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第19話 方針会議という名の その1 この世の地獄


『も、もう無理です……。げ、げんかい……』

 

 カーペットの上に、パスタさんが一升瓶を抱えて青白い顔で座っていた。

 

 

『あははははぁぁあああーーー! あぁ~にぃぃ~! おほしさまいっぱいかも~~! うぇあははははは!』

 

 ソファの上で横になりながら、天井を仰ぐなっちゃんが、見えないものを見ていた。

 

 

『ぐす……。余なんて……。どうせ、どうせ厄介者なんですわ……。なんですわ……。ぅぅぅう……』

 

 屋敷の主のアヤメは、何故か一番隅っこで小さくなり、壁に向かって指で何かの絵を描いていた。


 

 

「どうしてこうなった……?」


 オレは、そんな地獄の中。

 

 その場に存在しない誰かに問いかけていた。


 

 アヤメが用意してくれた食事(お世辞抜きに予想以上に美味かった)を終えた後。

 

 何故か屋敷を訪れたパスタさんを入れて、今後の方針会議を始める予定だった。

 それはいい。いや、そうあるべきだ。


 プロジェクトを進めるにあたり、誰が何を担当し、どう行った方針で当たるかは大事だからな。

 

 ついこの間まで、そういった事はさんざん会社でも教えられていた。


 ――なのだが。


 パスタさんが訪れた理由を、もう少し考えるべきだった。

 先ほどギルドを出る時に、『今後の方針会議をする』なんて、そんな約束はしていなかったのだから。


 つまり、もともとパスタさんとアヤメは予定していたのだ。


 何をか? 言うまでもない。


 『二人は屋敷で飲む約束をしていたのだ』



 そこに、オレ達がパーティーを組むというイベントがたまたま被ったのである。

 それはそうだ、オレ達がギルドに現れたのも、二人にとっては予定外の事なのだから。



 くり返すが、居間は地獄だった。


 思い返せば、オレ達がこの世界に不慮の事故で飛んできた話をし始めたあたりから、なんだか雲行きが怪しくなっていたのだ。

 

 二人にとっては、別の世界の話が新鮮だったからなのだろうか。

 

 明らかに飲むペースが上がっていた。


 

「アキヒサさん……」


「ひっ……!」

 

 気が付けば、一升瓶を抱えたパスタさんが、天を仰ぐオレの後ろに立っていた。


 い、いつの間にそこにッッ!

 


 頬を赤らめ、髪の乱れたギルドに居る時よりもラフな格好のパスタさんは、見ようによっては煽情的に見えるかもしれない。

 ……青い顔に、両手で一升瓶を抱えていなければ。


「吐きそうです……うッ……ぷっ……!?」


 ひどすぎる……。


 手洗い場へ駆けていくギルドの看板娘。


 朝の時点だと、しっかり仕事をこなす綺麗で、でもちょっと抜けたところのあるカワイイお姉さんだと思ってたのに!


 オレのドキドキを返してくれ!

 

 

 


 

 

「やれやれ……」


 意味もなくテンションがぶち上がっていたなっちゃんであったが、それがいつの間にか電池が切れたようにソファーの上で眠りについていた。


 

 そんななっちゃんを、空き部屋のベッドまで運び、とりあえず息をしていることを確認。大丈夫そうなので布団を被せて横にして部屋を出る。


 オレがドアを閉める時には、既に布団が蹴り飛ばされて壁に当たり、屋敷が少し揺れた。



 寝相わっる!

 

 

 居間に戻ると、いつの間にやら戻ってきていたパスタさんが、ソファーの上に座り、アヤメに膝枕していた。

 アヤメもすぅすぅと寝息を立てている。長いまつ毛が微かに揺れていた。


 ありきたりだが、黙っていると美少女なんだよなあ。

 

 喋るとアホの子だが。

 

 

「アヤメも寝たんですか」

 

「はい。なつみさんは大丈夫そうですか?」

 

「ええ、布団を被せてきましたが、すぐに蹴り飛ばしてしまいました。まあ、超人サマは風邪とか引かないでしょうし問題ないかと」

 

「ふふ……。そうですね」

 


 軽く口元を抑えて笑うパスタさん。


「アヤちゃんはお酒弱いんです。でもいつも私に付き合ってくれて」

 

「……まあ、強い弱いは置いておいて好きそうではありますけど」


 

 でないと、片手に酒瓶持って晩御飯を呼びに来ることは無い。

 


「私はお酒大好きなんです。ほとんど酔いませんし」

 

「え……!!」


 まさかこの人、数分前にあの醜態をさらしているのを覚えておいででない……!?


「いつもはアヤちゃんに、酔い始めたところで止められるんですけど。今日はアヤちゃんが先にギブアップしちゃいましたね」


 普段はアヤメが、すぐに酔って記憶をなくすパスタさんの面倒を見ているのか……。

 

 お前、意外と苦労してるんだな……。

 膝枕の上で安らかな寝息を立てる悪役令嬢に思わず同情する。

 

 

「アキヒサさんとなつみさんの話。面白かったです。そんな事って本当にあるんですね」

 

「ええ、オレも正直実感が無いですけど」


 というか、その話は覚えてるんですね。

 

 自分の醜態だけを忘れるタイプの酔っ払いか……。


 

 二人には、オレ達が別の世界から来た事を話した。

 

 最初は驚いていたが、オレ達があまりにも世間知らずな事を既に知っていたからか、割とすんなり納得してくれた。

 


 それに、どうやらそういった異世界からの来訪者については、半ば都市伝説のような形だが聞いた事があるらしい。


 つまり、過去にもおそらくあったのだ。そういった事例が。

 


「二人の話が聞けたのも助かりました。もしかしたら、過去に同じような人間が居たのなら、元の世界へ戻る方法があるのかもしれませんし」

 

「え。ええ。そうですね……」


 

 と感謝の意を伝えたのだが、少し困ったような反応をしたパスタさんは


 

「少し、昔話をしてもいいですか?」

 

 そんな風に、話を切り出したのだった。



 ちなみにパスタさんは、先ほどまでとは打って変わって、もはやほとんどシラフに近いご様子。

 スッキリしてしまえば一発で酔いが抜けるタイプか……。これは一緒に飲む人間は大変だ。

 


 なぁ、アヤメ?

 



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