第17話 結氷令嬢 その7 くやしい……! でもっ……!
「アキ達は今住む場所を探していると。よろしければ、余の屋敷に住んでも構いませんわ。ベッドもお客様用の物が余っていますし」
「オレはアヤメとならいいパーティーが組めると思ってたんだ!!」
■
「まんまと乗せられてしまった……」
何故オレは即落ち2コマしてしまったのだろうか。
「あに……チョロインだったね……」
それは、世の中住む場所と食料とカネだからである。
なっちゃんが『元気出せよ』的な感じで、ウンウンと頷きながらオレの背中をポンポンと軽くたたく。
そんなこんなで、屋根のある家という魅力にあらがえなかったオレとなっちゃんは、アヤメに案内されながら、その屋敷とやらへ向かう途中なのであった。
「もう少しで到着しますわ!」
弾んだ声で案内するアヤメは、明らかに機嫌が良い。
こいつ、先ほどなっちゃんに詰められて半泣きだったのを忘れているんじゃないか?
言っておくが、ウチの妹は獣ぞ。
謝るなら今のうちである。
■
「着きましたわ」
「おおぅ……」
ギルドから十数分程度歩いた場所、小さな丘の上に、その建物は森を背にして鎮座していた。
思わず感嘆の声も出るというもの。
天を望む塔がいくつも屹立する様は、ヨーロッパの大貴族のお屋敷のようにも見える。
「小さなお城みたい……。まるでラブホテ(もごもご)」
思わず淫獣の口をふさぐ。
すーぐそういう事言う!
「狭い別荘でお恥ずかしいですが……」
イヤミかキサマ!
と言いたいところだが、アヤメの声は本気で素っぽかった。
「別荘?」
「ええ。ヨトゥンリングの別荘の一つを、お父様よりお借りして余が使っていますの」
ええ~……。これで別荘なの、冗談だろ……。
「なんか、魔法を見た時よりも現実感ないね……」
「いや、まったくだ……」
日本でこんなお城みたいな家に住んでる人なんて、数えるほどしかいないんじゃなかろうか。
こいつ、本当の意味でも悪役令嬢なのかもしれん。
「先日よりしばらく家令がでていますので、あまり綺麗では無いですが、お好きな部屋をお使いになってくださいな」
家令。執事かはたまたメイドさんか。いわゆるお手伝いさんだな。
まあ、この規模の屋敷なら最低でも二、三人は必要だろう。
今更それには驚かない。
「こんなホテルみたいな場所で三人で寝泊まりだよ……。何が起こってもおかしくないよ……性教育必須かも……」
「いや、何か起こすのなっちゃんでしょ……」
あと性教育はやめなさい。
さすがに。
「それでは、後ほどお食事を準備します。それまではお好きに散策するなり、お休みするなりなさってください。鍵のかかった場所以外は好きに入って構いませんわ」
「それはありがたいけど。食事って、アヤメが作るのか?」
「ええ? 何か問題でも?」
いやだって、こんな屋敷に住む悪役令嬢サマだろ? 普段は家令に料理してもらってるんじゃないのか?
「ええと。料理。出来るのか?」
「元々、余と家令で交互に作っていましたし。それなりに食べられるものぐらいは作れますわ」
んんん? なんだかその家令との関係も不思議だが。
そう言うのなら大丈夫なのだろう。
「余ちゃん……。料理も出来るんだね……」
いつの間にかアヤメの真横に移動したなっちゃんが、自分よりも背の高いアヤメを見上げながら声をかけた。
「あら、ええと。ナツ? どうかしまして?」
なっちゃんの呼び方もナツなのか。オレを当然のように『アキ』と呼び、パスタさんを『パスタ』と読んでいたことからも、年上だろうが年下だろうが関係なく、短く呼び捨てなんだろう。
その辺りはお嬢様っぽいかもしれない。
「余ちゃん結婚しよもしくはあにと結婚してくれてもいいわたしを間に入れてくれればいい別に3Pでも全然オッケーオルオアダイかも」
そして淫獣駄妹はとんでもないことを言い出した。
「ぶぅっは!」
「ちょ! な! な、なに言っていますの!?」
普段の奇天烈ななっちゃんの言動に馴れているオレもさすがに面食らう。
当然のように、アヤメも何を言われたのか半分も理解できていないだろう、それでも少しは意味がわかったのかあわあわとしていた。
「だってあに金持ちのパツキン巨乳美人でそのクセ天然ででも純情で料理も出来て一生寄生させてくれそうだよ最高で最強で無敵の悪役令嬢だよもうわたし手放せないかも……!」
感想があまりにもカスすぎる!
こいつ……人に寄生して生きる事しか考えてない……!
「これでわたしもお仕事とはおさらばだね。今日いちにち良く働いたし、もう一〇〇年は働かなくていいかも。ここに一生住も」
ヤバイ。ずっこけてシカの角を折っただけなのに生涯の労働を終わらせた気になってやがる……!
これがニートの本領! さすがの兄も見誤っていた……!
「と、とりあえず後でお呼びするので、落ち着いたら居間でお待ちになっていてください!」
言い残し、アヤメは逃げるように屋敷の奥へと引っ込んで行った。
そりゃあ、なあ……?
「なっちゃん……」
「くへ、くへへへへへ……」
涎垂らすマシーンになっている駄妹に声をかける。
「なっちゃんが追い出されても、オレは気にしないからな……。強く生きるんだぞ……」
「くへへ。くへへへへへへ……。あに安心して。わたしだけで余ちゃんを独り占めにしないから……。くへへへへ……」
あ、ダメだコイツ。自分のやらかしに何も気づいてない。