Re: あの人たちのこと
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発信日:2041年9月14日 AM03:12
件名:Re: あの人たちのこと
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(前略)
言ってたよね、「一度会ってみたい」って。あの人たちに。
その気持ちはわかるけど、
今なら、もう、私はそう思わない。
会ったんだよ。たぶん、あれが“そう”だった。
誰も喋ってなかった。
というか、何人いたのかもわからない。
目で見てるのに、“数えられない”ってことあるんだね。
一番近くにいたのは、白い服を着た女の人。
でも、服だったのか、皮膚だったのかもよくわからない。
笑ってた。すごく優しい笑顔だった。
見てるだけで泣きたくなるような顔。
でも、それが“自分の顔”だった。
鏡なんてなかったのに。私は確かに、あの顔を知ってた。
あの手を知ってた。あの声を、知ってた。
……“自分に会ってしまった”って思った。
言葉がなかったのに、全部伝わった。
私は、これから“戻れなくなる”って、わかってた。
でもそのときは、怖くなかった。
むしろ、安心してた。手放せる、って思った。
でもね、戻ってこれた。
たぶん、ほんの一歩だけ踏み込まなかったから。
名前を呼ばれなかったから。たぶん、それだけ。
——だから、お願い。
会いたいなんて、もう言わないで。
(署名なし)