週刊スタンド特集記事:増える“名前を失う”病
記録形式:一般週刊誌・記事写本(2042年7月10日号)/記者名義不明
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【増える“名前を失う”病 識者は語る「これは記憶の風邪ではない」】
近ごろ巷で囁かれる、“名前を忘れる病”をご存知だろうか。
先週、本誌編集部には「娘の名前を思い出せない」「同僚全員が“彼”の名前を間違えて呼ぶ」など、
全国から計149件に及ぶ読者の声が寄せられた。単なる物忘れや流行の噂にしては、やけに“形式”が揃っている。
◆最初に失われるのは、「他人の名前」
この症状(仮に“対人名短期消去症”とでも呼ぶべきか)は、いくつかの特徴を持つ。
・本人に自覚がないまま他者の名前を忘れる
・名前を間違って記憶していることに周囲が気づかない
・特定人物について「初対面だ」と錯覚するケースも
読者の中には「まるで人間の輪郭が少しずつ薄くなるみたい」と表現した人もいた。
◆“あの人の話”はしてはいけない?
驚くべきことに、編集部で一部の投稿者に再度連絡を試みたところ、
「該当する人物は存在していない」と返答されたケースが複数あった。
家族構成に“その人”の記録が残っていないのだ。
それでも、「夢にだけは現れる」「声だけは覚えている」という証言も寄せられている。
この症状がウィルス性のものか、集団的な記憶障害か、あるいは新種の心理現象かは専門家の間でも意見が分かれている。
しかし、ある精神科医はこう述べた。
「“名前”は社会の最小単位です。それが崩れるということは、関係性の崩壊を意味します。
そして関係性が壊れれば、社会は……」
——取材は途中で中断された。
※この特集は、翌週号では続報が掲載されず、編集部による補足もなかった。