通報番号3712−C
記録形式:政府機関・緊急通報録音記録(抄録)/2041年2月
【記録概要】:
通報者:男性(30代後半と推定)
通報先:市内保健監察局 夜間受付
録音時間:20分32秒
通話記録番号:3712−C(記録指定:封鎖保留)
以下、通話抄訳。
通報者(男):あの、変なことを言うようですが、誰にも相手にされなくて……。
職員(女):はい、どうぞ。落ち着いてお話ください。
通報者(男):ええ……その、うちの妻の話なんです。
職員(女):ご家族の方に異常が?
通報者(男):いや、異常というか……もう“存在してない”ような気がして。
(約3秒の沈黙)
通報者(男):いや、家にはいます。姿も、声もあります。
でも、記録が、全部……無いんです。
戸籍、保険証、婚姻届の写しも。
写真も、スマホの中から消えてて。
……それだけじゃない。最近は、隣の部屋にいるのに、足音がしない。
飯を出しても減ってない。
話しかけると、必ずワンテンポ遅れて返事があるんです。
職員(女):それは、ご本人に確認されましたか?
通報者(男):はい。でも……その返事が、“違う”んです。
言葉は同じでも、声の高さが違う。語尾が変なんです。
……いや、それよりも、なぜか……
彼女が返事するたび、俺の記憶が曖昧になるんです。
まるで、“こっちの方が正しい”って思わされるみたいに。
職員(女):……お名前、伺っても?
通報者(男):ああ、妻の名前は……(※音声、ここで消失)
【備考】:
・通話終盤、10秒以上の音声揺らぎあり。通信機材異常の記録はなし。
・通報者の連絡先は現在無効。照合される氏名・連絡先情報も一切存在せず。
・本記録は封鎖指定(B−5)とされ、一般調査資料への転用は不可。