古民家のゴースト
みんなが食べ終わった後、ミレイ達女性陣が子ども達と一緒に後片付けを始めた。オレはリンと一緒にグランデさんの部屋に行った。
「グランデさん。オレに話って何ですか?」
すると、グランデさんがいきなりオレ達に跪いた。
「どうしたんですか?」
「ケン様は神でいらっしゃいますよね? それに、そこの子犬は神獣のフェンリルですよね?」
困ってしまった。オレはいまだに自分のことがよくわからない。だから、正直に答えることにした。
「オレは自分が何者か知らないんですよ。創造神様もエリーヌ様も教えてくれないんで。でも、確かにリンはフェンリルですよ。でも、本当は・・・」
オレが言いかけた瞬間、リンがお犬の姿から大天使ナルーシャの姿に変化した。
「グランデ。久しぶりね。」
「ナルーシャ様!」
「地上での修行はどう?」
「思っていたより大変です。でも、子ども達の笑顔が好きですから。」
「そう。ならよかったわ。私のこともマスターのこともみんなには秘密よ。」
「はい。承知しました。ですが、やはりケン様は・・・」
「それ以上はよしなさい!」
「はい。」
グランデさんが何か言いかけたが、リンがそれを止めた。オレに聞かれたら困ることでもあるのだろうか。オレ達が、みんなのところに戻ると空が薄暗くなっていた。
「みんな。そろそろだよ。準備はいいか?」
「ばっちりよ。」
「僕もOKにゃ!」
「なら、古民家に行こうか!」
「うん。」
オレ達は教会の近くの古民家に向かった。林の中を歩いて10分のところに古民家があった。
「なんか薄気味悪いわね。」
「もしかして、ミサキ姉は怖いの?」
「ローザちゃんは怖くないの?」
「どうして怖いの?」
「幽霊がいるかもしれないからにゃ!」
「私は怖くはないですよ。ケン様がいますから。」
ドリエがニコニコしながらオレを見た。地球にいた時のオレなら怖かっただろう。だが、転生時の修行で行かされたあの洞窟の中に比べれば、特に怖いとは思わない。
「ミサキ! オレの近くにおいで!」
オレはミサキの手を握った。
「大丈夫さ。ミサキは光魔法が使えるだろう? なら、死霊系の魔物が出てきても浄化できるから。」
「そうよね。光魔法で浄化すればいいのよね。」
ミサキが少し吹っ切れたようだ。にもかかわらず、手は握ったままだ。
「なら、家の中に入るよ。」
オレ達は警戒しながら家の中に入った。長い事放置されたらしく埃だらけだ。ところどころ壁が崩れている。床もいつ壊れてもおかしくない状態だった。
「ケン。この建物、地下があるにゃ。」
確かにミレイが言う通り、歩いていると下に空洞があるような音がする。だが、どこにも地下への入り口がない。そんなことを気にしながら歩いていると、突然ミサキが悲鳴を上げてオレに抱きついてきた。
「キャー」
「どうした? 何かいたのか?」
「あそこに白いものが動いてる!」
ローザが薄汚れたカーテンから顔を出した。どうやら、ローザのいたずらのようだ。
「ひどい! ローザちゃん!」
「ごめん。そんなに驚くと思ってなかった! でも、ケン兄に抱きつけたからいいよね!」
「もう! やめてよね!」
「わかった~!」
オレ達は階段を上がって2階の部屋に向かった。すると、再びミサキが悲鳴を上げてオレに抱きついた。
「キャー」
「どうした?」
「ローザちゃん! そこにいるのは分かってるのよ!」
「えっ?! 私じゃないよ!」
「えっ?! なら、あの白いのは何よ!」
指さすミサキの手が小刻みに震えている。どうやら本物のゴーストのようだ。何か訴えているように感じた。ミサキが光魔法で浄化しようとしたので、オレがそれを止めた。
「ミサキ。ちょっと待って!」
オレはゴーストの近くまで行った。ゴーストはオレに警戒することもなく、その場でオレ達を見ていた。
「お前、自分が死んだことを自覚してるのか?」
「ええ。わかってるわ。」
「どうして、こんなところにいるんだ? 成仏できないのか?」
「両親を待ってるの!」
「お前の両親も死んだのか?」
「うん。私と一緒に殺されたもん。」
「殺された? 誰に?」
「この家の主。この家の主は研究者で、不老不死の研究をしてたみたい。何人も殺されたわ。」
「家の主っていうのはどうしたのさ?」
「死んだわ。死んでリッチになって、死んだ後も私達を苦しめてるの。私は両親が逃がしてくれたけど。」
「他の死んだ人達はどこにいるんだ?」
「この家の地下よ。」
「なら、オレ達が何とかするよ!」
「あなた達が?」
「そうさ。」
少女は不安そうな顔でオレ達を見た。そこで、オレは念話で話しかけた。
“オレはエリーヌ様からこの世界を頼まれてるんだ。安心して待ってていいよ。”
“えっ?! あなたは天使様なの? それとも使徒様なの?”
“どっちでもないさ。”
少女の頬に涙が流れた。
「さあ、みんな行くよ。」
「うん。」