王都ナイビアに向かう(1)
兵士達の実践訓練を終えて、続々と訓練場に戻ってくる。オレ達が戻ると、すでに他のメンバーは全員戻っていた。
「ケン兄。遅かったね。ケン兄が一番早いと思っていたのに!」
「何かあったんですか? ケン様。」
「ケン。コカトリスに苦戦したの?」
「早くコカトリスの肉を食べるにゃ!」
実戦訓練が終わったばかりだというのに、我が女性陣は元気だ。
「違うから。コカトリスはいなかったから。それより、魔族がいたんだよ。」
「魔族がいたの?!」
「そうさ。」
「どんな奴だった?」
「エルトナとか言っていたよ。なんか魔王ロンバルトの部下だって言ってた。」
「それでどうしたの? ケン兄!」
「オレが少しだけ本気出したら逃げようとしたんだ。」
「やっぱりですね。ケン様の強さを見たら逃げたくなりますよ。」
「それでどうしたの? ケン。」
「ああ。逃げようとしたら、魔王の声が聞こえて、エルトナの身体が爆発したんだ。」
「酷いにゃ! 魔王は自分の仲間を殺したにゃ!」
「それが魔族の掟かもしれませんね。」
その日は全員が自宅に戻って、翌日昼食会が開かれることになった。オレ達も亜空間の家に戻ることにした。
“リン。この地域に魔族がいたってことはオーブがあるのかな~?”
“そうとも限らないと思います。今回は魔物の実験に便利なこの地域を選んだ可能性もあります。”
“どうして便利なの?”
“この地域は魔素が濃く、魔物が発生しやすいからです。”
”なるほどね。しかも巨大化しやすいってことね。“
“そういうことです。”
翌日、オレ達はお昼ごろまで亜空間の家で寛いで、それからセザールさんの家に向かった。そこにはマーカスさんもいて、一緒に訓練場に向かうことになった。訓練場に到着すると、訓練場にはテーブルと椅子が並べられ、すでに大量の料理が用意されていた。後ろから『ゴクリ』という音が聞こえる。振り向くと、ミレイの口から涎が垂れそうになっている。
「諸君。厳しい訓練ご苦労であった。あらためて『ワールドジャスティス』の皆さんにお礼を言おう。『ありがとうございました!』」
『ありがとうございました!』
「今日は、無礼講だ。心行くまで飲んで食べてくれ! その前にケン殿からひと言!」
「皆さん。厳しい訓練、お疲れ様でした。皆さんは自分で考えているより強くなっています。ですから、無暗に人を傷つけないでください。皆さんのその力は、世界の平和のために使ってください。」
「パチパチパチ・・・・・」
「では、食べようではないか!」
「おお———————!!!」
さすがに無礼講だ。ミレイ達女性陣は兵士達から大人気だ。次から次へと話しかけてくる。3時間ほどして、みんなのお腹が一杯になったころ王都から使者がやって来た。『ワールドジャスティス』全員とセザールさんが王城に招かれたのだ。
「どうするの? ケン。」
「行くしかないだろ。他の国の中心人物達と知り合いになったんだから、この国だけ除くってわけにはいかないよ。」
「なら、王都に行くにゃ。ここの王都は何が美味しいのかにゃ?」
「ミレイ姉は食べることばっかりね。」
「食べる子は育つにゃ!」
ミレイは強調するように立派な胸を前に出した。ローザとドリエが羨ましそうに見ている。
「ローザとドリエは今のままで十分可愛いさ。」
「私は? ケン!」
「ミレイもミサキも可愛いよ。」
そんな話をしていると、セザールさんが声をかけてきた。
「明朝、私の馬車で王都に向かいましょう。王都までは3日ほどかかりますので、そのつもりでお願いします。」
セザールさんが何を言いたいのか理解できた。どうやら、オレの亜空間の家に泊まりたいようだ。そして、翌朝、オレ達はセザールさんの馬車で王都ナイビアに向かった。ナイビアに行く途中にはいくつか街がある。最初はファッションの街オダヤ、次が農業の街ウオマヌ、そして定期的に市場が開かれるキュウカマチの順だ。
「そろそろ最初の街オダヤに到着しますよ。」
セザールさんの屋敷を出てすでに半日が過ぎている。さすがに街道沿いには魔物も出ない。退屈な時間を過ごした。街に入ると、あちらこちらに服屋が並んでいる。女性陣の目つきが変わった。
「ねえ。ケン。この街に1泊するんでしょ? なら、私達服屋を回りたい。」
「ケン兄。魔法袋を貸して! あとお金も!」
「わかったよ。なら、宿に着いたらね。」
「えっ?! 宿ですか?」
セザールさんが驚いた様子だ。
「ええ、そうですよ。セザールさんから頂いたお金をたくさん使って、この国の経済を活性化しないといけないんで。」
「そんな~!」
「大丈夫ですよ。最後の日には亜空間の家に泊まりますから。」
オレの言葉でセザールさんは納得したようだ。宿に着いてから、夕食までの時間、一旦解散することになった。女性陣は服屋を回るようだ。オレは建物の陰に入ってから飛翔して、リンと一緒にこの街で一番高い塔の上にいる。
“ここからはいい景色だな~!”
“そうですね。マスターと2人きりなんて久しぶりです。”
“リンは衣装は買わないの?”
“私は必要ありませんから。”
“そんなことないよ。少女の姿の時は着るだろ?”
“私はマスターと同じで自分で創造できますから。”
“そういうことね。それでいつも可愛いんだ。”
“えっ?! 私の服、可愛いですか?”
“ああ。良く似合ってるよ。でも、以前話したと思うけど、なんかリンといると昔にも同じようなことがあった気がするんだよな~。”
“気のせいですよ。それより、あそこにミレイ達がいますよ。”
“本当だ。ミレイの奴、屋台で買い食いしてるな。”
オレはいたずらした。ミレイが大きな口で肉串を食べようとした瞬間、肉串を自分の手元に転送した。食べようとした肉串が突然無くなったことに、ミレイが慌てている。
“マスター! 可哀そうですよ。”
しょうがないので、再びミレイの手に戻した。今度は突然肉串を持っていることに、再び大慌てだ。
“ハッハッハッ”
“まったく! マスターは悪戯好きですね!”
しばらく上から街の様子を眺めていた。平和な街だ。セザールさんが言う通り、この国では犯罪や争いは無縁のものかもしれない。しばらくして、オレはリンと宿に戻った。そこで、セザールさんに気になっていることを聞いた。
「セザールさん。この国には、隣国のオリント共和国の元王妃とその子ども達が避難していると聞いたんですが。」
「ああ。シャルネット様のことですね。この国の現国王アレックス様の姉なんですよ。不運な女性です。」
「どういう意味ですか?」
「オリント共和国の前の国王オスラの横暴ぶりはこの国にも聞こえていました。ですが、戦争を避けるため、シャルネット様はオスラのもとに嫁いだのです。」
「もしかして、政略結婚ですか?」
「はい。半ば人質のような扱いだったと聞いています。」
「でも、今は幸せなんですよね。」
「王都に屋敷を与えられて、子ども2人と静かに暮らしていると聞きましたが。」
「なら良かったです。」
「でも、どうしてケン殿が心配されてるんですか?」
「オリント共和国の議長のスチュワートさんが心配していましたから。」
「ケン殿はオリント共和国の議長ともお知り合いだったのですか? もしかして、先だってオリント共和国内で反乱軍が鎮圧されたという事件がありましたが、それに関わっておいでなんですか?」
「ええ。まあ。ただ、反乱軍を鎮圧したと言っても、魔族に洗脳されていた人たちの洗脳を解いただけですけどね。」
「ケン殿は様々な国の平和に貢献してるんですね。」
「それがオレの役目だと思っていますから。」
「やはり、神の使徒としてですか?」
「そんなんじゃありませんよ。この与えられた力を、人々の役に立たせたいと思ってるだけですから。」
そんな話をしていると女性陣が帰って来た。全員の荷物をオレの空間収納に仕舞って、全員で食事をした後、それぞれの部屋で休んだ。最近、女性達がオレのベッドに来ない。少し寂しく感じる。だが、その代わり、少女姿のリンが隣で寝ている。
雷がごろごろなってるにゃ!
ミレイ姉! なんで胸を抑えてるの?
雷様に取られないようにするにゃ!
それって、おへそでしょ!