カスティーユの街
オレ達がカスティーユの街に到着すると、街の外側には強固な城壁が張り巡らされていた。当然、街への入り口には兵士達が立っている。見た目は人間だが、全員が魔族だ。
「クルミ! 彼らも魔族なんだろ?」
「うん。この街は鬼人族が多いんだよ。」
オレ達がこそこそ話をしているといきなり槍を突き付けてきた。
「なぜ人族と獣人族、エルフ族がいるんだ!」
「私の村がロンバルト魔王国に攻められて、私が人族の大陸に飛ばされたのを、親切にここまで連れてきてくれたの。悪い人達じゃないよ。」
「お前はレクス村の住人か?」
「うん。そうだよ。」
「あの村は気の毒だが全滅したよ! 国軍の兵士達が行ったときには、全員殺されてたそうだ。」
クルミが肩を落とした。クルミの目から大粒の涙が溢れ出す。
「クルミちゃん。まだわからないじゃない。お父さんやお母さんが生きてるかもしれないでしょ。」
「うん。」
オレ達の様子を観察していた兵士達が声をかけてきた。
「この子の言う通り、お前達は悪い者ではなさそうだ。この証明書を持っていくがいいさ。何かあったら、その証明書を見せるように。」
「わかりました。」
オレ達は街の中に入った。様々な人種が入り混じっているようだ。人化せずにそのまま頭から角を出しているもの。背中に翼のあるもの。完全に人化しているもの。中には顔がワニや蛇のような動物の魔族もいる。
「なんか。あまり裕福な感じではなさそうね。」
「それより、なんか緊張して生活してるように感じます。」
「そうだよ。私の村みたいに、いつロンバルト魔王国が攻めてくるかわからないから。」
確かに、ほとんどの人が何かしらの武器を携えている。女性までも武器を持っていた。すると、数人の兵士達がやって来た。
「お前達は魔族じゃないな! 怪しい奴らだ!」
オレは門兵から渡された証明書を見せた。
「そうか。お前達は善良と判断されたか。ならば自由に行動するがいい。」
「どういう意味ですか?」
「知らなかったのか? あの門兵はカルトンといってな、真理眼を持っているんだよ。善良かそうでないかを判断できるんだよ。」
「そうだったんですね。ありがとうございます。」
「人族は礼儀正しいんだな。」
オレ達は街中を散策した。食堂はある。服屋も武器屋もあった。人族の街と同じように様々な店があった。だが、一つだけないものがあった。宿屋だ。
「今日どこに泊まるの?」
「やっぱりあそこがいいにゃ!」
「はい。私もミレイさんに賛成です。」
「でもな~!」
「ケン兄! 今更だよ! もう、クルミちゃんもケン兄の凄さを見てるんだからさ~。」
「わかったよ。なら、亜空間の家に行くか!」
「やったー! お風呂だー!」
クルミは何のことかわからないで戸惑っている。オレ達は人目に付かないように家の陰に行った。そして、亜空間の扉を出した。
「ケンお兄ちゃん。これは何?」
「クルミちゃん! 今からいいところに行けるからね!」
「いいところ?」
オレが先に入る。続いて女性陣達が入って来た。クルミは目を丸くして驚いている。
「ここはどこなの? すっごくきれい! わ————い!」
クルミがはしゃいで草原を下って川の方に向かった。ミサキ達もそれに続く。そして、彼女達に気付いたウサギや野生動物達がその後に続いた。
「クルミちゃん。転ぶわよ!」
クルミは草原に横たわり、身体をくるくるとさせ始めた。
「ミサキお姉ちゃん。見たことのない動物さん達がいっぱいいるよ! ここはどこなの?」
「ここはケンが作り出した『世界』なのよ。」
「ケンお兄ちゃんが作ったの?」
「そうにゃ! ここにいる動物達もケンが創造したにゃ。」
「向こうの高い山もケン様がお創りになったんですよ。」
「川の中のお魚も、この『世界』のものはぜ~んぶケン兄が作ったんだよ! 凄いでしょ!」
「ケンお兄ちゃんって、やっぱり神様なんだね。」
「違うさ。少し魔法が得意なだけだよ。」
「ふ~ん。」
女性陣は草原で動物達と戯れていた。その隙にオレは家に戻り、クルミの部屋を創造した。
「みんな~! そろそろ食事にするよ~!」
「は~い!」
食事と聞いてミレイとドリエが真っ先にこっちに向かってきた。家に入ると、手を洗って自分の席に座る。
「クルミはそっちの席に座りな。」
クルミが席に座るとテーブルが顔の位置に来た。
「ちょっと待っててな。」
オレはクルミの椅子を高くなるように想像する。すると、丁度いい高さまで変化した。
「ケンお兄ちゃんすご~い! 今のも魔法?」
「まあね。」
夕食はハイオークの肉やメガロドンとクラーケンを使った豪勢な料理になった。当然、野菜サラダもオレが創造する。
「ケン兄。クルミちゃんのお部屋は?」
「もう作ってあるよ。」
「さすがケンにゃ!」
「食べたらみんなでクルミちゃんのお部屋を見に行きましょ!」
「賛成!」
食事のあと、全員でクルミの部屋を見に行った。基本的なつくりは他のみんなの部屋と同じにしてある。ただ、ベッドの布団はピンク色でパンダの模様が沢山ある。そして、寂しくないように、ベッドの上にはきゅうりを咥えた河童のぬいぐるみとペガサスのぬいぐるみが置いてあった。
「キャー! 可愛い! ここが私のお部屋なの?」
「そうだよ。自由に使っていいんだよ。」
「ケンお兄ちゃん! ありがとう!」
女性陣の冷たい目がオレを睨んでいる。
「ケン兄! ずる~い! なんでぬいぐるみがあるの?」
「私も欲しいです。ケン様。」
「僕も欲しいにゃ!」
「私もよ!」
「はいはい。なら一人ずつ、どんなものがいいか希望を言って!」
それからみんなの希望を聞いてぬいぐるみを創造した。その様子を不思議そうにクルミが見ている。
「ケンお兄ちゃんは何でも作れるの?」
「ああ。ただし、この空間の中にいるときだけだけどね。」
「なら、ケンお兄ちゃんはこの空間の創造神様なんだね。」
クルミの言葉にドキッとした。もしかしたら、今いる世界はあのじいさんが今のオレと同じように作ったのかなと思った。そんなことを考えていると、膝の上のリンがオレの顔をじっと見つめていた。
「さあ、みんな! お風呂に入って寝るよ。」
「ケンお兄ちゃんも一緒に入ろ!」
「ダメだから。普通は男と女は一緒には入らないから。」
「そうなの? お父様とお母様と私でいつも入ってたよ!」
「夫婦はいいの! オレ達はまだ夫婦じゃないから!」
女性陣の期待するような目がオレを見ている。
「そんな目をしてもダメだから! 早く入っちゃって!」
「は~い!」