それはひとつのスレッドから始まった[3]
今回は、本作で使われているSNS「MTG-room」について触れています。
※もちろん架空のものです。
「居るんやなぁ、そういう奴。やたらと誰かに絡んで噛みつこうとするねんな」
呆れ顔でそう言った彼は、自分のスマホをテーブルに置いて苦笑いした。
小塚蓮。
彼の名前だ。私は彼を、ファーストネーム即ち「レン」と呼んでいる。
一方彼は、私を「ミンミン」と呼ぶ。
ちょっぴりバカっぽいが、名前で呼ぶと照れてしまうそう。
ミンミン…それを私は、ハンドルネームにしている。
MTG-roomには、老若男女問わず様々な人が登録されており、それぞれが日々の暮らしの中で感じた事を呟いたり、趣味、例えば好きなアニメであったり小説であったり、スポーツであったり、車や鉄道、飛行機などの乗り物であったり、そういったものをメインに情報交換している。
私は?
私は、主にファッションの情報をリアルな声から仕入れたいと思っている。
人気のヘアスタイルや服を始め、化粧品や小物まで幅広い情報が日々発信されていて、見ているだけでも得した気分になれるし、その情報を基にしてレンとのデートの時の服をコーディネートしたりもしている。
そういう意味で、とっても利用価値の高いものだと私は思う。
だけどこのSNS、まだ未完成な部分が多々あって、私が求めているものとは無関係な投稿までが多数表示されてしまう。
今回の件だって、そんな投稿がたまたま目に止まり、ついコメントした事が炎上を招いたようだ。
でも、何故こんな事で炎上するの?
その回答が、さっきのレンの言葉だ。
ただ彼も、そんな連中に対しての対応策となると「無視する事」以外思い付かないらしい。
そうなのかもしれない。
無視すれば、そのやり取りはやがて消滅するはず。
炎上したとて、ほとぼりが冷めるまで無視し続ければ、傷付く事もないはずなんだ。
「やめてまえよ、そんなSNS」
帰り道、レンと別れた後、私は1人歩きながら考えた。
―やめちゃえば?
そう、やめてしまえば炎上を目にする事もない。心無い言葉を浴びせられる事もなくなる。
―やめようかなぁ。
しかし―。
yo-ko0713:
「ラメ入りニット入手したよ! 柔らかいグリーンもお気に入り」
「ラメ入りニットかぁ。ヤバ…欲しくなってきた」
彼女のアンテナはとても敏感で、いち早くトレンドをチェックしてしる。
こんな人がいるのだから、やっぱりこのSNSはやめられない。
この投稿に「いいね」すると、早速ファッションサイトをチェックしてみる。
一見地味なようなチャコールグレーのニットカーディガンも、ラメの煌めきで大人可愛く見える。そんな商品説明が目に飛び込むと、もういても立ってもいられなくなった。
「週末、見に行ってみよう」
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