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第8話 魔物と戦う…ワケがない

 「さぁ行くぞ!」


 じゃねーんだよ!


 俺は魔物と戦いながら――いや全力疾走(しっそう)で逃げながら思う。

 だが後悔しても遅いのだ。


 来てしまったからには……。



 時は(さかのぼ)ること、俺がレジスタンス?とやらに来て二日目の朝であえる。


「さて、それじゃあお前さんも来たことだし!一緒に魔物狩りに行くとしよう」


 唐突に、アンブラが提案してきた。

 もちろん俺が魔物と戦うワケがない。


「いや、俺戦うのとか得意じゃないんで遠慮しま……」

「それじゃあお前さんは前衛か後衛かどっちがいい?」


 おっと提案じゃなかったみたいだ。


 しかし、だからと言って俺はここで強く拒否することはできない。

 なぜならアンブラがまだ少し怖いからだ。


 ならばせめて……。


「できるだけ後ろの方がいいですボク弱いので」

「アレス、お前……ビビってんの?」


 横で俺とアンブラのやり取りを聞いてたルカが腹を抱えながら、俺の方を見てクスクスと笑ってきた。


「ビ、ビビってなんかねーよ!別に、魔物とか全然よゆーだし?」

「じゃあアレス、お前さんには前衛を頼んだぞ」


 すかさずアンブラは俺を前衛に割り当てる。


「ちょーっとまてアンブラ!本当に俺が前衛でいいと思っているのか?」


 前線に任されそうになった俺は、落ちつきはらった態度でアンブラに問いかける。

 まぁ、内心ガクブルヒヤヒヤなんだけど……。


「お前さん、そりゃいったいどういう意味だ?」

「どういう意味もなにも、お前ら三人とも前でバリバリ戦うんだろ?」


 ルカは殴るし、アンブラはあの見た目だ。それにオリンも恰好からしておそらく前衛。

 と、なると。


「で、テオが唯一の後衛と?」

「残念なことにな」


 いったい何に残念だと言っているのかはわからないが、おそらくパーティーのバランス的には後衛が二人ほしいという……ことか?


 いや、そうであってほしいが……多分違うだろ。


「二日前、テオは魔物と戦った時のケガはまだ治ってないよな。それで俺が前衛か?」


 俺はアンブラの頭が悪くないことを、祈るようにして答えを待った。


 そして返って来た答えは――。


「そうだ」


 当然。と言わんばかりにアンブラは首を縦に振る。


 さすがの俺だって、パーティーのバランスが大事なこと程度は知っている。

 だかコイツらにとっておそんなものは存在しないのかもしれない。


「どこのゴーレムパーティーだよ」

「何言ってんだ、俺はゴーレムじゃないぞ?」

「俺も」

「アタシも」


 ルカとオリンも立て続けにそう言った。


「まぁ確かに見た目の部分(ぶぶん)でいえば人間かもな」

「あぁ、俺とルカは人間だ……オリンのヤツはまぁ、亜人だが……」

「なんだよアンブラ、アタシは確かに亜人だけどその言い草はねぇだろ?」


 人……じゃなくて亜人がいつ怒るかなんてわからない。


 この時のアンブラも、そのつもりはなかったのだろうが、オリンの地雷を踏んでしまったようだ。


「悪かったオリン。だが、一つ言わせてもらいたい。お前の強さは人間の域を軽く超えている」


 その言葉に、少しオリンは考え込んで……


「ふふ、まぁな」


 とクールぶって答えたオリンだが、どこか照れ臭そうに頬を赤く染めている。


「なんだオリン、照れてんのかよ」

「照れてねーよ、てかうっせぇぞアンブラぁ?」


 オリンはアンブラのこめかみをグリグリと押す。


「うわぁ~すごい楽しそうだなぁ。てことで俺は後衛でのんびりしとくから頼んだぜお前ら」

「あ、おい待てイテテテェ~」


 そんなアンブラの悲鳴のような叫び声を無視して、俺は寝室へと戻っていった。



 そうして次の日の朝、俺の部屋の扉がものすごい勢いで開かれた。


「アレス、行くぞ!」


 扉が開いて出てきたのは、仁王立ちをしているルカだった。


「え、今から?」


 俺は寝ぼけながらもそう聞いた。


「い・ま・か・ら!」


 □ ◆ □ ◆ □


 てなわけで俺は今魔物と戦っている!


 いや、正確には逃げている。


 俺達の後ろには大きなゴーレムがいる。


 その姿は、まるでキレイに切り出された大理石みたいにツヤツヤとした光沢がする岩の立方体である。

 まぁ、色は一面灰色だが……。


「まだ死にたくないよおおおおお」


 そんな一見すれば大きな岩の塊みたいなヤツが、草花を圧し潰しながら俺達のことを追いかけてくる。


「おい、アンブラ。その無駄についたその筋肉でなんとかしたらどうなんだ?」


 オリンが相変わらずの枯れた低い声で言った。


「ありゃーダメだ、俺の筋肉と言えどどうにもならん。今は必死でにげるしかねーよ」

「ハハッ、そりゃーいい。サイッコーの気分だよ」


 オリンは自嘲気味に笑う。


 つまり、逃げる以外は何も策がないということだ。


「ちょっと三人とも、アホなこと言ってないでさっさと逃げるよ」

「あーいリーダー」


 そう俺達を叱ったルカは、誰よりも真ん前を突っ走っている。


「おいルカ、お前逃げ足はやいな」

「あったりめーよ。なんたって俺の逃げ足は世界最速だからなー」


 そんなバカみたいにダサいセリフを超絶ッ!かっこつけて吐きながら、ルカはさらにスピードを上げた。


 すると俺達とルカの距離はぐんぐんと開いていく。


「ヒャッハー、これが俺の最高速度(フルスピード)だぜッ!」

「何言ってんだよ……」


 俺はルカに(あわ)れみというか、軽蔑(けいべつ)というか……とにかくそんなあまり良いと言えない感情が込められた視線を送る。


「なぁ、ルカ。少しは前向いた方がいいんじゃないか?」


 先に言っておく。俺は注意したのだ。


「え、なにいってんだよ。嫉妬(しっと)か……」


 だからその直後、ルカが石につまずいて、運悪く顔面から地面に勢いよく倒れていったのは俺のせいではないのだ。


「おいおい、リーダーがこんなんでどうすんだよ」

「でもこれじゃあ逃げようにも逃げられないな」


 アンブラとオリンは、土に顔をうずめながら気絶しているルカを引っぱりながら、呆れたようにため息をつく。


「さて、こうなっちまた以上戦うしかなさそうだが……どーすんだよ」


 俺は一応、二人に尋ねてみたが、案の定。


「どーするも何も……戦うしかないだろ」

「仕方ない。アタシもアンブラのクッソみたいな意見に賛成」


 というワケで俺達――いや()ルカ(・・)以外はゴーレムと戦うことになった。


「フフ……フフフフ。久々に楽しめそうだねぇ」


 薄気味悪(うすきみわる)い笑い声をあげながら、オリンはその赤い瞳を少し輝かせた。


「あーあ、あれはダメだ。いや……今日は何もかもがダメだ」

「俺はもそう思うよ。一言で表すなら、そうだな……ここは地獄か?ってところだろ」


 オリンとか言う頭のおかしい戦闘狂(バーサーカー)エルフとの闘い方を見てわかった。


 あんなの(・・・・)といたせいでルカまでイカレちっまったようだ。


 と言っても、オリンほどルカはイカれてはないようだが……。


「さぁ、はじめよーかあ?ゴーレムさぁん?」


 白目まで真っ赤に染まったオリンの容姿は、その褐色の肌のせいかもはや魔物と同じほどの禍々(まがまが)しさすら感じる。


「いっくぞテンメェ覚悟しろやあああ」


 そう告げ、オリンは空高く舞い上がって、ゴーレムに全力の拳を放つ。


 そう、ゴーレムにだ。岩の塊に向かって生身の人間……じゃなくて生身のエルフが素手で戦おうとしている。

 普通そんなことしたら指の先から肩らへんまで、骨が粉砕骨折(ふんさいこっせつ)するところであろう。


 しかし、オリンは違った。


「嘘だろ」


 目を点にし俺達は、口をそろえてそう呟いた。


 何故か――。


 オリンの拳がゴーレムにぶつかった瞬間、大きな衝撃波が走るのと同時にゴーレムの岩の体に亀裂を入ったのである。

 驚かないワケがない。


「オリンばかりにやらせてるワケにもいかないな。後に引けない以上、俺も戦うぜ」


 どうやらアンブラの方もやる気になったようだ。


「そりゃーいい、やって来いよ。俺は後ろで見学してるから、お前らが死んでも骨くらいは拾ってやる」

「サイコーだな!いいのかお前さん、そんな損な役回り引き受けちゃって」

「いいんだよ。それにお前にとっては損な役回りってヤツかもしれねーが、俺からしたらそれこそサイコーの役回りだからな」

「じゃあ見学役、お前さんに任せたぞ」


 そうして、ゴーレム対オリン(アンド)アンブラ……そして見学の俺という恐ろしき戦場が出来上がったのである。

ハハッ、オリンのやつすげーな!もしかしてエルフってみんなあんな感じなのか? 次回「戦う二人と、見守る俺」お楽しみに!

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