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第1話 急げ、王都脱出だ!

 ブウウウオオオオ――。


 日が昇るのと同時に、角笛の甲高い音が響き渡る。ついに魔王軍が仕掛けてきたのだ。


「来たか」


 王都の周りには堅牢(けんろう)な城壁が張り巡らされているが、しかしそれも魔王軍相手にいつまで持つか。


 俺は椅子から立ち上がると、ボロ布を一枚羽織(はお)り顔を隠す。そして長く引きこもっていた部屋を足早に後にした。



 そして久々に外に出た俺は、王都のあまりの変貌に驚きを隠せなかった。


 ほんの数年前まではそこら中を商人が行きかい、たくさんの屋台が並ぶほどに活気のあった王都の中央通りが、いまや道の端は餓死者で溢れ、家の窓もカーテンがかけられた上に固く閉ざされていた。


 しかし、そんなのに構っているほど俺も暇じゃない。


 俺はこの中央通りをさらに進んだ。


 すると今度は冒険者とすれ違った。

 おそらく、王都の城壁が破られた時に備えているのだろう。


 どのみち城壁の内側に入られた時点で連合軍の敗北は(けっ)すると言いうのに。

 それでも無駄な悪あがきをしたいようだ。


 せいぜい頑張ってくれ。彼らが行きつく先が絶望だとしても……それでも抗えるのなら。



 そうして、城壁の上で戦っている兵士が遠目からだが見えてきた頃。


「おい、止まれ!」


 重たそうな鎧を着た騎士様に声をかけられ、俺は歩を止める。


「は、はい?」


 首を(かし)げながら見てみたが、鎧の肩のあたりには金色に輝く十字の飾りがついている。

 おそらく王国を守る王国騎士様の一人だろう。

 この辺りに一般人が入ってこないように見張っていたというところだろうか?


 そんな騎士様は、俺の方を睨みつけるて、ありがたいことに警告までしてくれた。


 ……とはいっても顔をすっぽり覆っている兜のせいで、表情などまったく見えないのだが。


「一般人のこれ以上先への立ち入りは許可されていない」


 俺はてっきり「何者だ!フードを取って顔を見せろ」なんて言われるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだが、どうやらそっちの方は大丈夫だったようだ。


 だからと言って、このバカ真面目な王国騎士様の命令に、これまた真面目に従ってやるほど俺は愚かじゃない。


 この王都はもうする魔王軍の手に落ちるのだ。

 その前に俺は王都からの脱出を図らなくてはならない。


「早く戻れ、でなければここで処断(しょだん)するぞ」

「へぇ。処断?やれるもんならやってみろってんだ」


 まったくこの場から離れようとしない俺にしびれを切らしたのか、とうとう騎士様は強硬手段に出た。


 そう、俺に剣を向けたのだ。


「へぇ、やるきか騎士様?けど、剣を向ける相手――間違えたな」


 そう言いながら、俺はその騎士様との距離が一メートルくらいになるまで、ゆっくりと歩みを進めた。


 そして、向けられた剣先がもうすぐで鼻に触れる。その瞬間――すかさず俺は懐に忍ばせていた短剣を抜き、そのまま騎士様の剣を上から抑えつけるように、体重を乗っけった。


 すると、騎士様はバランスを崩し、大きく態勢を崩した。


 しかし流石は王国騎士様である。そんな状況でも剣を両手から放さなかった。


 とはいえ――まさか自分が攻撃されるとは思っていなかったのか、突然の攻撃に驚いたような表情を浮かべる。


 おかげで、剣を両手でしっかりと握っていたのにも関わらず、俺の次の攻撃への対応が遅れてしまった。


「ぐっ……!」


 次の瞬間、騎士様は小さく苦悶(くもん)の声を漏らす。


 騎士の腹下あたりにある、鎧のつなぎ目を狙った俺の攻撃が見事に命中したからだ。


「まさか自分が攻撃されないとでも思ってたのか?」


 俺は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、騎士に尋ねる。


「お前 ——魔王の手下か?」


 しかし、騎士様は俺に剣を向けたまま質問に質問で返しやがった。会話の基本くらいは押さえてほしいものだ。


「何を言い出すかと思えば……俺が魔王の手下だと?バカバカしい。それに……」


 と俺はフードを取って、隠していた顔を騎士様に見せた。


「俺が魔王の手下になれるとでも思ったか?」


 俺の顔を見た騎士様は「何故ここにいる!」とでも言いたそうな表情を浮かべた。

 ただ、すでにそんなことすら言葉にすることが出来ないのを俺は知っている。


「よく耐えてるね。それ、結構強力な麻痺毒なんだけど……」


 俺は毒のついた短剣を丁寧に懐に戻しながら、プルプルと震えている騎士様に優しく教えてあげた。


「この麻痺毒にやられたヤツは、最低でも三十分は動けない。だからそこでおとなしくしているんだな」


 それでも、騎士様は必死で声をあげて助け呼ぼとする。そこで俺は、万が一の可能性をゼロにする為、仕方なく騎士様の口を布で縛り付けることにした。


 俺は、羽織っているボロ布を破くと、俺はそれで縛り付けるため騎士様の兜をひっぺがす。

 兜の中から出てきたのは、意外にもハンサムな青年であった。


「お、よかった。俺イケメンは嫌いなんだよ」


 俺は、そのハンサムな顔立ちの騎士様の口を覆うようにして、破いた布で硬く縛り付けた。


「おっけ、これで麻痺が治っても全くしゃべれないな」


 俺は一仕事終えた感じで、二回ほど手をたたく。


「残念だったな、次からは剣を抜く相手を間違えるなよ?」


 最後に俺はそんな忠告をして、その場から立ち去るのだった。


 ◆ □ ◆ □ ◆


 さて、ひと悶着(もんちゃく)あったが俺は無事、目標にしていた城壁のすぐ目の前までたどり着くことが出来た。


 俺はこの城壁を越えて、王都から逃げるためにわざわざ王国騎士様にあんなことをしたんだ。

 あんなことをしてしまっては、どのみちこの王都に俺の居場所はない。


 しかし、王都に来た時も思ったがこの城壁……かなりの高さがある。

 十メートル以上は間違いない。


 普通の人間なら、こんなに高い城壁を越えることは不可能に近い。

 だが俺はこんなんでも勇者だ。


 これくらいの高さ、魔法を使えば――それなりに高度な詠唱を行う必要はあるが。

 それさえできればどんな壁だろうと、崖だろうと、楽々飛び越えることが出来るのだ。


 しかし聖剣じゃあそう、うまくはいかない。

 これはあくまで俺の意見だが、聖剣なんかより魔法の方がよっぽど優秀だと思う。


 なんで物語の勇者達は近接戦闘にこだわるのか。

 俺だったら遠距離から魔法で一方的に攻撃するのに。


 あ、でも俺もさっき騎士様と近接戦闘でやりやったな。てことは、聖剣よりも短剣の方が……強い?


 ふとそんなことを考えながら、俺は自分の身長の数倍はある城壁を眺める。


「まぁいっか。とにかくさっきは短剣の強さを見せたし、次は魔法の強さを見せてやろうじゃないか」


 俺はその、”それなりに高度な詠唱魔法”を行う為、深呼吸をして精神を安定させ、一拍おいてから詠唱を始める。


「契約に従いこの世の理を捻じ曲げろ――反重力アンチグラビティー

ついに始まる魔王軍との決戦。その王都を守る者の一人、モルトケ中佐は魔王軍相手に苦戦していた。次回「この国の英雄」お楽しみに!

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