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18 パーティの夜     (アリスン)

 「言っておくけどね、これはおまえが悪いんよUGちゃん。おまえはね、俺の父さんの仇なの。俺の父さんはYAMADA工場で警備員をしてて仕事中に死んだのにね、YAMADAはなぁんにもしてくれなかったよ。なぁんにもね。裁判に持ち込んだのに裏から手をまわして無効にした。復讐ふくしゅうされて当然じゃないの?」

「ウォルタ-! 何言い出すの!」

メサージェが叫んだ。

 ホントに何言い出すの! 今までそんなこと言ったこと無かったのに。考えもしなかったくせに!

「メサ-ジェは俺の妹なんかじゃないの。俺の女なんだよ。どうだわかったかい? わかったら出てけ! 二度と顔見せるんじゃねぇぞぉっ!」

ウォルタ-はUGの胸を押した。

 でも、押した手に力が無かった。UGの目を見もしない。ウォルターも分かってるんだ、ひどいことを言っているって。自分が傷つくぐらいなら言わなきゃいいのよウォルター!

 違う、と言うはずのメサージェを見た。

 メサージェは泣いていた。何も言えずに泣いていた。ドラッグを売るのに手を貸してたことは本当だから、何を弁解しても何も信じてもらえないと思っているのかもしれない。何を弁解する権利も自分には無いと思っているのかもしれない。

 あたしが言ってやろうとUGを見たとき、UGが日本語で何か言った。UGは怒ってなかった。メサージェを軽蔑する色さえ無かった。ただ悲しんでいた。とても悲しんでいた。日本人の表情は分からない。だけどこれだけは分かった。

 たぶん、残念だ、とか、信じていたんだよ、とか、そういうことを言ったんだろう

 UGは人を責めない。だからメサージェはきっと、よけい傷ついただろう。

 UGはゆっくりとジムを出て行った。

 大音量の中、皆がUGの背中を見送った。ライアンの銃を一瞬にしてはじきとばしたサムライ。

 彼は、信じていた人に裏切られた時、ただ黙ってその場を去った。

 「ウォルター!」

あたしはウォルターにつめよって胸倉をつかんだ。

「どうしてあんなこと言ったの! UGのこと仇だなんて思ってないでしょうが! あんたがそんな奴じゃないことはあたしが知ってるよ!」

ウォルターはひきつったような笑みを浮かべた。

「メサージェが悪いんだ」

「は?」

「あの男の為に俺を捨てようとしたんだ。あの男のためにドラッグの売買をやめろだって? 頭おかしいよなぁメサージェはさ」

「・・・!」

なんてこと・・・。あんた、メサージェがどれほどあんたにドラッグ売るのやめさせたがってたか分かってるくせに!

「俺よりあの男が大事だなんてそんなこと許せないでしょ? なぁアリスン。メサージェがそんなひどいことするの良くないって思うでしょ?」

「メサージェは! あんたに家に帰ってきて欲しかったんだよ! ドラッグの売買やめてほしかったんだよ!」

「家族としてかよ!」

「 ─── !」

ウォルター・・・、あんた・・・。

「いいのよアリスン」

メサージェが言った。静かな声だった。

「もういいの。無理だったのよ。あたしは、かなうはずのない夢を見てたの」

そしてメサージェは、ジムから走って出て行ったのだ。


 迷ったけれど、あたしもウォルターを放り出して後を追いかけた。もう中庭の向こうに走って行ってしまってる。

 一生懸命走って、ようやう校舎の陰で泣いているメサージェに追いついた。

 あたしはメサージェを抱いて肩を貸してやった。メサージェは泣いた。今までの分全部泣いた。

 ウォルターの馬鹿。こんな妹を持って、どうしてそれだけで満足できなかったの。

 星がきれい。

 あたしの幼馴染は二人とも傷ついていて、サムライも傷つきました。こんな夜は少しだけ神さまを恨んでもいいですか。

「もう、UGに会えない」

メサージェは顔をあたしの肩に押し付けたまま言った。

「月曜になれば学校に来るでしょ」

「でももう会えない。話ができない」

それがつらいの。それがそんなにつらいの。

 東洋の小さな島国から来たやせっぽちの男。表情も無い愛想も無い。だけど優しい男。

 メサージェ、あんた気づいてるの。あんたあの男に似てるよ。

 

 中庭がざわめきだした。大勢の人が歩いてくる気配がある。

 何?

 あたしはメサージェを置いて中庭に出てみた。パーティの客たちがぞろぞろと歩いていた。

 なんだろう。まだ終わるには早い時間なのに。

 ウォルターが強引に終わらせた? 

 あたしはシンシアを見つけて声をかけた。ミニーマウスになっていた。

「ああアリスン! あったま来るわよ。テッドが来たの」

「テッド? テッドが来たからって何ができるっての」

「そりゃできないわよ一人じゃ。でも、ライアングループを連れて来たの。ライアングループが戻ってきちゃったの。サムライもいないのに。で、パーティは終わり。帰れって。テッドがジェフリーたちにサムライを連れて来いって叫んでた。じゃなきゃウォルターがひどい目にあうぞって」

「ウォルター!? ウォルターが何なの!?」

「ウォルター閉じ込められたの。あれって絶対テッドがサムライ憎しでライアンたちをたきつけたのよ。で、客には出てけって言って、ウォルターグループにサムライを探して来いって」

ウォルターグループ・・・。あの連中は金でウォルターの周りにいるだけ。無事にジムから出られたんなら、ウォルターを助けようなんてするはずない!

だいたいサムライがもうウォルターを助けに来るはず無いのに、テッドは何も知らないんだ。朝まで待ってもサムライは来ない。でもそれなら、ウォルターはどうなるの? あてがはずれたテッドはウォルターをどうするの? それでなくてもライアングループはウォルターに汚いことされて怒ってる。ちょっと会場を壊したぐらいじゃ満足できてないはず。


あたしは振り返って、校舎の影からメサージェが青い顔でこっちを見ているのに気づいた。

聞いてた!?

あたしはかけよってメサージェを校舎の裏に引っ張り込んだ。

「だめよメサージェ。あんたが行ったって連中はウォルターを返してくれるはずない。あんたまでひどい目にあわされるだけよ。連中興奮してるし、何されるかわかんないよ」

「何言ってるのよアリスン。行くわけないじゃない。あたしももう帰るからアリスンも帰んなさいよ。じゃあ、月曜に、また」

行く気だ。

「あんたね! ウォルターにどんな目にあわされたかわかってんの!? あいつにはいいクスリよ! ライアンたちだって命までとりゃしないだろうし。放っとけばいいのよ! その方がウォルターも足を洗えて家に戻ってくるかもよ!」

「・・・・・・・だめ」

メサージェの目が透き通っていく。覚悟を決めた目になってゆく。しかたがないんだ、という目になってゆく。

「みんなが見放したら、一人ぼっちだって思っちゃう」

「・・・・・・!」

ああ、もう!

「一人ぼっちなのよウォルターは! 思い知らせてやればいいのよ! 嘘っぱちのまがいもので周りを固めて! そんなもんで一人ぼっちじゃないつもりになって! 大切な妹の愛情を踏みにじって!」

「アリスンの愛情に気づきもせずに」

・・・・・・・!

「ありがとうアリスン。あたしたちみたいな兄妹を見捨てずにいてくれて。いつも心配してくれて」

メサージェはあたしを抱きしめた。

「あたし、ウォルターが解放されるまでここにいる。無茶しないから。お願い、アリスンは朝帰りするような悪い子じゃないでしょ。今日は家に帰って。あたしたちのためにアリスンが怒られると思うと、あたしすごくつらいの。たまらなくなるの」

メサージェ・・・。

 「分かった。あたし帰るね」

「・・・うん」

メサージェは寂しそうに、でもほっとしたように笑った。


 あたしは駐車場の車に飛び乗った。

 メサージェは絶対ジムに行ってしまう。どうしても行ってしまう。

 サムライを呼ばなければ。助けてもらえる筋合いじゃないのは分かってる。だけど、これをなんとかできるのはサムライしかいない。


 あたしはサムライの所に向かった。YAMADA支社長の家は誰でも知ってる。お願いUG、そこにいて! 


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