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8 花がらの浴衣は女物です     (アリスン)

 朝からメサージェを探してた。昨日うっかりUGに彼女の住所教えてしまったけど、もしかしてまずかったかもしれないと思って。

 いた。中庭に座ってる。

 なんとなくしょんぼりしてる。やっばい、UGったらもう、ケダモノ!

「おはようメサージェ、ご機嫌いかが?」

元気よって言って、元気よって言って、お願い。

「元気よ」

メサージェは笑った。ああメサージェ、嘘つき。

「アリスン、あなたは?」

「あんたしだいよ。昨日UGがあんたんとこ行かなかった? あたし住所教えちゃったの。無事だった?」

「無事って、UGがあたしに何するって言うのよ。っていうかこのあたしがUGに何されるっていうのよ。住所教えてくれたのは感謝! UG、ウォルターの用心棒になるって言いに来てくれたの」

あたしは思わず眉を持ち上げてしまっていた。メサージェは私をちらりと見て顔をそらした。

「あのねぇ、やましいんだったら・・・」

「分かってる! アリスンの言いたいことは分かってる! だけどこっちに引き入れとかないと結局ライアンが取り巻きにしちゃうじゃない」

「ライアンよりウォルターの方がましだなんて言う? 本気で言う?」

「アリスン!」

メサージェは泣くような声をあげた。めっずらしい。

「どしたのよ。ナーバスじゃん」

メサージェは口をギュッと横一文字にすると、

「UGを、最悪なことにまきこんだかも」

「分かってんならやっぱりもういいって断りなさいよ」

「遅いのよ。もうどうしようもないの。昨日UGとピザを食べに行って、ライアンに会って・・・それで、ライアンとUGがアームレスリングをやって、引き分けたの」

あ〜、意味がわかんないんだけど。

「もっとはっきり言って、ライアンとUGが引き分けたみたいに聞こえちゃったじゃない」

「そう言ったのよ」

「・・・・・」

アンビリーバボー。

「今日のお昼ぐらいまでには知れ渡ると思うから聞いてよ。大勢いたからうちのガッコの生徒もかなりいたはず。ほら、デリカの店よ。でも、UGすごく嫌がってて、勝負するの。ピザ頭からかけられても黙ってて。なのに、あたしのせいで勝負することになって、それで、帰り車で送ったんだけど、UGがまったく口きいてくれなくて」

「待って待って。今度こそ本当に分からない。落ち着いて話して。あんたのせいで勝負って何よ」

「・・・サミーがあたしのママを侮辱したのよ。あたし我慢できなくて殴りかかっちゃって。もう、バカ、ほんと、バカ。UGの我慢も水の泡。まずUGとサミーがやることになっちゃって、その後ライアンと」

「その後って、サミーには勝ったの?」

「秒殺」

「うーわっ」

メサージェがサミーに殴りかかってからUGがサミーとやりあうことになるまでの顛末を聞きたいんだけど・・・ま、野暮かな。メサージェよりUGの方が怒っちゃったんだろうな。ふむ、いいじゃん、UG。初、メサージェを守ってくれる男? メサージェが守ってやるんじゃなくて。

「で、あんたが落ち込んでるのは、UGが口きいてくれなかったからってわけなんだー」

メサージェの緑色の目がゆらゆら揺れた。

「そういうことじゃないけど」

「二限目のアメリカ史、UGと一緒でしょ。一限目終わったら迎えに行こ。それでUGの様子見たらいいよ」

「・・・・・」

うわあああ、迷ってる。あのメサージェが迷ってる。こおれは来ましたよぉ。

「一緒に行ったげるからさ」

「・・・うん」

うわお!


 一限目が終わってタイプライターのクラスに行ってみたら、ちょうどUGが出てくる所だった。YAMADAの社長の息子ってのはサムライの名前にも勝てないようで、UGは今日も一人。だけど、無表情なUGが、メサージェを見たとたんあたたかく光って、口元も微笑みそうになったのを急いで噛み潰したのをあたしは見てしまった。

 メサージェ、全然心配することないじゃん。

っていうより、こーれは事件ですよ。

「アメリカ史、一緒に行こうかと思って」

メサージェが言った。声が少し緊張してる。

 UGはうなずいてあたしたちと並んで歩き出した。

「昨日はピザをありがとう」

UGはゆっくりと言う。

 メサージェの体から緊張が抜けていく気配がした。

「ううん。それよりすごかったね、アームレスリング」

「子どもの頃からずっと鍛えてたから」

あたしはイタズラ心を起してしまった。

「ねぇ、触っていい?」

そして答えを待たずに腕を触ってみる。

「うわっ! 硬い! 何これ、鉄ザイル?」

UGは恥ずかしそうに腕をひっこめた。

 ああ! 恥ずかしそうに! ひっこめるなんて! 可愛い! アメリカの男には無いよ、この奥ゆかしさ! ぞくぞくする!

 あたしは胸にも触ってみた。

「こっちも筋肉すごい! そっか無駄が無いから細く見えるんだぁ。

そうよねぇ、あのコバヤシタケルだって、あの細さとキュートな顔で、あんだけホットドッグ食べるんだもんねぇ」

「コバヤシタケル?」

UGはきょとんとする。まさかコバヤシタケルを知らない日本人がいるわけないけど、あたしの発音悪かったかな。

「東洋人を見た目で判断しちゃ危ないってことよね。メサージェも触ってみなよ」

とたんに、メサージェに緊張が戻ってきたのがわかった。

「よしてよアリスン。恥ずかしい。UG嫌がってるじゃん」

「嫌がってないよねぇ」

もう少しからかおうと今度は背中のほうに手をのばした、時、気づいた。テニスコートの向こうからウォルターが歩いてくる。ライオットとジェフリーを従えて。

 ウォルターもメサージェもあたしの幼馴じみだ。大切な幼馴じみ。だけど、最近のウォルターはメサージェを不幸にしてる。二年前のあの事件がなければこんな風にはならなかったはずなのに。

 あたしは二人に声をかけて、その場を離れようとした。ウォルターに見つかる前に。

 でもだめだった。メサージェが見つけてしまった。

「ウォルター! どうしたの? 昨日学校来たばかりなのにまた来るなんて。まるで学生みたいよ」

 こっちから話しかけちゃうんだよなぁ。大喜びで。

「あっ、いいねぇその皮肉。最近腕あげたんじゃなぁい? 今日はUGにプレゼントがあってねぇ」

UGは無表情にウォルターを見てる。ウォルターはライオットの方にあごをしゃくった。ライオットは手に持っていた布をひとふりして広げた。

「どう? 昨日メサージェから、君が用心棒を受けてくれたって聞いてね。サンフランシスコのジャパン・タウンまで行って買ってきたんだ。キモノ。君に贈るよ。サムライはキモノでないと」

「きれい!」

とメサージェが声をあげた。ほんとにきれい。白地に赤い牡丹が大胆に描かれていてエキゾチック。このピンクの帯らしい布も染め方がとてもきれい。

 ただ、心なしかUGは青ざめたようだった。

「着てみてくれよ、似あうぜぇ」

UGの目が泳いでる。どうしたんだろう。

「それとまだあるんだ」

ジェフリーが背中に隠していたものをとりだした。木の棒・・・木でできた刀だ。でもなんか、木にしては重そう。

 そしてあたしの予想はあたってた。

「じゃじゃーん」

ジェフリーは木の刀の柄に手をかけてひきぬいた。鋼色に光る刀身があらわれた。本物のカタナが仕込んであるんだ。

 ワンダフル! ウォルターにしてはシャレた贈り物じゃん! 

 でもUGはもっと青くなった。

「サイコー? これも君に贈るよ」

ウォルターは幸せそうだ。なんだか久しぶりのような気がする。ウォルターがこんなに無邪気に喜んでるの。

「だけどよぉ、これ偽物じゃねぇの?」

言ったのはジェフリーだ。その言葉に、しがみつくように反応したのは、なんとUGだった。

「そう、悪いけどニセモノだね。刃がつぶしてある。人は切れないよ」

だけどジェフリーは首をふった。

「刃なんか知るかよ。重いんだよ。重すぎるんだよ。こんなものをふりまわして殺し合いやれるわけがねぇ」

ジェフリーはカタナを思い切り持ち上げると、UGの顔すれすれにふりおろした。カタナは自分の重さで勢いをつけ、風を切る音をさせながら地面にたたきおとされた。ガチッ! と音がして、切っ先が土の中にめりこんだ。

「何するのよ!」

メサージェがジェフリーをにらみつけた。緑色の瞳が赤くなる。

「俺が悪いんじゃねぇよ。このカタナがよ、重すぎて途中で止められねぇんだ」

ジェフリーはヘラヘラ笑った。ウォルターはなんでこんな奴とりまきにしてんだろ。

 なのに、UGは微笑みさえ浮かべてジェフリーに賛成するんだ。

「ジェフリーの言うとおりだ。それは本物じゃない。飾り用だ」

「ええ〜、なんだ、つまんねぇ」

ウォルターががっかりした顔をした。

「やけに重たいと思ったんだよなぁ。まぁいいや。じゃあ飾りにしてくれよ。友情のあかしだと思って受け取ってくれよ。いいだろ?」

それから、ウォルターはUGに向かって、うかがうように微笑みかけた。ひどく、寂しそうに見えた。メサージェもハッとしたようだった。たぶん、UGにもわかったんだと思う。嫌がってたカタナを黙って急いで受け取って、ありがとう、すごく嬉しい、と言った。

 UGはいい子だ。うん。あたしも好きになりそうなぐらい。だけど、それがまずかったんだ。偶然なのか、それともさっきから様子をうかがってたのか、突然テッドが声をかけてきた。

 「ウォルター、そのサルを仲間にする気か」

テッドのおやじさんはYAMADAの組合長をしてる。町じゃけっこう慕われてて、面倒見のいい人で、あたしも好きだ。でもなんだろうねぇ、この孝行息子。YAMADAに勤めてる人の息子たち四人連れて、ちょっと見ない間にグループ作ってる。テッドにリーダーの器なんか無いのに、これって親の七光り?

 ウォルターは軽くからかうように微笑んだ。

「サル? いやぁんテッドったら自分はサルじゃないつもり? そっかテッドの祖先ってカバなんだぁ、そうじゃないかと思ってたぁ」

それからヒィポポタァマアスウー♪ と歌ったもんだから、メサージェは急いで背中を向けた。あたしはそんなに礼儀正しい人間じゃないんで、思いっきり笑ってしまった。言われて見ればテッドって・・・似てる。

 テッドはぎろりと目をむいた。ああ、よけい似てる。だめ。おなかいたい。

「ウォルター。俺は親切に言ってやってんだぞ。そいつはサムライなんかじゃねぇ。カタナなんかいくら買ってやったって使えるもんか。おまえだまされてんだぜ? 日本にゃもうサムライなんかいないやしないんだ」

「嘘だ!」

ウォルターが怒鳴った。突然表情が変わった。

「UGは俺をだましたりしない。棒を使ってサミーたちを倒したんだ。UGにゃカタナが使えるんだ。UGはサムライだ!」

UGがサムライかどうかをウォルターがひどく気にするのが分かってテッドは目を輝かせた。

「だまされてんだっつってるだろうが。そいつにカタナなんか使えるわけない。日本人はだますのが得意なんだよ。そいつはおまえの仲間になるふりをして、おまえのグループをとりあげるつもりなんだよ」

ウォルターがぐっと拳を握りしめた。長くのばして真っ黒いマニキュアをしていた爪がバキッと割れた。

「こいつは本物だ。俺の仲間だ」

ウォルターはうめいてテッドをにらんだ。ライアンならひとにらみでテッドなんか追い払うだろう。だけどウォルター自身には何の力もない。とりまきを大勢連れてなきゃだめなんだ。

「ニセモノなんだよ。サミ−たちに金をやって芝居をしくんだんだよ。日本人のやりそうなことだ」

「違う!」

ウォルタ−の顔色がどす黒く変わってゆく。しかもそれをライオットもジェフリーもニヤニヤ笑って見てるんだ。

 メサージェだけがウォルターをかばうようにどなった。

「何言ってんの! あたしがUGに助けられたのよ!」

「そんで感謝しまくって、父親の仇に尻を差し出したのかい。かわいそうに兄妹そろってYAMADAにだまされて、献上品までささげて尻尾振ってんのにニセモノだなんてよぉ」

ウォルターがテッドにつかみかかろうとした。その手を、UGが右手でつかんだ。ウォルターはUGに振り返った。

「UG! おまえ、ホンモノだよな?」

その声が、あまりに哀れっぽすぎた。敗北宣言も同じことだった。テッドたちは大声で笑おうと・・・した。

 その時、UGはすっと体を縮めた。しゃがむのかと思った。でも違った。次の瞬間、UGは6フィートはあるカタナを一息に抜き放っていた。銀色のカタナが、日の光に一瞬キラリと光って、それから、鞘に戻った。

 カサリ、とかすかな音をたてて、ポプラの枝が一本幹からはなれ、地上に落ちた。

 声が出せなかった。重いのに。重いはずなのに。ジェフリーはふりまわされたのに。思わずジェフリーの顔を見ると、何か異常な出来事が起こったかのように(起こったんだけど)、口をあけたまま固まっている。ライオットも同じだ。この二人は重さを知ってるから。

 うわあっ、と周りからどよめきが聞こえた。いつのまにか生徒たちがとりまいていたんだ。

 私はウォルターを見た。そんで、思わずこっちまで笑ってしまった。歓喜、というのはこういう顔なんだろうねぇ。

 ところが、当然ながら、その反対の顔をした男がいる。

「調子にのってんじゃねぇぞ、日本人」

テッド、あんたしつこい!

「くだらねぇ。そんな小枝一本落とすのにかっこつけやがって。そんなん誰だってできら」

「あらまぁ?」

と、ひょいとUGの手からカタナを取り上げたのはウォルタ−だ。

「じゃ、やってみてちょうだい」

そしてぶんっと刀をテッドに向かって放り投げた。右手で軽く受け取ろうとしたテッドは、カタナをつかんだとたんに後ろに倒れそうになった。そしてあわてて左手をそえた。顔色が変わった。

「ほうら! 遠慮しないで、その辺の枝をおとしてちょうだいよ。カタナ抜いて枝切ってまた戻すだけよ〜」

見物人が増えてきた。テッドにも仲間たちの手前がある。もう後戻りできないはずだ。あたしも楽しくなっちゃってウォルターと一緒にひやかそうかとした、けど、UGが止めた。

「やめろ」

そして自分の親指をとんとんとたたいた。

「指が、落ちる。そうすると、痛い」

UGはたぶん、真面目に言ったんだと思う。だけど、真面目なのがかえって、可笑しすぎる。

見物人たちも、あたしも、おもいきり爆笑してしまった。テッドの頭に血がのぼる音が聞こえる気がする。

「ふざけんな! サルにできて俺にできないってことがあるか! 見てろ!」

そしてポプラの方を向いた。

「がんばれテッドー! あんたならできる! がんばれヒッポー!」

あたしたちは盛大に応援の声をあげた。こぉんな楽しいことやめられてたまるもんか!

それなのに、どれだけお人よしなのか、UGがカタナをつかんで止めたのだ。ほっとけばどうせおじけづくのに。

「本当に危ないんだ。ケガする。もしかしたら見てる人がケガする」

「うるせぇ!」

テッドはカタナを取り上げようとした。だけどUGも離さない。

そうしたら、テッドのバカ、UGの腹をひざで蹴り上げやがった。

 UGが日本語で何か言った。痛いとかそういうことだろう。それでもカタナを離さない。どうしてこんなバカのために。

「離せってんだよ!」

テッドはさらに足を蹴った。

「やめて!」

メサージェがかけよってその足を両手で押さえた。

「UGはあんたのためを思って・・・」

「うるせぇ!」

テッドはメサージェを思い切り蹴り飛ばした。それもあごを。メサージェは吹き飛ばされるように地面に背中から倒れた。

「メサージェ!」

ウォルターがかけよった。あたしは、頭に血がのぼっちゃって、助けるよりもテッドを殴りつけようと走り出した。

 けど、遅かった。

 テッドが宙に浮いた。柔道だ。これは、柔道だ。

 ズダッ! と地面にたたきつけられたテッドは声もあげずにのたうち、そのそばでUGがカタナを右手に下げたまま見下ろしている。

怒ってる。UGは怒ってるんだ。

 ああメサージェ、信じなくてごめん。UGはライアンにだって立ち向かったんだろうね。

「ああ、だめ」

メサージェが小さく声をあげた。背中を打ちすぎて声が出せなくなってるみたい。

「暴力はだめだったのに」

何を言ってるの?

「ほ、骨が折れた!」

テッドがどなった。

「い、痛ぇよ! 日本人にやられた! 卑怯な手使いやがって! ジュ−ド−なんか!」

「ジュードーがなんで卑怯なのよ! スポーツじゃん! フェアよ!」

あたしが怒鳴り返した。

 だけど事態は悪い方向に動きそうだった。テッドの仲間がナースのミズ・ホランドを連れてきた。彼女のだんなはYAMADAの組合員で、テッドのおやじさんの友達だ。

 まずーい。

「テッド! どうしたの!」

お姫様のばぁやのように太ったミズ・ホランドがゆさゆさとかけよってきてテッドを抱き起こした。

「痛いの?」

「骨が! 骨が折れた! UGにやられたんだ! こいつ、俺の父さんがYAMADA工場の組合長だからって俺を逆恨みして、ジュ−ド−を使いやがった!」

「骨が折れたにしては元気にしゃべるじゃないの!」

あたしは言ってやったけど、ミズ・ホランドの目にはもうUGが悪魔のようにうつってるみたいだった。

「シマタニ! 校長室にお行きなさい。あなたたち連れて行って!」

あなたたちと呼ばれたのはテッドのとりまきたちだ。まるで犯人を連行する警察官のようにUGの両側について腕をつかみ上げた。

「待ってよ!」

あたしと同じようになりゆきにあぜんとしてたメサージェが声をあげた。

「テッドが先にUGを蹴ったのよ!」

そのとたん、テッドの仲間から声がかかった。

「何言ってやがる! ひっでぇ嘘をつくんじゃねぇよ!」

「テッドの言う方が正しい!」

「日本人にテッドが投げ飛ばされたぞ! テッドは何もしてないのに!」

「UGは乱暴だ! UGは凶暴!」

メサ−ジェは歯ぎしりした。気持ちはあたしも同じだった。こんな卑怯なこと。アメリカの恥さらしだ。UGはなんて思って・・・。

あたしはUGを見て、そして、またも声をなくした。UGは微笑んでいた。でも、誰かに向けた微笑じゃなかった。かばってくれてありがとう、という微笑でもなかった。大丈夫だよ、という見栄でもなかった。UGは諦めていた。

そういうものなんだ。世界は正直者のためにはできていない。弁解なんか必要ない。どうせ何も変わらない。

UGの微笑みはそう告げていた。東洋的な。

メサージェは、可哀相なメサージェは、何か言おうとしたまま、何も言えずに口を閉じた。つきはなされたような気がしたろう。あたしでさえズキッとしたんだから。

 UGはテッドの仲間に連行されて行った。途中で一人に横腹を殴られたのが見えた。UGは声もあげずに黙って歩いていった。


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