第12話 勇者はセールスマン
俺が後ろを振り返ると、そこにいたのは。
「チミィ、地獄の業火で焼かれたくなぁーい~?ウヒヒ」
ソイツは、上下逆さまになった顔に、張り裂けたような不気味な笑みを浮かべながら、そんなイカれたことを平然と言った。
「魔王軍四天王――焔のリエール」
「そんな……冗談だろ?」
「いいや、間違いない。あの赤みがかった黒色の体に、角の生えた上下逆さの顔。そして、アイツが持っている剣――業火の剣。なにより、あのぽっこりと膨れた腹!あの大きな腹がリエールであると証明している」
俺はそのぶくぶくの腹を指す。
「フヘヘ、チミィ、よく知ってる、ね?へへへ」
「いや、多分……バカにされてるよ?」
「おい、ルカ。余計なこと言うな」
「チミたちィ~、いったいナニお話してるのかなぁ?面白いねぇ。エヘヘぇ」
気持ち悪い話し方のせいか、褒めているのかバカにされているのかも分からない。
だが、厄介な相手であることは間違いない。
「ルカ、逃げるぞ!」
俺は固まっているルカの手を取って走り出した。
「でもどこに!」
ルカは俺に引っ張られながら聞いてきた。
「川の中だ!」
そう言って俺はルカを川の真ん中へとぶん投げた。
「アレス――!」
ルカは宙に浮きながら叫ぶ。
そんなルカを安心させるように、俺は言った。
「いいか。俺はクズだがな、仮にも勇者だ。こんなヤツ相手にすらならねぇんだよ」
「負けないでね」
「あぁ……お前こそ溺れ死ぬなよ」
ドポンッ。
ルカが川の真ん中あたりでそんな音を立てながら少し沈んだ。
「おーけー。俺めっちゃいいやつじゃねぇかチクショー」
さて、やることはやった。
後、俺がしなくちゃいけないことは……。
「モオーしわけありませんでしたぁ。見逃していただけないでしょうか!」
リエールの真ん前で盛大に俺は土下座をした。
「何してんだバカ野郎――!この無能、アホ、クズ勇者あああああ」
川の方からどでかい声の野次が聞こえるが、俺はその程度気にしない。
俺は大人の大きな心の器を持っているから、決して気にしないのだ。
ただ後で絶対ルカをしばき倒してやるけどな。
「なにやぁってるんだぁ、チミィ?」
「ごめんと、謝罪と、謝っているんです」
「へぇ、みっつもぉ?偉いねぇ」
やっぱりだ。コイツ――とんでもなくバカだ。
「えらいでしょ?だから、あなた、俺のこと、許す。おーけー?」
「うぅーん……ゆるす?オイラ、許すってよくわかんないんだよねぇ。デゥフフ」
ニチャアっと俺のことを見下ろしながらリエールは答える。
明らかにコイツわざとやってやがる。
だがなめられてばかり俺じゃない。
俺がここに残ったのはしっかりと策があったからだ!
「どうやら、見逃してくれそうな感じじゃないな」
「あたりまえじゃあーん?おもちゃはね。遊ぶためにあるの」
おぉ……想像以上に狂ってやがる。
「じゃあわかった。僕ちゃんがとっておきのおもちゃを作ってあげるからぁ、こんかいは見逃してくれないかなぁ?」
俺の提案にリエールは少し身を乗り出す。
「そ、そのおもちゃっていうの、ちょっと、ちょぅっと気になるなぁ?フヒヒ」
よし!食いついた。
作戦の第一段階は成功だ。
「そこのカッコいいお兄さん。いや~お目が高い!」
「でしょ?でしょ?アハハハ。オイラは天才なんだよぉ?」
そう言いながらリエールはよだれを垂らす。
その姿はとても天才とは言い難いが……そこは気にしてはいけない。
大事なのは、いかに相手をその気にさせるかだ。
「さぁて、それではその商品を見てみたいですよねぇ?」
「ウヘ、フフフ。ミタァイ!」
「そうでしょうそうでしょう。いつもならお見せできないのですが!お兄さんカッコいいから、特別にお見せしちゃいますよ!」
そして、俺は地面に手をかざして、詠唱する。
「契約に従い顕現せよ――操り人形」
すると、俺の手をかざしたところから、光と共に俺が想像した通りの人形が出てきた。
「おぉぉ!すげぇんだぁ」
どうやらこの演出にはお客様もお喜びのようで、歓喜の声をあげた。
「さて、気になるお値段ですがぁ~?」
「おねだん!おねだん!」
「なんと今日だけ0ディル!無料なんです!」
「ええええええ!ビックリドゥあー」
よっし、次はこの商品の魅力だ。
「こちらの商品ではですね、なんと自動修復をはじめとして、自立歩行、人工知能までついてましてですねぇ……」
バシュッ!
リエールは操り人形を俺から動員に奪い取ると、おもちゃを買ってもらった子供みたいにまじまじと眺める。
俺の説明を聞いてるのか聞いてないのかわからないが、リエールは完全に俺が作った操り人形に夢中だ。
逃げるなら今だろう。
「というわけで、こちらは差し上げるのでそれでは……」
そう言ってここぞとばかりに、俺はこの場から立ち去ろうとしたのだが。
「これはもらってくね。でも、おもちゃはいっぱいあっても困らないんだよぉ?ウヒヒ」
立ち去ろうとする俺の背後から、リエールは声をかけてきた。
「見逃していただけたりは……?」
「ダァーメ」
「やっぱり戦うことになるのかよ!」
チクショー、なんでこうなるんだよ。
期待させやがって……。
唐突に始まったリエールとの戦闘の行方はいかに!?次回「不死身の勇者」お楽しみに!
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