地獄の近接戦闘
本部棟は、一瞬にして地獄へと変わった。
消音器を付けた短機関銃の発砲音と共に、警備隊員たちは正確に首や頭部を撃ち抜かれ、次々と斃れていく。
「チッ」
ついに短機関銃の弾が尽き、レーナは舌打ちをした。
即座に警備隊員たちは激しい応射を行い、レーナは地面を転がって柱の影に隠れる。
拳銃の弾も撃ち尽くしたし、ナイフも敵兵の脂肪が付着して切れ味が落ちてしまった。
もっとも、それはレーナにとってしてみれば、少しだけ面倒臭いといった程度の問題に過ぎない。何しろ、武器はそこら中にあるのだ。
レーナは地面に倒れて呻いていた警備隊員の首筋にナイフを突き刺して止めを刺すと、彼から銃と弾倉を奪う。
「またか」
盾を構えた隊員を先頭に廊下を進んでくる警備隊員たちを見て、レーナはため息をつく。
彼女は手榴弾のピンを抜いて、投擲した。
爆轟。
爆風と共に飛び散った鋭い破片が、廊下に密集していた警備隊員たちを、まとめて吹き飛ばした。
レーナは、手榴弾で重傷を負った隊員たち一人ひとりに自動小銃で止めを刺しながら、廊下を駆け抜ける。
たまに現れる警備隊員を殺害しながら本部棟を進んでいたレーナは、開けた空間に入って、そこで立ち止まった。
柱が規則的に立ち並び、土嚢で陣地が構築された、広い空間。
その先には、分厚い扉が鎮座していた。
「あそこが司令部か」
レーナは呟く。
彼女の任務は、警備隊員を本部棟に引き付けるというものと、もう一つ、レトナーク空軍基地本部棟の地下二階に設置されている、基地司令部を破壊するというものがある。
既に爆撃機などの重要な目標に対する破壊工作を完了しつつあるレーナたち工作員にとって、基地司令部は攻撃目標としての価値は低い。
だが、佐官や将官クラスの高級将校を殺害し、そこに設置されている機材を破壊すれば、ダミア帝国にとっても多少の痛手となる。
もっとも、それぐらいしか小国ウーフェン共和国にはできることがないという話なのだが。
その上、それは爆撃機に対する破壊工作のついでとして命令された任務で、任務の高い難易度の割に重要度はそこまで高くない。
だが今、レーナはその任務を達成しようとしていた。
「来るぞ!」
「射撃用意! 必要があれば各自撃て!」
警備隊員たちは一斉に銃を構えた。
レーナは無言のまま手榴弾のピンを抜いて、投擲する。
爆発音と共に、前方に展開していた警備隊員たちが弾き飛ばされる。
その隙をついて、レーナは一気に突撃を開始した。
レーナは、地面に倒れた隊員を持ち上げて盾にしながらフルオートで撃ちまくると、素早く弾倉を交換して、再び射撃を続ける。
肉薄してきた隊員は銃床で殴りつけて地面に押し倒し、膝で首をへし折った。もちろん、その間も射撃を止めることはしない。
さらに射殺された隊員の腰から銃剣を奪い取り、至近距離から射撃しようとした隊員の首筋に突き刺す。隊員は動脈を切断され、激しい血飛沫は天井にまで届いた。
返り血で汚れながら、レーナはひたすらに撃ち続けた。
建物の中で反響する発砲音は、徐々に減っていく。