先手は白石。

・負担は“意図”ではなく量で割る。濁り一つ=白石十。

・理由欄が肝。空欄晒しは恥という薬を作る。長く効く。


次回予告

#13「反撃の書状:訴訟と妨害を壁で迎える」――“無償の根拠欄”に噛みつく者たち。返答は鳴り+差分。

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