20 奪還 (アリスン)
東洋人の男って、愛情表現をあんまりしないんだと知ったのは、UGが、せっかくメサージェを抱きしめておきながら、すぐ離して、何事も無かったように関係無い話を始めたからだ。
あきれたけど、メサージェの方はたれ目になるほど満足そうなんで、ま、いっか。
「何人いるんだ?」
「テッドとライアン、サミ-、ダニエル、ジャン、ジル、チャック。七人よ」
「あー、そりゃ勝ち目無いな」
げっ。そんなあっさり・・・。
「ジムに入ったらなぶり殺しになるだけだから、出てきてもらわないと」
「え?」
「あのジム、出入り口一つだけだよね」
「うん」
「窓にも格子がはまってるよね」
「うん」
UGはあたしを見た。
「君、車にあの、煙出る奴乗せてる?」
発炎筒か。分かった。何がやりたいか。
「取ってくる」
「待って! ちょっと待って!」
メサージェが目を見張った。
「何言ってるの? 何言ってるのよ。何するつもり? 七人と戦うつもり? そのうちの一人はライアンなのよ!?」
UGは首をかしげた。
「だけどウォルターを助けないといけないのでは?」
「だって、どうしてUGが危ない目にあわないといけないの!?」
「そう言われてももう来てしまったし」
そうそう、その通り。
「今更ガチャガチャ言うんじゃないわよメサージェ。サムライが来てくれたんだからウォルターは取り戻せるって」
「いやそれは難しいと思うけど」
「ってUG! そこで弱気になってどうすんのよ!!」
「いやそうじゃなくて、大切なのは助けに行くことなんじゃないかな。失敗しても」
「「 は? 」」
「誰かが助けに来てくれたんだってことがウォルターには大切なんじゃないかな。とりあえずそれだけでいいんだと思う」
「「 ・・・・・ 」」
なんて言うか・・・。
ちょっとの間になんでそこまで分かってしまうのか・・・っていうか、それだけの為に命かけますかあんたは。
くそう。
あたしは我慢できなくてUGを抱きしめてしまった。
ごめんメサージェ。
UGがもがいて、あたしから逃げ出そうとするので、思い切り羽交い絞めにしてやった。
時計を合わせた。
21時30分きっかりに始める。
UGの表情の薄い横顔が月光で陰を作っている。
「UG、ミッフーネみたいよ」
あたしは言った。
「YOUJINNBOU・・・」
UGは日本語で何か言った。意味は分からない。
あたしとメサージェは一本ずつ発煙筒を持ち、ジムの端と端に位置どった。手には石。
心臓がバクバク音をたてる。
ウォルター、あんたを見捨てない人間がここに三人もいるんだよ。
昔のあんたに戻ってよ。ウォルター。
21時30分。
あたしは、そしてたぶんメサージェも、石をぶん投げてガラスを叩き割り、格子の隙間から発煙筒を放り込んだ。
助けられそうにない