それはひとつのスレッドから始まった[8]
今日のランチは、昔からある洋食屋。
口コミによると、40年も前には既にこの場所で営業していたそう。
しかし、だからといって古臭くもなく、私達の世代にとっては憧れの佇まい。
私はトルコライスを。
レンは豪快にステーキランチをチョイス。
背が高いから、お肉をガッツリ食べないと栄養が全身に回らないのね。
「そんな事あるかいっ! あははは」
でも、ガッツリ食べてるのには違いないよね。
老舗洋食屋。
レトロランチなんて銘打ってるけど、昭和の時代にはこんな雰囲気のこんな味わいのランチが好まれてたのだという。
私達世代には、「懐かしい」などという言葉は思い浮かばない。むしろ斬新かもしれない。だけどSNSでは、多くの人が「懐かしい味」と表現している。
つまり、昭和を過ごした世代の人達がここを訪れ、ご自身の青春時代の味を懐かしみ、SNSに投稿しているという訳だ。
「ちょっと…」
「うん、行ってきて」
レンは席を立つと、お手洗いへと向かった。
1人手持ち無沙汰になった私は…。
バッグの中から…。
スマートフォン。
今日は触らないと思っていた。
なのに自然と右手がざわつき始める。
そして、あのアイコンを親指が…。
「ミンミン…」
声を聞いて我に返る。
「ミンミンは? 行く?」
「う、うん」
戻って来たレンを席に残し、今度は私がお手洗いへと向かった。
その手には…。
「うっ……」
私の意思とは裏腹に、このスマホは手から離れてくれないのだ。
この、触れたくないアイコン。
そこに表示される数字、Mの右上の42。
「よんじゅうに…」
怖い。
何ていう数字なの!?
「大丈夫ですか? もし!? 大丈夫!?」
けたたましく響く声に、ハッと我に返った。
その個室の中には、アイコンに表示された数字に目が釘付けの私。
あまりにも時間が経っていて、レンが心配して女性店員に声をかけて欲しいと伝えたのだった。
ふとアイコンに目をやると、そこには…。
「51」
何故か安心する私だけど、どんどん増えていく数字は「炎上」を意味する。
今私は、どんな言葉で罵られているのだろう。
いやいや、今日はレンとのデート。
こんなSNS如きに心を乗っ取られている場合ではない。
このお楽しみは、家に帰ってからだ。
え? 何?
お楽しみって何よ!? 私、何言ってんのか分かんない…。
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