武術大会個人戦(2)
オレが会場に行くと、全員がオレに注目している。オレが、団体戦で優勝した『ワールドジャスティス』のリーダーだと知られているから、当たり前の反応だが、なんかやりづらい。
「おい! あいつ本当にあのワールドジャスティスのリーダーか?」
「そうらしいが、なんか華奢だぜ! 顔なんか女みたいな顔してるじゃねえか。」
「夜だったら、可愛がってやるのにな。ハッハッハッ」
久しぶりに聞こえてくるオレの容姿への中傷。なんか、だんだんイライラしてきた。すると、自然と闘気が漏れ、会場内に熱い風が流れ込んできた。
「おい、どうしたんだ? 急に風が出てきたぜ!」
ここで審判からの声がかかる。
「始め!」
全員が一斉にオレの方を向くが、誰一人としてオレに向かってこない。それよりも全員の顔が青ざめている。オレの身体から闘気が溢れ、オレの身体を中心に熱風が流れていたのだ。
「お前ら、今、オレのことを何て言った? 女男とか言ってなかったか? かわいがってやるとか言ってなかったか?」
「い、い、言ってません!!!」
オレが手を向けると、オレの東側の男達が全員吹き飛んで壁に激突した。
「グギャ」
「ケ—————ン! 怒っちゃダメにゃ—————!!!」
ミレイの大きな声がオレの耳に入った。ふと冷静さを取り戻したオレは、我に返るとすでに他の戦士達も戦意を喪失している。
「俺、降りるから何もしないでくれよ!」
「俺も降りるよ!」
戦うことなく、全員が試合会場から降りてしまった。
“あ~あ、やっちゃった~!”
“マスターにはまだまだ精神的な修行が必要ですね!”
“悪かったよ。リン!”
オレが会場から出て行くと、ミレイ達がやって来た。
「ダメだよ。ケン兄! ケン兄が本気出したら、みんな死んじゃうよ!」
「そうよ。私、救護室に行ってあの人達に治癒魔法をかけてくるわ。」
「ごめん。ミサキ。頼むよ!」
「ケン様。そんなにきれいなお顔をしていて、どうしてそんなに気になさるんですか?」
「ダメだよ。ドリエ姉。ケン兄は自分の顔が気に入ってないんだから。」
「でも、ケン様の顔ってすごくかっこいいですし、まるでエリーヌ様を男性にしたような顔立ちじゃないですか。」
「ありがとう。ドリエ。」
ドリエに言われて気付いた。そうだ。オレの顔は女性的な顔だ。確かにオレの顔はエリーヌ様に似ているかもしれない。最初にエリーヌ様を見た時、地球の母親と間違えたぐらいだ。
「大丈夫だよ。もう、こんなことで怒らないから。リンにもすごく怒られたからさ。」
「僕はケンの顔が大好きにゃ!」
ミレイがオレの腕を掴んできた。励ましてくれてるんだろうが、すごく可愛く思えた。
「ミレイもありがとうな。」
オレ達は、ミサキが戻ってきた後、残りの試合を見ずに亜空間の家に帰った。オレが部屋で休んでいると、リンが少女の姿で現れた。
「マスター! マスターは以前と比べ物にならないほど強くなっています。闘気も魔力もすでに人間の域をはるかに超えています。」
「わかってるよ。リンが何を言いたいのか。今日、オレが怒ったことだろ?」
「そうです。あのままでしたら、あの男達ばかりでなく闘技場の全員が死んでいたでしょう。」
「悪かったよ。」
「これから先もあることです。もっと気を付けていただかないと。」
「わかったよ。」
「なら、もう寝ましょ!」
その日、オレはリンと手を繋いで寝た。そして、翌日、闘技場に行って団体戦の勝者を確認したが、予想通りだった。そうなると、決勝ラウンドの対戦相手が自然と決まった。第1試合はアントニウスとケリー、第2試合はカネロとアリウス、第3試合はオレとポンペイ、第4試合はイーサンとベンジャミンだ。
「おはようございます。ケン殿、それに皆さん。」
「おはよう。ケン。」
「おはようございます。アントニウスさん、ベンジャミンさん。」
「ケン殿とベンジャミンと別のパートで助かりましたよ。」
「何言ってるの! アントニウス! あのケリーって、相当強いわよ。それにカネロだっているでしょ!」
「まあな。だが、お前やケン殿よりはましだろうが。」
「まっ、そうかもね。でも、私はイーサンに勝ったらケンよ。ケン! お手柔らかにね。」
オレ達が話をしているのを、他の人間達は敵意のまなざしで見ている。オレは他の人間達に聞こえないように小声で言った。
「それよりも、2人ともカネロとイーサンには気を付けてくださいね。」
状況を知っているアントニウスさんは頷いているが、ベンジャミンは不思議そうな顔をしている。
「アントニウスさん! ベンジャミンさんにあの2人のことを伝えてないんですか?」
「ええ、確証がないですからね。下手に伝えて騒ぎにでもなったら、ベンジャミンが危険ですからね。」
「2人とも何のこと?」
「ベンジャミンさん。とにかく、カネロとイーサンは危険です。戦いの中で決して無理はしないでください。」
「わかったわ!」
そして、いよいよ決勝戦が始まる。アントニウスは自分の頬を叩いて気合を入れて、闘技場の中央に向かった。オレ達は全員で観客席に行った。
「ケン! アントニウスさん、勝てるかな~?」
「ケリーの本気を見てないから何とも言えないけど、アントニウスさんもそれなりに強いよ!」
「アントンちゃん頑張れ~!!!」
「アントニウスさ~ん! 頑張って下さ~い!」
隣でローザとドリエが大きな声で声援を送っている。
「始め!」