第13話 不死身の勇者
「それじゃあ、遊んであげる」
「いいよ、遊ばせてやるよ。まぁ遊べるもんならな」
なーんて強がっては見たが、正直俺じゃリエールには勝てない。それこそ、全力を出さない限りは。
「地獄の業火!」
リエールが詠唱すると、炎の柱が地面から現れる。
そうしてすぐに俺の方へと【地獄の業火】は迫ってきた。
後少しで炎に飲み込まれる。
そんなギリギリのタイミングで俺は、真横に大きく飛んで交した……つもりだったのだが。
「燃えてる!燃えてるって!」
服が燃えているのを、慌てて俺は手ではたいて消す。
「あれれ?思ったより弱いねぇ。フッヒ、ヒヒヒ」
「言っとけよ。だが、俺だって一方的にやられてるワケじゃないぞ?」
確かにさっきはほんのちょっとだけ油断していたせいで少しだけ焦ったが。
「やるの?できるの?チミにぃ?」
「あぁ、かかってこ……」
「すべてを焼き尽くせ――【地獄の業火】」
俺がそう言おうとした瞬間、さっきと同じようにリエールの近くから炎の柱が上がった。
「おいおい――最後まで言わせてくれよ! ただ、残念だったな。二度も同じ技にやられるほど俺も弱くはないんだよ。」
炎の柱を指で弾くようなポーズをとる。
「契約に従い、理を反転せよ――法則反転」
俺が詠唱すると、【地獄の業火】は反転し、リエールの方へと進路を変えた。
そして、【地獄の業火】とリエールに衝突する、
「あつい、あついあついよおおおお! 殺す……お前は絶対に殺す!」
声にならない悲鳴を上げて、リエールはその場でジタバタと暴れだした。
(この勝負――もらった!)
俺は腰にある剣に手をかけるが――それよりもリエールが先に動いた。
すると眼前に【火球】が迫ってくる。
俺はとっさに【障壁】を発動してそれを防ぐが……リエールの攻撃はそれだけではない。
「炎よ、天より大地に降りそそげ」
大きな火球が次々と頭上に現れる。
「――――【流星群】」
(クソッ……数が多すぎる)
瞬間――火球が勢いよく飛来した。
そして火球は俺を炎の牢獄へと閉じ込めた。
◆ □ ◆ □ ◆
「ぜーんぜん面白くなかった」
リエールは不満そうに呟いた。
「もうちょっと強いかと思ったのに。あんなのじゃあオイラは倒せないよ。まぁ【地獄の業火】を跳ね返された時は少し焦ったけど。フヘヘヘ、オイラは最強だからね」
「それは、本当か?」
その声にリーエルは驚き、そして恐怖した。
「俺が――――死ぬわけがないだろう?」
目の前で、信じられないようなことが起きたのだ。
「戦うのは嫌いだし、つまらないし、何より面倒だ。けど、俺は自分を殺そうとした者を許すほど優しくはないんだ」
「そんな……馬鹿な」
リエールはその気迫に押され、一歩後ずさる。
「馬鹿? それは自分のことを言ってるのか?」
「ふ、ふざけるな。オイラは天才なんだぞ!」
「じゃあその天才様に教えてやろう。俺に逆らう者の……俺に挑んだ者の……そして俺を殺そうとした者の、末路」
そして彼は告げた。
「俺は――――不死身だ」
だが、そんなことはあり得ない。
生物には必ず終わりが来るし、それは勇者だろうと魔王だろうと同じだ。
しかし彼は【流星群】を正面から受けて立っている。
だからか、彼の言葉には説得力があった。
「天より堕ちろ――【電撃】」
「へっ、そんな初級魔法でこのオイラが倒せるとでも?」
「いいや、これで十分だ」
彼はリエールに言い放つ。
それと同時に【電撃】がリエールを襲った。
「ガガガガガガガ」
リエールは身をもって理解する。
彼の放った【電撃】が初級魔法の威力を越えているということに。
「チミィ、いったい何をした!」
「何も? 俺はクズでも勇者だからな」
「そうか、チミが――勇者だったか!」
「やっぱり、狙いは俺だったか。後でじっくりとそのことについて教えてもらおう」
「できるものならな……」
そう言い終わらなううちに、またもリエールを【電撃】が襲った。
「――無詠唱!? 何故、何故チミがそれを使えるんだ。それは魔王と、そして我ら四天王しか使えないんだぞ?」
「その小さな頭で考えたらどうだ、リエール」
「オイラを馬鹿にするんじゃなあああい。全てを焼き尽くせ――」
「させるとでも?」
リエールの詠唱魔法は発動しない。
「そう焦るなって。ちょっとお前の魔力との契約を解約させてもらっただけだ」
「な、何を言ってるんだ? もっと分かりやすく教えろ」
「無理だな……だって面倒くさいし、お前の小さい頭じゃ理解できそうにもないし」
リエールは、彼が自分を馬鹿にしているのだと考えた。
そして、馬鹿にされるのが何よりも嫌いなリエールは激怒した。
「さっきから馬鹿だの小さい頭だの散々言いやがって。オイラ許さないぞ」
「それじゃあお前はどうする?」
挑発するように彼は首を傾げる。
「これを、使う」
リエールは業火の剣を強く握る。
「それは少し……厄介だな」
業火の剣は千六百万度の熱を刀身に閉じ込めており、神ですら焼き尽くすと言われる剣だ。
いくら彼でも、この剣を無効化することはできないだろう。
リエールは勝利を確信する。
「どうだ、業火の剣は」
「あぁ、普通に考えたら勝てないな。なんせ業火の剣に触れたものは全て溶けてしまう。それがなんであろうと」
だから、普通の武器では打ち合うことすらできない。
「ただ、残念だったな。見えてなかったのか――この剣が」
「なっ!」
彼は腰にある剣に手をかける。
「俺に力を貸せ――グラム!」
刹那――剣は目を眩ませるほどにおびただしい光を発した。
「この剣は、グラム。始祖より受け継がれし聖剣だ」
「なんでチミがそんなものを持っている!」
「俺が勇者だから……それじゃだめか」
「そんなはずない!その剣は――魔界にあるはずだ!」
地上にも聖剣はある。
ただそれは聖剣グラムのことではない。
だから彼が――勇者が聖剣グラムを持っているなんてことは万が一にもありえないことなのだ。
「わかった、嘘だな? チミはオイラに嘘をついているんだな?」
「嘘かどうか……お前で試してみようか?」
彼は嘘をついているようには見えなかった。
少なくとも……リエールはそう思った。
伝説によると、聖剣グラムで斬られたらものは崩れ去って砂となり、星の輪廻の中に閉じ込められるだと言う。
そこから付いたもう一つの名は――輪廻の剣。
いくら業火の剣といえど、もしあれが本当に聖剣グラムなのだとしたら、打ち合うことすら難しいだろう。
勝てない。
逃げなくちゃ。
リエールは一歩、また一歩と後ずさる。
「逃げたきゃ逃げればいい。俺もできる限りこの剣を使いたくはないからな」
「べ、別に逃げるワケじゃない!違うからな。この借りは絶対に返してやる。チミ、覚えとけよ!」
それだけ言い残すと、リエールはふくよかなお腹を揺らしながら飛び去って行った。
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