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第9話 ロクな服が無い。

 2日前と同じ時間帯に沙希は俺の家へ来た。

 沙希を迎え入れて玄関の扉を閉め、沙希が荷物を置く前にまず抱きしめる。


「ちょっ、ちょっと!?玲?一体どうしたのよ?」


 あの日まるで効力を発揮しなかったイケメンの俺が急に抱きしめたから、沙希は顔を真っ赤にして動揺してしまい固まっていた。

 何がしたいのか?当然、上書き保存したかったんだ。逃げ場を失い、まるで冷たい機械に抱きしめられた……あの感触を、すぐにでも忘れたかった。ちょっと違う感情もムラムラと込み上がってくるが、沙希の反応は満点だった。


「ありがとう。俺は君に救われたんだ。沙希が居なかったら俺はココに居ない。本当にありがとう。」


 ムラムラを自制し、色々バレないように抱きしめていたのをやめて、感謝した。


「そして、ごめん。俺は昨日別の女性とも付き合う事になったんだ。」


 そして、謝った。


「え?……はぁ!?」


 沙希はビックリして、買い物の荷物をその場に落としていた。


 荷物を片付けながら、昼食の用意をする予定をやめて、俺と沙希はベッドに腰掛けながら話す。昨日の出来事を。いや昨日だけじゃなく、始まりの出会いイベントの事も。


「そういえば、愚痴っていた友人が言っていたわね。玲だけは主人公以外に彼女まで出来るって。」


 ああ。良かった。知っていてくれた。


「その通りなんだ。基本的にどのルートを通っても俺は主人公の親友の彼氏役になる。最終的には親友が俺を主人公に譲渡するんだけどね。それ以外の選択肢を俺は知らない。あまり詳しくないから確証は無いし、もしかしたら別のルートがあったとしても、もう遅いんだ。」


「そして、出会いイベントで歪めたはずなのに、それすら無かった事のように告白イベントが始まって、更に断るルートが存在しなかったのね。」


「そうなんだ。沙希。ごめん。完全に二股になってしまった。」


「そう……でも、そうね。ありがとう、玲。私の為なのね。

貴方の世界は設定や選択肢で支配されている。それなら並列している私の世界も同様の可能性が高いのね?だから、黙っている訳にもいかずに、こうして話してくれたのね。」


 沙希は俺の思惑をほぼ全て理解してくれた。


「本当にありがとう。」


 だから、小さな謝罪と大きな感謝を込めて、沙希に頭を下げる。


「フフッ。でも貸しにしてあげるわ。ちゃんといつか返してよね?」


「任せてくれ。沙希の為なら何だってするさ。」


 抱きしめて耳元で囁くと、またもや顔を赤らめて今度は抵抗し引き剥がされた。


「もう!……色んな事があった割には……玲って、玲を使いこなしてるわよね?」


「そうか?見た目の変化はあまり気にしてないけど、もしそうなら多分、声が違うのが大きいのかもね。この声なら甘い言葉も抵抗なくスラスラ言えるんだ。特に恥ずかしい気持ちも無いし、寧ろ落ち着いているかもしれない。」


「乙女ゲームですものね。玲の設定がそうなってるのだわ。」


 なるほど。俺も俺で縛られているのか。


「でもこれで、私の方も色々と考えないといけないという事が分かったわ。確かに同じなのでしょうね。今までの私の経験からもその可能性が高いと思うわ。」


「ああ。沙希のあの回避方法ひとつにしても、相手が設定キャラならば、まるで意味を持たないだろうね。」


 例え襲われる前に非処女になったとしても、そんな事など関係無く、処女として進行・展開し問答無用で襲われるはずだ。


 だけど、その可能性は無さそうだと思った。

 恐らく沙希の世界も同じで、主人公は姫野と同じであるはずだと根拠は無かったが何故か確信していた。しかし、だからと言って確認しないのも問題だ。


 知るのが……気づくのが……遅れて酷い目に合うのは沙希自身なのだから。アダルトゲームなのだから、酷い目の度合いが、俺の比じゃないんだ。


「沙希。俺も昨日、自分のルートを細かく確認していたが、君も絶対した方が良い。特に君は寮母だから、周りが絡むイベントも多いはず。中々に動きづらいかもしれないんだ。」


「そうね。そして、チャンスがあれば見極めるのね?」


 沙希の中身は頭が良い人で助かる。

 無言で頷くと、ニヤリとした顔でこちらを見た。ただでさえ色気が盛り過ぎなのだから、そういう顔はやめて欲しい。


「フフッ。あるわよ。しょうもないイベントだけれど……来週の水曜日にケダモノとしか接触しない、おあつらえ向きのがね。」


 聞けば、沙希が洗濯物を干していたら突風が吹いて、沙希のパンティだけが飛ばされ、それを主人公の式条が拾うイベントだった。


 本当にしょうもねぇが、それをどう変化つけ見極めるか?



 そうだ!……閃いた!


 おもむろに立ち上がりクローゼットで色々と漁りだし、目的の物を見つけた!


「沙希。そのパンティだけど、これと差し替えたらどうだろう?」


「ブッ。玲!?貴方、普段からコレ履いてるの?」


 沙希に渡したのは俺のパンツ。見ようによっては女性物に近い、男物Tバックだ。


「履くわけないだろ?変態じゃないか!

というかクローゼットの服ラインナップは沙希だって同じなんじゃない?俺の普段着は全然無いのに、なんか撮影用の衣装みたいなのは腐るほどあるんだ。それこそ際どいのとか、やたらと多くてほとんど着れないよ。」


「えー。それを今、言っちゃう?それに、私よりはマシじゃない!」


「あー。なるほど。沙希だもんね。1/4ぐらいはプレイ用衣装なのかな?」


「いいえ。1/2よ。ほぼ半分がそうなっていたわ。」


「ゴクリ……今度持ってきて、着て見せてくれない?」


「私は、玲が今コレを履いて欲しいわね。先程の貸しをココで使おうかしら?」


 欲望ダダ漏れでお願いしてみたら、沙希は俺が渡した男物Tバックをヒラヒラとは振りながら意地の悪い事を言ってきた。


「ごめんなさい。許してください。」


「馬鹿ね。」

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