反乱軍を鎮圧する!
リプトン元侯爵の率いる軍勢2000人が、ベロンの郊外から南門を目指して進軍を始めた。一方軍部大臣ゲルトが率いる国軍は200人だ。50人は城壁の上から攻撃するつもりのようだ。そして残りの150人は完全武装で南門の中で待機している。
「ケン! どうするの?」
「ちょっと待ってて! ゲルトさんのところに行ってくるから。」
オレはゲルトさんのいる場所まで行って、ゲルトさんに声をかけた。
「ゲルトさん。ちょっとお願いがあるんですけど。」
「あなたは確か~・・・・」
「はい。オレはケンです。スチュワートさんに頼まれてこの戦いに参戦するんですけど、オレ達がいいって言うまで攻撃しないで欲しいんです。」
「どういうことです? 言ってる意味が分かりませんが。」
「オレ達は『ワールドジャスティス』です。帝国との戦争と同じようになるべく死人を出したくないんですよ。」
「もしや、あの帝国軍を殲滅したという『ワールドジャスティス』の方々なんですか?」
「そうです。オレ達を信じてもらえませんか?」
「わかりました。ケン殿の指示があるまで攻撃は控えましょう。」
「ありがとうございます。」
オレはみんなのいる場所まで戻った。
「じゃあ、そろそろ行くよ。いつものようになるべく死者を出さないようにね。」
「わかってるにゃ。」
「でも、自分の身を守ることが優先だよね。ケン兄。」
「そうさ。オレにとってみんなは、かけがえのない存在なんだからさ。」
オレは全員を連れて、リプトン旧侯爵が率いる軍勢の前に転移した。突然現れたオレ達を見て軍勢の進行が止まった。先頭で馬に乗っている兵士が大声で聞いてきた。
「お前達は何者だ?!」
「『ワールドジャスティス』さ。このまま引き返せばよし。さもなければお前達を殲滅する。」
「何をふざけたことを! たかが5人で何ができる! やれ!」
上官の指示で、後ろから兵士達がオレ達を取り囲むように槍を突き付けてきた。
「さあ、みんな! 始めるよ!」
オレ達は一斉に兵士達に向かって行った。ローザが矢に氷魔法を付与して後方から射掛ける。
「ギャー」
「足が、足が凍って動けない! 助けてくれ—!」
ミレイとミサキ、ドリエはそれぞれ剣に魔法を付与して切り込んだ。ミレイもミサキも相手が戦闘不能になるように片足を切っていく。
「ま、ま、待ってくれー!」
「助けてくれー!」
ドリエが剣を振ると剣から電流が飛び、相手は完全に意識を失っていく。
「ドサッ、ドサッ」
リプトン率いる反乱軍は見る見るうちにその数を減らしていく。それを南門の上から見ているゲルトも国軍の兵士達も、驚いて様子で眺めている。
「あの方々が敵でなくてよかった~。」
「本当にな!」
反乱軍の数が100人を切ったところで後ろからリプトン元侯爵が現れた。
「さすがだな。『ワールドジャスティス』! やはり弱い兵士は何人いても無駄だったか。」
馬から降りるとリプトンが黒い靄に包まれ、その周辺に真っ黒なオーラが立ち込めた。反乱軍の兵士達も何が起こったのか状況がつかめないでいる。
「リプトン様はどうしたのだ?」
「何が起こってるんだ!」
そして、黒い靄の中から頭に2本の角を生やし、背中に漆黒の翼を付けた魔族が現れた。
「貴様らにもう用はない! 消えるがいい!」
リプトンの手から漆黒の竜が現れ、兵士達を飲み込もうとしている。
「た、助けてくれ————!」
兵士達は武器を振り回しながら必死で逃げようとしている。
「あいつ魔族だったのか! このままじゃまずいな!」
オレは闘気を解放した。すると、オレの身体から神々しい光が放たれた。オレは右手を前に出し魔法を唱える。
『シャイニングドラゴン』
オレの手から現れた巨大な光の竜が、漆黒の竜を飲み込んでいく。
「貴様! 何者だ?!」
「おれか? オレはケンだ! お前さ~。関係ないものまで殺そうとするなよ!」
「人間など俺にとっては虫けら同然。いくら死んでも構わないさ。」
リプトンの言葉に抑えていた怒りが爆発する。抑えていた闘気がさらに解放された。すると、オレの身体の周りの光がさらに強くなり、白銀の髪が逆立ち、背中にうっすらと純白の翼が現れた。
「貴様! 人間ではないな。天使族か?」
「さあ、どうかな。お前が知ってもしょうがないだろ!」
リプトンの姿が消えた。次の瞬間、鋭く長い爪で攻撃してきた。オレは瞬間移動でそれを避け、リプトンの上空に舞い上がった。リプトンがオレに向かって毒霧を吐いた。オレは再び転移してリプトンと距離を取る。
“リン。やはりダメか? 殺すしかないか?”
“マスターは優しすぎます。どうにもならない相手もいますから。”
オレはなるべく殺さないようにと戦ってきたが、心が決まった。
「逃げてばかりじゃどうにもならんぞ!」
「自分の過ちを悔い改めるつもりはないんだな?」
「ふざけたことを! 死ね!」
リプトンの姿が黒い霧になって消えていく。オレの体のあちこちから血が噴き出す。
『シャイニングバースト』
突然、オレの身体から太陽よりも眩しい光が放たれた。
「ギャ————」
全身が黒く焦げたリプトンがよろよろしながら立っていた。
「終わりにしようか。」
『時空裂断』
オレが剣を振ると、空間が2つに分かれていく。そしてリプトンの身体も2つに分かれ、リプトンは粒子となって消えた。
「ケン兄。さすがだね。」
地上に降りたオレにみんなが駆け寄ってくる。周りを見ると、無傷でいた兵士達がオレに向かって平伏している。オレを拝むようにしているものまでいる。
「またケンの背中に翼のようなものが見えたにゃ!」
「私も見ました。ケン様って本当は神様なんですか?」
「だから、前も言ったけどオレ人間だから。(まだね。)」
南門が空き、中からゲルトが率いる国軍の兵士がやってきた。全員がオレ達に片膝をついている。
「やめてください。ゲルトさん。」
「ですが、ケン殿。ケン殿達のお陰で魔族を討伐することができました。」
「ケン。怪我人の手当てが先にゃ。」
「そうだね。ゲルトさん。傷を負った兵士達をこちらに、身体が欠損している兵士達はあちらに運んでください。」
「はい。ですが、一体何を。」
「見てればわかるにゃ。」
傷を負った兵士達はミサキが『ラージヒール』で治療した。そして、欠損した兵士達はオレが『ラージリカバリー』で一気に治療した。
「う、腕が治ったぞ!」
「俺もだ! 俺も足が治った!」
「奇跡だ! 神の奇跡だ!」
その場にいた全員がオレに平伏した。次の瞬間、大天使ナルーシャが姿を現した。
「みなのもの聞くがよい! 神は人間同士で殺し合うことは望んでおられぬ。みなが仲良く協力して暮らすことが神の願いぞ! それこそが我がマスターの願いである!」
「ハッハ—————」
大天使ナルーシャが姿を消した後もなお、みんな平伏している。オレは風魔法にのせて言った。
「今、ナルーシャ様が言われたのは事実です。王族派も民主派もないんです。皆等しくこの国の国民じゃないですか。そして、皆等しく神の子なんですよ。仲良くしましょうよ。あと、オレは人間ですから、オレに平伏する必要はありませんから。」
ここで気を利かせてローザがオレに抱き着いてきた。ドリエもまねして抱き着いてくる。
「ケン兄が人間で良かったよ!」
「私もです。ケン様!」
少女達がオレに気安く接するのを見て安心したのか、全員が立ち上がった。
「ゲルトさん。オレ達は議事堂まで報告に戻りますけど。」
「わかりました。我々も戻ります。」
すると、反乱軍の代表らしき男が前に出た。
「私は元伯爵のカリバンと言います。ケン殿に同行してもよろしいでしょうか?」
「何かあるんですか?」
「はい。議員の皆さんに謝罪を申し上げたいんです。魔族に洗脳されていたとはいえ、反乱を起こしてしまいましたから。私の命と引き換えに、反乱軍に参加した兵士達の助命をお願いしたいんです。」
「いいですよ。一緒に行きましょうか。」
僕は暑いの苦手にゃ!
雨よりましだよね! ケン兄!
ケン! ウナギ食べに行くにゃ!