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第5話 限界オタク少女とあに その5 超人の兄

 凄まじい風が全身を駆け抜け、建物を貫通し外へ逃げていった。

 

 窓ガラスは割れ、建物の入り口や、事務室への扉が大きな衝撃を受けてガタガタと揺れている。

 小柄な人であれば、もしかしたら吹き飛ばされてしまったかもしれない。

 

 周囲を見ると、パスタさんもグルッヘも、遠巻きに見ていた冒険者たちも、みんながみんな耳を抑え、驚愕の顔でこちらを見ていた。

 

 いや、正確には、オレの後ろを見ていた。

 強烈な衝撃を当てられ、皆が座り込んでいた中で、一人だけそこに立っている日向なつみを見ていた。

 

「なっちゃん……?」

 

 両腕でシャツの端を掴んだなっちゃんは、自分でも感情が制御しきれないのだろう、目尻に涙を溜めながら、下から見上げるような形でグルッヘを睨んでいた。

 

 それだけなら、小動物が震えているようでもあった。

 

 だが、先ほどのソニックブームのような衝撃波と、何より今なっちゃんから溢れる圧力は――

 

「ひっっ……!」

 

 グルッヘがその場に尻もちをつき、悲鳴ともうめき声ともつかない音を出して後退する。

 

「おまえ……あにを、あにをっ……!」

 

 口から声が漏れる。いつものなっちゃんの声だが、しかしその震えすらも、なっちゃんから漏れる『何か』を感じてしまうと、途端に恐ろしいものへと変化する。

 

 なっちゃんの周囲が歪んでいるように見えた。

 

 『人を超えた』とはよく言ったものだ、これは……確かにヒトが敵うべくもない。

 へたり込んだグルッヘに、なっちゃんが近づく。

 

 一歩、なっちゃんが足を下すたびに、床に亀裂が入った。

 巨人やゴーレムが歩いているかのような地響きも聞こえる気がする。

 

 周囲の誰もが、声を上げなかった。今、目立ってしまう事にどれだけのリスクが発生するかを皆が理解していた。

 

「あ、あ……。す、すま……」

 

 グルッヘの口から漏れる声は、懺悔の様にも謝罪の様にも聞こえた。


 ズズン……。

 

 そんな声など彼女には聞こえていない。

 超人が、一歩、また歩みを進めた。


「……うるさい」

 

 なっちゃんが思い切り足を振り下ろす。

 石畳の床にひびが入り割れ、小さなクレーターを作り出した。

 

「ひっ……!」

 

 石を砕く力を有したものが、自分の頭に振り下ろされたらどうなるか。

 

 グルッヘが恐怖の声を上げる。

 もはやそれは少女と大男ではない。

 人と蟻。巨人と子供。

 

 抗うすべなどなく、一方的に蹂躙されるだけの関係。

 

「おまえ、おまえがっ……!」

 

 超人が拳を振り上げる。

 

 まずい。ただの一歩で石造りの床が陥没するというのに、そんな思いきり手を振り下ろしてしまっては。

 

 ――普通の人間ひとり。簡単に潰れてしまう。

 

「なっちゃん……ストップ!!」

 

 だから、割り込んだ。

 グルッヘがどうなるかなんて、本当にどうでもいいが。それでも、なっちゃんに人殺しにはなって欲しくなかった。

 

「……!」

 

 鼻にかすかに衝撃。

 オレの体を通り、床に風圧の衝撃波が広がった。

 

 なっちゃんは、かろうじて俺にぶつかる前に拳を止めてくれたらしい。

 

「あ、あにっっ! なんで……!」

 

 ははは。そんなの確認するなよ我が愛する妹。

 オレは、オレの命よりなっちゃんが大事なんだぜ。

 

「間に合っ……。よかっ……」

 

 言い終わるより早く。鼻から熱を持った何かが出てくるのを感じた。

 ああ、これは鼻血かな。

 そりゃあ、こんだけの衝撃を食らえば……。

 

 思うより早く。

 オレの意識は闇に溶けて行った。



ご覧いただきありがとうございました!


もし読んでいただけて、


 『ま、また気が向いたら、め、目を通してあげなくもないわよ!』


とちょっとでも感じて頂けたら、評価を頂けたりブックマーク頂けると、

筆者はそれはたいそう大喜びします!


次を書く際の活力にさせて頂きます……! あなたの評価で救われる命があります!


では、次回更新(週二回 水・日更新を予定!)をお待ちいただけると幸いです!


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