Battle 3 konoha075@yokohama[8]
―何か、会社に行くの怖くなってきたなぁ。
岸本聡美・35歳既婚、二児の母。
日曜日も飲み歩いている。いやいや、たまたまかもしれない。もしかしたら、普段は飲まない人かもしれないし、逆に週5日ぐらいは飲み歩いているかもしれない。え?
待て待て、他人の私生活なんてどうでもいい。今大切なのは…。
「レン〜♡ さっきはごめんねっ。あのね、駅前で変な奴に絡まれてぇ」
「な、何やて!?」
「あ、違うの。酔っ払いよ、酔っ払い」
「それも困る! ミンミン、其奴どうしたの?」
「明日、会社で一緒に仕事するぅぅふふふふふ」
何だか笑けてきた。仕事でペアを組む、信頼できるはずの先輩が、たぶん恐らく…、
MTG民であり酔っ払い女なのだ。
「マジかぁ? 大丈夫か?」
「うん! 今までからも一緒やったし」
確かに奴とは一緒に仕事をしてきた。だから仲間ではるはず。
いいえ、そう言って自分に言い聞かせているだけだ。さっきの酔っ払いの一件で、今私は本気で岸本聡美を退治したくなっている。
酔うだけなら構わない。問題は、酔った末の迷惑な行為だ。目の前の世界が揺れる程の衝撃を喰らわされた、私の後頭部。
こんなか弱い女子を殴るなど、もっての外なのだ。
だから退治する。
待てよ? だけど、そんな事をすれば私の仕事は? ペアを組む相手を抹殺したなら、逆に社内での私の居場所が危うい。
岸本聡美の方が先輩なのだから、他の従業員達とも幅広く交流しているのではないか?
MTGヲタだったとしても、フォロワーが私よりはるかに多いのなら、MTGでの居場所もなくなる。
何と不都合な。
いやいやいや、それも自分の事だけを考えているに過ぎない。
あぁ、過去に戻りたい。あの仕事の相棒として良い関係を築いていた過去に。
私の中で、今、岸本聡美は“悪”でしかない。もしかしたら、こうしている間にも私の普段の行動でのツッコミどころを、MTGに晒しているかもしれない。
「論破したったらええやん」
「何をどうやって?」
「それな…」
何々? 何も分かっていないレンまで、そんな面倒くさい事言うの?
「とりあえず、また連絡するわ」
「え、お、おい、ちょっと…」
少し不機嫌に言い放つと、私は電話を切った。
ごめん、レン。私が悪いねん。私が勝手に人を悪者にでっち上げて、勝手に悪事を想像して、勝手に怯えてるだけ。
本当に何をやってるんだろう。
思い返せば、私は友達であるはずの範子を、いつも「クソ女」などと呟いているし、仕事の相棒を排除したいと思ってるし、レンの事まで面倒くさい奴と思ってしまったり…ああ、もう!
レンの言う通り、私はこのSNS「MTG-room」を退会すべきなんだろう。
そして、ネットなんかに振り回されることのない、笑顔に満ちた日常を取り戻す必要があるんだ。
悪ではなく、正義に。
そのためには、SNSに蔓延る悪を退治し、平和で明るい交友関係を広げていかねばならないんだ。
何? やっぱり悪を退治しなきゃいけないの?
「やってやろうやないのっ!!」
あれ? レン君も面倒くさいの?
ミンミン、ヤバくない?
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