第9話 戦う二人と、見守る俺
「これは流石に……」
ボコスカ殴る、殴る、殴る。
これがいったい何のルーティーンかわかる人はいるだろうか?
なんて言ってみたかっただけだ。
別に質問しているワケじゃないし、さっさと答えを言ってしまうとしようか。
それでその答えというのだが、アンブラとオリンという二人の戦闘スタイルである。
「お前ら、ゴーレムとなんにも変わらないじゃねぇか」
ゴーレムは一辺が四メートルくらいの立法体の岩でできた体を持つ魔物なのだが、その岩の塊みたいなヤツに対して彼らは素手で――しかも確実にダメージを与えているのだ。
「そうだよ。これが俺達の戦い方ってやつだ」
「うわっ、びっくりした」
横を見ると、さっきまで気絶したまま地面に倒れていたルカが起き上がっていた。
「それで、お前は戦はなくていいのかよ」
「俺はいいよ。アンブラとオリンがなんとかしてくれる」
「信頼してるんだな」
「もちろん。だって仲間だもん」
仲間、か。
「そんなのただのお遊びだ。仲間なんてものは所詮、同じ目標を歩いている間でしか成立しない。もしお前たちの内一人でもその目標を諦めたら、そいつはもう仲間とは呼べない」
「そんなことは……」
と言いかけて、しかし続きの言葉が出てこなかったのか、ルカは黙り込んだ。
「仲間ってのはな、そんな薄情な関係なんだよ」
「薄情って……なんでアンタはそんなこと言うんだよ。俺達はそんな関係じゃねない」
何故ルカがそこまで言い切ることが出来るのだろうか。
きっと、アイツらのことを心の底から信頼しているからだろう。
「アンタが知らないだけだ。誰も裏切ったりしないし、誰も諦めたりしない。俺達は魔王軍からこの大地を取り戻すまで諦めたりしない!」
「そーかよ、そりゃよかったな」
信じてればいいさ。
でもいつか裏切られるんだ、それが仲間ってやつなんだ。
俺とルカがそんな生産性のない話をしている間にも、アンブラとオリンはゴーレムに対し着実にダメージを与えていた。
「ラストォォォオオオッ!」
二人は叫びながら、ゴーレムの体に入っている亀裂に力いっぱいのパンチをお見舞いした。
直後――岩でできたゴーレムの体にある亀裂が徐々に広がっていき、ついに岩が崩れる崩壊音とともにただの岩山と化した。
「さっすが、二人ともお疲れ様ー!」
ルカは二人のもとへ笑顔を浮かべながら走って行った。
しかし、アンブラはそんなルカの首ネックを掴んで体ごと持ち上げる。
「その前にリーダーさんよ。何か言うことがあるんじゃないか?」
「だね……だいたいなんでアタシたちが戦わなくちゃいけなくなったか。考えてみたらわかるよな?」
見えないハズのオーラが見えるくらい、二人から圧のようなモノを感じる。
「えぇっと……あれはたまたま運が悪くてデスネー」
「ルカ、この機におよんで言い訳するつもり?」
「はい……ごめんなさい」
頭を地に付けながら大げさなくらいの土下座をするルカ。
「お前にはプライドってもんはねーのかよ」
「アレス……君はプライドで命を落としたいか?」
ルカは地に頭を付けたまま俺にそう言ったのだが、俺には言葉の意味がよく理解できなかった。
そして、俺は二人の方に少しばかり視線をやってみたのだが……。
なるほど、二人は恐ろしいくらいに恐怖を与える目でルカを睨みつけていた。
「お前も、災難だな」
俺はルカに小声で話しかけた。
「あはは、これでも一応リーダーなんだけどね」
「こらそこ、無駄口叩く暇があったらしっかりと反省しなさい」
オリンのヤツ地獄耳かよ。
どうやら今の会話もすべて聞かれていたようだ。
「にしてもアンブラ。あのゴーレム……手ごたえがなかったような気がしないか?」
「そうだな、普通のゴーレムならもっと強いはずだ。それこそ俺達じゃ太刀打ちできない程度にはな」
「確かに……今回はケガのせいでテオもいなかったし、俺達じゃゴーレムに勝つことなんてできるワケないのに」
ルカも深刻そうな面持ちで考え込むような仕草をする。
しかし、そんな暗い雰囲気も長くは続かなかった。
「おいルカ、何が『俺達じゃ』だよ。お前は戦ってないだろうが」
「えへへ……それは悪かったって」
「残念だけど、これは戻ったら説教だな」
「えぇぇー!オリン、それだけは!」
「これは決定事項だ」
オリンにそう告げられた時のルカの表情はというと、それはもうこの世の終わりといった感じであった。
やっとテオが出てくるらしい。次回「嘘だ!」お楽しみに!




