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魔王無き世の英雄譚~砂上に舞う『歌姫』は、高らかに『最強』を唄います~  作者: 想兼 ヒロ


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第10話 宴の終幕

(楽しい)

 ふと、心に浮かんだ言葉にアルフレッドは吹き出してしまう。


「そっか、俺は楽しんでんのか」

 認めてしまえば、疑いようのない感情。次はどうするか、相手はどうくるのか。アルフレッドはこの攻防を心から楽しんでいた。


『作り上げる 最高の舞台』

 確かに、ここは最高の舞台だ。

『夢を翼に 心を羽根に』

 疲労も軽減されている。体は、いまだに思っている以上に動いてくれる。限界は、ない。

『共に明日を飛ぼうじゃないか』


「明日か、そうだな」

 このまま続けていても、リリアンには届かない。楽しい、だけでは未来は開かれない。

 だったら、彼女が引き上げてくれた自分が、今の彼女にどこまで届くのか。燃え尽きてみたい。


「さて、いくか」

 腹はくくった。負けを恐れない。後先は考えない。どちらにせよ、これが最後だ。


 アルフレッドは、いつものように待ち構えているリリアンに向けて駆け出す。彼女の仮面の奥で目が光る。歌は続けながらも、彼が剣を振るう瞬間を見定めている。


(えっ)


 その目が大きく開かれる。距離が近すぎる。リリアンが気づいた時には遅かった。この試合、初めてしてしまった彼女の油断。アルフレッドは、その勢いのまま彼女に肩からぶつかっていく。

 もし、リリアンが受けの姿勢ではなく攻めに転じたらなすすべのなかった捨て身の突撃。それは功を奏した。直撃はせずとも、これまでなかった行動にリリアンの反応は遅れ、明らかに姿勢を崩す。


 ここだ、ここしかない。

「はああっっ!」

 アルフレッドは剣を振り下ろす。倒れ駆けた姿勢では横には避けられない。


 だが。


『絆《|きずな》 つないだ歌と一緒に』


 リリアンの顔の前を剣が通る。アルフレッドの渾身こんしんの一振りが彼女の瞳に映る。

 リリアンは片足を針のように地面に刺して回った。そして剣を、体勢を崩したアルフレッドの首元へと差し出す。


「勝負あり!」

 審判の、通る声が響く。


 そして、二人が作り上げた演目はここで終幕を迎えた。


「惜しかった、ね」

 アルフレッドは寸止めされた細い剣の冷たさを首に感じながら、大きく息を吐いた。

「いや、だいぶん遠かったな」

 アルフレッドは自身とリリアンの差を実感し、悔しさに歯をみしめる。しかし、その表情はどこか満ち足りたものであった。


 あの闘技祭から、幾月か経った頃。

「待て、待つんだ。ハートウッドくん!」

「ごめんなさぁーいっ」

 リリアンは今日も追跡から逃げ回っていた。


 今度はあまりにも時間をかけすぎて、ぐちゃぐちゃになってしまったものをそのまま提出してしまった。どうしても、やらされる課題に関しては真剣になれないのは、彼女の悪癖である。

 結果、芸術科随一(ずいいち)の熱血講師に説教されることになって逃げ出したのだ。講師陣はすでにリリアンに対しては諦めの境地になってしまっている者も多いが、彼はこの学院に来て日が浅い。故に、しつこいのだ。


 しかし、さすがの身体能力。徐々に差は広がっている。大きく引き離したリリアンの目はキョロキョロと周囲を確認する。

(あそこっ!)

 リリアンは道沿いに植えられた木に向かって飛び移った。するするっと、何の抵抗もなく登っていくと生い茂った葉の中に身を隠す。ここで、やりすごすことにしよう。


「はぁはぁ」


 追ってきた男の息遣いが聞こえる。リリアンは枝にしがみつきながら、じっと息を潜める。


(はやく、どっかいっちゃって)


 しかし、リリアンの希望通りとはいかない。彼はすぐ近くで立ち止まってしまった。さらに、何やら話し声が聞こえる。木の真下で誰かに話しかけているようだ。

「そういうやつだったら、あっちに走っていきましたよ」

「そうか! 恩に着るっ」


 講師が走り去っていく音がする。助かった、とリリアンはふぅと小さく息を吐く。

(でも、さっきの声って)

 そうなると、気になるのは講師と話していた相手だ。どこかで聞いたことのある声。気になったリリアンは葉の隙間から、下の様子を窺お(うかがお)うとする。


「おい、くせ者」

 彼はあの時と同じような仏頂面で。

「そろそろ降りてきたらどうだ」

 若干、親しみを感じる声でリリアンに話しかけてきた。


「アルくん⁉」


 慌て気味にリリアンは木を降りてくる。その様子が虫みたいで、アルフレッドは吹き出しそうになるのをこらえながら、彼女が体についた葉をパタパタと落とす様子を眺めていた。


「相変わらず、だな。それじゃあ、来年も学院に残ることになるぞ。先輩」

「うっ、アルくんに言われる『先輩』はかわいくない」


 事実だろ、とアルフレッドは続ける。実際、一年目のアルフレッドからすれば確実にリリアンは年上で間違いないのだ。


「だったら、おねぇさんに対して、もっとけいいをもって敬ってほしいな」

「敬意を持ってほしかったら、もう少し真面目にしたほうがいい」


 礼儀は体に叩きんでいるアルフレッドだが、初対面が初対面だったのでリリアンを敬うことは難しかった。理解はできたが、彼女を年上扱いするのは理性が拒否している。

 アルフレッドの物言いにまだ納得がいかず、うんうんうなっているリリアンであったが、このままでは話が進まないので顔をあげた。


「でも、ほんとにひさしぶりだねー。どうしたの? リリィに会いたくなっちゃったのかな?」

「あー」

 天を仰いだ後にアルフレッドは頬をかく。恥ずかしそうに、ぽつぽつと話しだす。


「あぁ、なんだ。一応、お礼でも、言っとかないとって思ってな」

「お礼?」

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