カナリカ王国のセザール辺境伯
ナロン川を越えるため乗船したがヒドラが現れた。ケン達『ワールドジャスティス』がヒドラを討伐し、その祝勝会が開かれることになった。オレ達が座っていると、そこにガゼボさんと身なりのしっかりした紳士、それにその執事のような人がやって来た。
「ケン殿。今日は本当にありがとう。あらためてお礼を言わせてくれ。」
「いいえ。みんなが無事で何よりです。」
オレがガゼボさんの隣の紳士に目を向けると、ガゼボさんが紹介してきた。
「ああ、そうだ。紹介するよ。こちらはこの船の所有者でカナリカ王国の辺境伯のセザール様だ。」
「セザールだ。貴殿達のおかげで乗客、乗員が無事で済んだ。礼を言う。ありがとう。」
セザールさんはオレ達に向かって深々と頭を下げた。元来、貴族は平民や冒険者に頭を下げることはない。セザールさんはかなりいい人なのかもしれない。
「どういたしまして。犠牲者が出なくて良かったです。」
するとセザールさんがいろいろと聞いてきた。
「ケン殿達『ワールドジャスティス』の噂はわが国にも伝わっているが、失礼だがお聞きしてもよいか?」
「ええ。良いですよ。」
「ブラジロン帝国の軍隊を5人で討伐したという話は本当なのか?」
するとドリエが慌てて答えた。
「待ってください。その時、私は人質になってましたから、私はいませんでした。」
「そうですか。では、セザール獣王国の混乱を解決したのも4人ですか?」
「いいえ。その時は私もいました。」
ドリエがオレの目を見ながら恥ずかしそうに答えた。なんかすごく可愛くて、頭を撫でてしまう。ミサキ達の目がオレを鋭くにらんでいる。
「どうでしょう。ケン殿。カナリカ王国に着いたら、わが屋敷にお越しになりませんか?」
「いいですけど。何かあるんですか?」
「ええ。ちょっとお願いしたいことがありまして。」
「オレ達にできることならいいですよ。」
「実は、ここ最近魔物の動きが活発化してるんですよ。今回のヒドラもですが、わが領土内でもワイバーンやアラクネのような強力な魔物が出没するようになったんです。」
「それは大変ですね。」
「ええ。ですから、皆さんのお力をお借りしたいんですよ。」
「わかりました。何とかしましょう。」
「ありがたい。では、よろしくお願いします。」
セザールさんが握手を求めてきた。セザールさんの手を握ったら、手の皮が厚く、剣ダコができていた。相当訓練をしているようだ。
「失礼ですけど。セザールさんって相当鍛えてますよね。」
「これは恥ずかしい。わかってしまいましたか? わが領土は辺境の地にあるので、森や湖があって魔物が多い地域なんです。私が先頭で鍛えれば、他の兵士達も黙ってはいられませんからね。」
「僕はケンに鍛えられて強くなったにゃ!」
「私もケン兄に鍛えてもらった!」
「私もです。セザールさん。私はつい最近まで目が見えずに自分で立って歩くことすらできなかったんですよ。でも、ケンに出会って、ケンが鍛えてくれたおかげで一人でも魔物を倒せるようになったんです。」
「もしや、あなたはアルメデス王国のミサキ王女なのですか?」
「はい。そうですよ。今は『ワールドジャスティス』の一員として旅をしてますけど。」
「セザール様。ケン様もアルメデス王国のダンデライオン伯爵ですよ。」
「それは誠か?! 失礼いたした。ケン殿、お願いだ。我が兵士達を鍛えてもらえないか?」
オレはリンの顔を覗き込んだ。ケンの膝の上で頭を撫でられていたリンが驚いたような仕草をした。
“マスター。私は賛成ですよ。自分達の力で魔物を退治しようとしているのですから、協力してあげてはいかがでしょうか?”
“でもな~。”
“もしかして、身につけた力を侵略に使うのではないかと心配しているんですか?”
“えっ?! なんでわかったの?”
“マスターの考えてることはお見通しですよ。”
「セザールさん。一つだけ約束して欲しいことがあるんですけど。」
「何でしょう?」
「自分達の身を守るため意外に力を使わない。約束できますか?」
「当然です。我々は平和を求めていますから。」
「なら、いいですよ。魔物退治と合わせてオレ達が兵士達を指導しますよ。」
「ありがたい。私も訓練に参加してよいだろうか?」
「ええ。どうぞ。」
「ケン兄の訓練は厳しいから覚悟した方がいいよ。」
明るかったセザールさんの顔がローザの一言で不安な顔に変化した。
「ローザちゃん。脅かしたらダメよ! セザールさん、大丈夫ですよ。私にも耐えられたんですから。」
再びセザールの顔に明るさが蘇った。そして、その日は全員が船室で泊まって、翌日早朝にはカナリカ王国に入り、セザール辺境伯の領都フローレンスに到着した。船から見える街並みは古風だが、とても賑やかだった。オレ達が船から降りると、そこには馬車が何台もあった。どうやら商人や貴族を迎えに来ているようだった。
「皆さん。私の馬車に乗っていきましょう。」
ここでローザがオレの手を取って言ってきた。
「たまには私とドリエ姉が中に乗りたい。ケン兄。ダメ?」
「そうだな。いつもローザとドリエが御者席だもんな。ミサキ。ミレイ。今日は、2人が御者席に乗ってくれ。」
「わかったにゃ。」
「いいわよ。街も見学できるから。」
オレの右にローザ、左にドリエが座った。当然オレの両手は彼女達に握られている。膝の上ではリンが丸くなって寝ていた。
「もてるんですね。羨ましい限りですよ。」
「オレも幸せ者だと思ってますよ。良いパーティーメンバーに恵まれました。」
「ケン兄! それだけなの?」
「そうですよ。ケン様。もっと違う意味で褒めてください。」
何故か2人が頬を膨らませてプンプンし始めた。前の席に座っているセザールさんはオレ達を見てニコニコしている。しばらく馬車に揺られていると馬車が急に止まった。
「どうやら着いたようですね。」




