それはひとつのスレッドから始まった[7]
朝。
少し気怠さを覚える。
夜遅くまで MTG-roomなんかを見ているからなんだろう。
ブルーライトに刺激され、目が冴える。その上あの書き込み。憤りさえ感じた脳は、完全に覚醒した状態だった。
おそらく2時間も眠れていないと思う。
そんな状態で、今日はレンと会う約束をしている事を思い出す。
「ヤバ…もう9:00やん」
いやいや、慌てない慌てない。慌てては、化粧も上手くいかない。
落ち着いて髪を整え、赤すぎない口紅で大人の雰囲気を出す。
昨日買ったラメ入りニットを着て、ブルーのデニムスカートを履くと、食パンを一切れ頬張り、自宅を飛び出す。
スマホのバイブレーションがブルブル震えまくっているが、今日は気にしない。
おそらく、またあの良からぬ連中のアンチコメントが、飛び交う矢の如く書き込まれているのだろう。
気にしてはいけない。
気にしては…。
「ごめん! 遅くなった?」
「そんな事ないで。ほら」
レンの腕時計は、スイス製の高級品らしい。
私にはその価値が分からないけど、美しく輝いているのは間違いない。
男子って、機械物が好きなのね。
「寝坊したやろ? あははは」
見抜かれている。
整えただけでアレンジも施していない髪。時間をかけていないのが丸わかりだ。
「えへ…ちょっとね」
レンは続けて何かを言うでもなく、微笑んだ。
その笑顔にはきっと、あんまりMTGばっかやってんなよって思いが含まれてるのだろう。
それはそうと…。
気付いてくれないの?
だよね。
寝坊したこの顔の印象が強くて、服装まで目が行かないよね。
「ねぇ、レン…」
その時、雲の隙間から街に日差しが降り注いだ。
私のニットが!
「ミンミンさぁ、それ、新作?」
来たっ!
言おうと思った時、私の言葉を遮るようにレンは言った。
気付いてくれたのね。さすがレンやわ!
「うん。どう?」
「めっちゃええやん。キラキラして」
「似合ってる?」
レンはまた微笑んで、軽く体をぶつけて言った。
「ミンミンに似合わへん服なんてないよっ」
「超嬉しいっ♡」
何だこの反応は。私は平成初期のコギャルか?
聞いた話では、そういう人物が街に溢れていたと聞くが。
兎に角気持ちは落ち着いた。
だけどこれを、yo-ko0713氏がMTGで紹介したのと同型のモノとは決して言わない。
レンは私がMTGをやっている事を快く思っていないはず。この名称を聞く度、レンの表情は曇ってしまう。
だから絶対に言わない。
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