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第10話 嘘だ!

「ただいまテオー」


 主に二人がゴーレムを倒した後、隠れ家に帰って来ていた。


「ルカ、どうだった?」


 テオがルカにそう尋ねるが、その答えを聞くよりも先にオリンが会話を(さえぎ)った。


「ゴーレムが、弱かった」

「あのゴーレムが弱いハズが。ってまさか、勝てたんですか?」


 テオは驚いたように目をまん丸くした。


「あぁ、アタシがこの拳でぶっ壊してやったよ」

「まさか……オリン、冗談が過ぎますよ?」

「冗談じゃねーよ。本当に粉々に砕いてやったんだよ」


 と、壁に向かってパンチを繰り出すオリン。おかげで壁が少しへこんでしまった。


「流石にゴーレムを粉々に砕いたってのは信じがたいですが、オリンが冗談を言ってるようにも見えませんね」

「あぁそうだとも。アタシは何にも嘘はついてないし、大げさに言ってるワケでもない。あるがままの事実を伝えてるだけだ」

「それが本当だとすると、オリンが強いのか、ゴーレムが弱いのかのどちらかということになりますね」

「"俺"と、オリンな」


 アンブラはやたら”俺”という箇所を強調してそう付け加えた。


「そうですね。しかしアンブラとオリンが格段に強くなったとは少し考えにくいです。となれば、ゴーレムが弱くなったの思うのが……」


 とテオは言いかけて二人の殺意にも似た視線に気づいたようだ。


「という可能性もあるということで……」


 かわいそうに……そういえば王都のお役人たちも、上と下に板挟みにされて大変だとか言ってたような気がする。


「でもさテオ、俺も二人が突然強くなったとは思えないんだよ。多分、ゴーレムが弱かったんじゃなかなって」


 と、ルカは二人の方へ視線をやる。


「まぁ……それもそうだな」


 アンブラは納得したように頷きながら、少し目を逸らした。

 もちろんオリンの方はいかにも自分が強くなったんだって顔をしてやがるが。


「とにかく、何が起こっているのかは私にもわかりませんが、ただ何かが魔物を弱くしている可能性は高いでしょう」

「例えば……魔王軍四天王とか」


 俺がそう告げると、場は静まり返った。


「なぁアレス、魔王軍四天王って……どういうことだよ」


 ルカは(おび)えるように体をガクガクと震わせながら俺に尋ねる。


「いいか。魔王軍四天王はなあまりに強大な魔力適正があるおかげで、周囲の魔物の魔力まで奪っちまうんだよ」

「だから……四天王がこの近くにいるからゴーレムが弱くなったって言いたいのか?」

「そうだ」

「嘘だ!」


 俺の言葉の全てを否定するようにルカは叫んだ。


「嘘じゃねーよ、お前だってわかってんだろ」


 多分この村をあんな風に壊しまくった連中の中にも四天王はいたはずだ。

 ルカが恐怖を覚えるのも無理はないだろう。


 けど、その可能性が高いなら、それを事実として受け止めるしかないのだ。


 ただ、ルカは体をガクガクと震わせたっきり何も一言も話さない。


「この話はまた今度にできるか?」


 今にも泣きだしそうなルカを(かば)ってか、アンブラが俺の肩を叩いた。


「そうだな、今話しても意味なさそうだし今度でいいよ」


 かく言う俺もルカが泣きそうになっているのを見ていられなかった。

 どうやらまだ俺も本物のクズにはなり切れてないようだ。


「なぁアンブラ、俺ちょっと外で星空でも見てこようかなって」

「いってこいよ」

「でも俺弱いからさ、ちょっと付いてきてくれねーか?」

「悪いが俺は疲れたからな、魔物に襲われても戦う体力なんて残ってない」


 しかし、俺はアンブラと目を合わせて離さない。


「わかったよ」


 アンブラはすこし重い返事を返すと、俺の肩に自分の腕を回して、


「さぁ行くぞ!」


 と今日の朝、聞いたばかりのセリフを言って、俺と共に隠れ家の階段を上がっていった。


 ◆ □ ◆ □ ◆



「ちょっといいかアンブラ。話がある」


 俺は冷たい風の吹く夜、隠れ家の入口のあたりで地面を見つめていた。


「どうした?星空を見に来たんじゃないのか」

「俺がそんなことをするヤツに見えるか?」

「確かに、みえねーな」


 俺の顔を少し見ると、アンブラは苦笑いを浮かべた。


「で、お前さんどうしたんだ?」

「俺が聞きたいことは一つだ」

「なんだよ、もったいぶらなくてもいいだろ?」


 アンブラは暗い雰囲気を紛らわすように茶化した。


「お前たちの関係を聞いてもいいか?」


 俺の言葉に、アンブラは無言を返した。


「お前らはさ、まったくと言っていいほどそこらへんのこと教えてくれないだろ?だから俺の方から聞くことにしたんだ」

「俺たちの関係なんて別に大したもんじゃない。そもそも俺以外はこの村の出身じゃないしな」


 まぁ、ある程度予想はしていた。

 オリンは外見からしてエルフだし、あきらかにこの村の出身ではない。

 ただ意外だったのは、他の二人も違うところから来たということだ。


「ルカとオリンは北の大樹林から来たと言っていた」


 北の大樹林、あそこにはエルフが住んでいたハズだ。

 しかし、エルフは滅多にあの大樹林から出ることはない。ましてやこんな小さな村まで来たとなると……集落から追い出されたってところか。


「あいつらも大変だな」

「なんか他人事(ひとごと)に聞こえるんだが」

「他人事だよ。それよりもテオのヤツはどうなんだ?」


 俺は一番気になっていたことを尋ねる。

 アイツだけ少しほかの連中と変わっているから、その理由が知りたかったのだ。

 しかし、俺の求めていた答えをアンブラから聞くことはできなかった。


「それがな、テオが一番わからねーんだよ。南の方からやってきたから多分魔王軍から逃げて来たんだとは思うんだが……どうにもそこらへんを話してくれなくてな」


 アンブラは少し困ったような表情で腕を組んだ。


「アンブラ、お前はそんな素性の知れないヤツを仲間として信頼するのか?」

「もちろんだ。テオは俺……いや俺らの仲間だ」


 俺の嫌いな、人を安心させるような、そんな笑顔だ。


「バカバカしいな」

「何言ってんだ。アレス、お前も俺達の仲間だぞ」


 嫌いだ。


 俺は信じない。


「やっぱ、バカバカし――うあうッ」


 俺はその時、空中に浮いた。


 嘘じゃない。俺の足は地についてないし、いつもより数メートルほど目線が高くなっている。


 つまり、俺は宙に浮いているのだ!


「ああああああああ――!」


 俺は情けなくもそう叫んだ。


 そして体から重力が消えるような感覚がした直後――今度は自由落下を始めやがった。


 その間、もちろん俺は……


「ああああああああ――!」


 とひたすら叫んでいた。


 そしてもう地面に落ちる――そう思った瞬間。俺の体は優しく受け止められた。


「シヌカトオモッタ」


 ガクガクと震えながら、何とか(しぼ)りだした言葉は棒読みで片言、そして簡潔なモノであった。


「悪かったって」


 笑いをこらえる為か、アンブラの顔はしわくちゃになっていた。


「何するんだよコンヤロー!」


 俺はアンブラの腕に、まるで赤子のように抱えられながらジタバタと暴れる。


「いやあ、お前さんがあんまりにも辛気(しんき)臭い顔するから、つい……な!」


 暴れる俺はそっと地面に降ろしたアンブラは、テヘっと言いたげに頭に手を当てた。


「でも、どうだ。これで少しは楽になったんじゃないか?」

「ふん、余計なお世話だ!」

「俺だって知ってる?それは王都ではやっていた《《つんでれ》》というヤツだろう」

「なんだよソレ!ちげーよッ!」


 ホントむかつくヤツだ。


「けど……まぁちょっと、楽しかった」

「ヘヘ、じゃあまたやってほしかったら言えよ?」

「絶対に二度目はごめんだ」


 楽しかったような、怖かったような。


 でも、こんなことが長く続かないことくらい俺は知っている。だから、俺がやらなくちゃいけない。俺の決意はより一層堅いモノとなるのだった。


「なぁ、アンブラ。俺の話、聞いてくれるか?」


 俺は俺より身長の高いアンブラを見上げて、そして答えを待った。


「もちろんだ」

不穏な雰囲気が漂うが、しかしそれでも風変りな日常は続いていた。次回「ちょっとしたお話」お楽しみに!


お読みいただき心からお礼申し上げます!


「続きが気になるぅ~!」

「面白かった!」

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