アルメデス王国に緊急帰還
オレとセザールさんは王城を出て、ミレイ達を探し始めた。見つけるのは簡単だ。彼女達の魔力を探せばいい。オレとセザールさんは彼女達の魔力を感じた場所に行くと、やっぱりそこは服屋だった。しばらく店の前で待っていると、両手に袋を下げたローザ達が出てきた。
「ケン兄。迎えに来てくれたんだ~。」
いきなりローザが抱き着いてくる。すると、ドリエがオレの後ろに抱きついてきた。
「オレの役目は終わったから、また、旅に出るよ。」
「本当? 今度はどこに行くの?」
「そうだな~。まだ行ってないのはエリーヌ聖教国だけだよな。」
するとミレイが言った。
「それは違うにゃ! 今わかっているのはユーラシ大陸とオセアン大陸にゃ! きっとわかっていない大陸もあるにゃ!」
「そうだよな~。後でマップで確認するよ。」
「なら、次はエリーヌ聖教国ですね。ケン様。」
そんな話をしていると緊急の通信が入った。水晶玉を取り出して相手を確認する。すると、ジョナサン国王だ。
「お久しぶりです。ジョナサン国王陛下。」
「おお、通じたか。久しぶりだな。そんなことよりもすぐに帰ってきてくれ! 大変なんだ!」
「わかりました。すぐに戻ります。」
オレが水晶玉を取り出して、ジョナサン国王と話をしたことが不思議だったのか、セザールさんが聞いてきた。
「ケン殿。それは一体なんですか?」
「ああ。通信の道具ですよ。オレが回った各国の人達に渡しているんです。困ったことがあったらすぐに連絡をくれるように。」
「なら、私もそれをいただけないか?」
「いいですよ。そのつもりでしたから。」
オレは水晶玉の使い方を説明して帰りの準備を始めた。すると、再びセザールさんが聞いてきた。
「ケン殿。ここからアルメデス王国の王都までは馬車でも2か月はかかりますよ。『すぐに帰る』って、どうやって帰るんですか?」
「セザールさん。ケン兄は『転移魔法』を使えるから一瞬よ! ねッ!」
「そういうことですので! では、また来ますね!」
「えっ?!」
セザールさんが驚いていたようだが、オレ達はアルメデス王国の王城に転移で戻って来た。
「懐かしいわ~!」
「ミサキ姉。まだ、懐かしむほど時間が経ってないよ!」
「確かにローザの言う通りにゃ!」
ミサキの顔が赤くなった。すると、オレ達を見つけた兵士が声をかけてきた。
「ダンデライオン伯爵様。お戻りでしたか。すぐに会議室にお越しください。」
オレ達が会議室行くと、ジョナサン国王とジミー公爵、それに数人ほどの貴族がいた。オレ達が部屋に入ると、全員が一斉にこっちを見た。
「国王陛下。ジミー公爵。お久しぶりです。」
「おお。帰って来たか。伯爵もみんなも元気そうで何よりだ。」
「ケン殿もみんなも成長したようだな。なんか一回り大きくなった気がするよ。」
「ええ。もう半年以上経ちますから。」
なんかローザとドリエが嬉しそうだ。
「みんな席についてくれ。丁度、相談していたところだ。」
「お父様。何があったんですか?」
「そうだな。では、ジミー。説明してやってくれ!」
「はい。」
ジミー公爵によると、セリーヌ聖教国から冒険者パーティー『ワールドジャスティス』を武術大会へ参加させて欲しいと要請が来たようだ。セリーヌ聖教国には聖騎士と呼ばれる兵士達がいる。この聖騎士は神の兵として、世界最強と言われているのだ。ところが、『ワールドジャスティス』がブラジロン帝国軍を打ち破ったり、魔族を討伐したりと名声がセリーヌ聖教国にまで届いた。そこで、教皇パルロが、是非に『ワールドジャスティス』を武術大会に参加させて欲しいということになったようだ。
「どうだろうか? 伯爵よ。行ってくれるか?」
「構いませんが、他に何か問題でも?」
「実はな、この国や他の国ではエリーヌ様を最高神として崇め、それ以外の武神様、魔法神様、生命神様、農業神様、商業神様、冥府神様、転生神様も七大神として崇めているのだ。ところが、エリーヌ聖教国ではエリーヌ様以外は認めていないのだ。」
「それが何か?」
「伯爵よ。わからんか。戦闘能力の高い『ワールドジャスティス』は邪神の使いではないかと疑っておるんだよ。」
「そうなんですか~。何か悲しいな~。」
「ケン。仕方ないわよ。」
「こっちから乗り込んで証明するにゃ!」
「わたしもミレイ姉に賛成!」
「私もです! なんか悔しいです!」
「なら、みんなで行こうか。行って証明すればいいさ。」
「そうか。行ってくれるか。ならば、すぐに使いを送ろう。」
その場にいた貴族達の安心したようだ。アルメデス王国は大国だ。だが、もしエリーヌ聖教国と戦争にでもなったら、大勢の犠牲者が出ることになる。それだけは避けなければいけない。そんな思いがあったようだ。
「では、一旦これで解散にしよう。皆の者ご苦労であった。」
「ハッ」
全員が会議室から退場した。オレ達は執事に応接室に案内された。しばらくすると、ジミー公爵とジョナサン国王がやって来た。オレ達は、席を立って挨拶をした。
「そのままでよい。それよりも旅の話を聞かせてくれないか。」
オレ達はオリント共和国の話やカナリカ王国の話をした。その都度、国王は頷いている。その間、ジミー公爵はひたすらメモを取っていた。さすがこの国の宰相だ。
「では、オリント共和国の国民議会議長のスチュワート殿や、カナリカ王国のアレックス国王とも親交が深まったということか。」
「はい。そうなりますね。」
「だとすると、世界中でエリーヌ聖教国の教皇以外はすべて友好関係ができそうだな。」
ここで、ミレイが発言する。
「デビロット大陸の魔族はまだにゃ。それに、知らない大陸や国があるかもしれないにゃ。」
「ミレイの言う通りです。それに、デビロット大陸の魔族は一つの国なんでしょうか?」
「それは分からん。なにせ、あの大陸に入ったことがあるものがいないからな。」
ここでジミー公爵が不思議そうに聞いてきた。
「ケン殿。どうしてそう思ったんですか?」
「実は、カナリカ王国で魔族と遭遇したんですが、その時の魔族が『お前も魔王なのか』って聞いてきたんですよね。つまり、魔王は一人じゃないんじゃないかって思うんです。そうなると、魔族もいくつかの国があるのかなって思たんです。」
「確かにな。伯爵の言う通りかもしれんな。だが、基本的に魔族は人間の敵だ。太古の昔にも、魔族と魔族以外の者達との間で大きな戦いがあったと言われているからな。」
「その戦いを終わらせたのは古代竜様ですよね?」
ドリエが珍しく発言した。
「伝説ではそうなっておるな。」
ここで話が一段落した。時間も夕方近くなって来たので、その日は国王の家族と王城で夕食をいただくことにした。国王陛下と王妃、それに第1皇子も交えてみんなで食事をした。そして、久しぶりに王都の屋敷に戻ると、屋敷はオレ達がいた時と少しも変わっていなかった。
「お帰りなさいませ。伯爵様。」
執事のエイジとメイド達が出迎えてくれた。
「みんなも元気で何よりだ。」
屋敷を維持するためのお金が心配だったので、エイジに話を聞くと、毎月王城から伯爵位の手当てが出ているそうだ。ほとんど使っていないので、白金貨が凄いことになっていた。オレはエイジとメイド達を集めて言った。
「エイジもみんなも好きなものを買っていいんだよ。たまには交代で休んで、街にでも行って遊んできなよ。」
「もったいないお言葉です。」
「お金ってさ。溜めるだけじゃダメなんだよ。使ってはじめてその価値があるからさ。だから、自分たちのために使うように。これは命令だから。」
「畏まりました。では、そうさせていただきます。」