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19 その理由は

星がきれい。

 あたしは息を吸った。

 どうしたらウォルターを取り戻せるだろう。何て言えばいいんだろう。テッドの目的はUGみたいだから、ウォルターのかわりにあたしを人質にしたほうがUGは来るって、嘘ついてみるのもいいかもしれない。でも、ライアンはあんまりUGに敵意を持ってない。ウォルターのことは怒ってるみたいだけど。

 だいいち、UGは来ない。ジェフリーたちが呼びに行くはずもないし、呼んだって来るはずない。

 UGにひどいことしてしまった。せめて一度謝りたい。許してくれなくていい。許してくれるときはあたしのことすごく軽蔑して虫けらみたいに見る時だよね、きっと。

 

 ガシャーン!


 二階のガラスが割れた。鉄の格子がはまってるのに外側のガラスが割れた。テッドの顔が見える。椅子の足で叩き割ったんだ。

「小猿を連れて来―い! 東洋の小猿だ! 偽者のサムライだ!

大うそつきめ! 町中の人間を騙しやがった! 地獄に堕ちやがれ! 俺のケツにキスしに来―い」

妙な節をつけてわめいてる。

 あれってマリファナだ。マリファナでおかしくなっちゃってるんだ。向こうからあたしは見えないはずだから誰もいない校舎に向けてわめいてるなんて。テッドには大勢生徒がいるように見えてるのかも。

 「くそウォルターの薄汚ぇ指が一本ずつ無くなるぞ。能無しボディガード。かっこつけの偽者野郎。ほーれ、親指、人差し指、中指、薬指、小指。それから左手・・・。一本ずつつぶして切り取るぞ。ほーれ」

 ウォルター!

 まずい。今のテッドなら本当にやる。

 あたしは考えも無しに校舎の陰から飛び出そうとした。その肩を突然つかまれて悲鳴をあげてしまった。

 アリスンだった。

「びっくりした! アリスン! だめよここにいたら。帰って!」

「プレゼントを持ってきたのよ」

「はぁ?」

アリスンが横にどいた。

 少し離れて、UGが立っていた。


 なぜ?


 「さっきはごめん」

なぜあなたが謝るの。

「ウォルターのためだったんだって?」

だったら許してくれるって言うの?

「ありがとう。大助が俺を許してくれた。君のおかげだ」

だから助けに来てくれたの? あなたが殺されてしまう。

 ああ、UGが来た時のことを考えてなかった。そうよ、あなたが殺されてしまうのよ。連中は今正気じゃないのよ。本当に殺されてしまうのよ。

「帰って」

帰って、お願い。

「悪いけどあなたがいると邪魔なの。あなたが嫌いなの。帰って。さっきウォルターに言われたでしょ。本当のこと。なんでわからなかったの。帰って」

「メサージェ!」

アリスンが怒りかけたのを、UGは左手を上げて止めた。

「つまり、ここにいると俺が危険なんだな?」

「 ! 」

「君の行動パターンはもう読めた。テッドがいるって? それで俺に来いって言ってるんだな。俺が行かなきゃウォルターが危ないんだろう?」

「UG、だめ・・・」

「何がだめ?」

「どうして来たの? あんなひどいことされたのに、あたしは騙してたのに、どうして来たの?」

UGはちょっと考えたようだった。首をかしげて、戻し、それから言った。

「その理由は、日本の男は軽々しく口にしないことなんだ」

「・・・あたし、もうあなたに会えないと思った」

「うん、俺もそう思った」

「それがすごくつらかった」

「・・・・・・俺もそうだった」

あたしは思わずUGを抱きしめようとした。けれど、UGはあたしの肩を押して止めた。

 ズキッと胸が痛んだ。UGはあたしのハグを受け入れない。


 それからUGは両手を伸ばして、あたしをそっと抱きしめた。


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